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ダデン商店

グランシェル諸島の数ある港のうちの一つに彼女は降り立った。


「うぅ、寒い寒い。」


毛皮のコートを首元までしっかりと閉じ、短い白髪をフードで覆いながら酒場へと急ぐ。

寒くなってくるとホットワインや熱いスープが良く売れる。


グランシェル諸島は魚が捕れない日はないといわれる程に海流に恵まれており、真冬でも新鮮な魚が捕れる。


その魚介をふんだんに使ったスープをすすりながら、彼女、ポルンは聞き込みを開始する。


「こんにちは、漁師さんですか?」


分かり切ったことを聞く、発達した腕に日焼けした肌。

そしてこんな昼間から酒を飲んでいるのは朝の漁から帰ってきたばかりの漁師だからだろう。


「おう、どうした嬢ちゃん旅か?」


「そんなところです、魚介料理を食べる為に来たようなものですが。」


「そりゃグランシェルに来るほかないな!!」


がははと大笑いし酒をあおる、もうだいぶ出来上がっている。


「魚を買いたいと思っているんですが…ここら辺で一番品揃えが良いのはどこですかね?」


「あぁん?それなら…『ダデン商店』じゃねえかな?比較的最近できた店だが、あそこはたしかゴルド王国への輸出もしているから品揃えはいいはずだぜ、値段は弾むがな。」


「なるほど、ありがとうございます。

マスターこの方にお代わりを。」


「お、悪いね!!いいもんが買えるのを祈ってるぜ!!」


カウンターに硬貨を置き酒場を後にする。




「ダデン商店…。」


ポルンは今まで手に入れた情報を頭の中で整理する。





騎士団副団長から頼まれたあの日、一番最初に取り掛かったのはドラゴン襲撃事件があった日の集荷状況だ。


荷台は損傷が激しく、ご丁寧に本国にあるはずの貿易記録用紙がその日の分だけなかった。


この時点で誰かの手が入ったのは確実と言っても良い、だがこの記録用紙を閲覧するだけでも非常に大変だった。

教会の白服といった立場を示しても担当官や貿易大臣の許可が必要でそれだけで3日かかった。


そんな記録用紙をバレずにその日の記録だけ破棄できる者など限られる、もしかしたらポルンが動いたのを向こうは知っている可能性がある。


だが現場に残っていたという木箱が手掛かりとなった。


それは果実運搬用の木箱と違い、魚の生臭さと磯の香りがついていた。

獣人の信者にも確認してもらったので間違いない。


ゴルド王国が輸入している魚介物産の取引先は5件あり、そのうち3件はゴルド王国領地内の港だ。

残るは2件グランシェル諸島にある取引先。


(1件はシロだな…年に数回しか取引をしていない海洋魔物の希少部位だけを取り扱ってる老舗だ。

だけどこのダデン商店は比較的最近できた商店だから、一度調べる必要があるよね…。)



◇     ◇



「お頭、今月の売り上げです。」


グランシェル諸島の一角に店を構えているダデン商店、店とは言っても一般客が来るような店ではなく事務所みたいなものだ。


「うむ…先月より落ちたな。」


「はい、ドラゴン襲撃の事件の直後から少し便が減りまして。

ですが今月から元に戻りますので大丈夫かと。」


「そうか、まぁ細かいところは任せる。」


「あの…例の件は大丈夫でしょうでしょうか?」


お頭と呼ばれる人物の目の前で、図体に見合わずびくびくしている男は困ったような顔を向けていた。


「馬鹿かお前、停戦時に教会が掲げた条約の中に以前のような仕事をしないってあるだろ、それはつまりスパイ行為や情報収集行為などは出来ないって話だ。

今や教会は一般人が知ってるような布教やガキどもの保護・教育などしかできねぇよ。」


「そうなんですか…でも秘密裏に動くってことも可能では…?」


「そんなことしてみろ、魔王国との条約違反で戦争が起こるわ。

今のゴルド王国に戦争出来る戦力なんてねぇよ、軍も無いし兵士はほとんど旅人か冒険者、ひどいのは山賊にまでなり下がってやがる。」


ゴルド王国と魔王国間では終戦時にお互いの軍を縮小する事を条件に和平を結んだ。


「まぁ、俺らは向こうさんの荷物を運ぶだけだ。

ゴルド王国も怖くねぇ、安定こそしているが冒険者協会しか無い国だ。

魔物が居なくなれば冒険者も必要なくなる、そうなればあの国もおしまいだな。」


「魔物が居なくなることなんてあるんですか?」


「知らん、だが年々数は減っているらしいな。」


「俺らも用心棒とか雇わないんすか?」


「あからさますぎるだろ、このタイミングで雇ってみろよ。

何か隠そうとしてるみたいに見えるぜ、こういうのはいつもと変わらずに平常を装うんだよ。」


「はぁ、なるほど。」



その会話を盗み聞きしていた人物はゆっくりと屋根裏を移動する。


教会に入った頃はずっと掃除したり聖書を読んだり子供たちに字の読み書きを教えていた。


だが数年たったころ白服の1人に呼び出された、その時は白服なんてめったにお目に掛かれない存在だったし話しかけられるだけで心臓がバクバクしたのを覚えている。


だが白服になれと言われた時には逆に冷静だった、いや頭に入ってこなかっただけかもしれない。


白服になる覚悟ができたのは2日後だった、そのことを報告した昼からポルンの人生は変わった。


基礎体力をつける為に毎朝王都を3周走り、それが終われば体を休めている合間に座学。

そして十分に休んだら稽古、寝る前に光魔法で精神力を鍛える。


そして気絶して朝を迎える。

こうして彼女は白服序列12位の座についた。


ポルンは鍛えられた足腰で屋根裏を音もなく移動し別の部屋に侵入する。


もちろん床に着地する際もほとんど音はない。


机の引き出しには当然のように鍵がかかっていた。


「よかった、新しいタイプだ。」


ポーチから数本の細い金具を取り出しピッキングをする、古い錠だと複雑なものが多く大変だが新しいものは比較的開けやすい。


宝箱などには奇跡や魔法などで開けないといけないものもあるが、机の引き出しにそんな高価なものは使われない。

そうこうしているうちにカチャっと音が鳴り引き出しが開いた。


お目当てはドラゴン襲撃事件当日の取引履歴書だ。

もちろん破棄されている可能性は高い、だが高額なやり取りがあった場合不自然な金の動きがあるはずだ、それを探さねばならない。


正直先ほどの話しを聞いた限りだとほぼクロだろう、だが証拠を集め無ければならない。


もちろん教会に所属している白服の中には光魔法で自白させる事が出来る者もいる。

しかしそれは光魔法への抵抗が少ない者に限る、もし容疑者が魔族などと繋がっていて光魔法に抵抗する手段を知っていればたちまち無罪となるだろう。


やはりここは物的証拠が欲しい。


書類をかき分けていると素人でも見ただけでもわかる程の高級な封筒が出てきた。

装飾が施された動物の革の封筒は封が切られており、中には1通の手紙が入っていた。


「これは…読めない…何語だ?」


もちろんポルンは教育を受けており、共通語に獣人語、エルフ語が読み書きできる。

だが見たこともない言語で書かれた手紙を読むことはできなかった。


(どう見ても重要な書類…これ以外は普通の取引の控えだし怪しいものもない…。)


「だからよ~少し手間かもしれんが加工した魚の方が売れるって。」


「でもそれだと赤字じゃないですか?」


「その分個数売れれば結果的に黒字だろ。」


外から先ほど話していた2人の声が聞こえてきた。


(マズイ!!)


大慌てで引き出しを元に戻し鍵を閉める、だがその時にはもうすでに扉が開いていた。


先ほど話しをしていたお頭と目が合った


「…まぁそれはある程度今のが軌道に乗ってきたらの話だな。」


男は部下と別れ扉を閉める、机に向かう男性はポルンに一瞥もくれずに椅子に腰掛けた。



探し物をしている時など、目の前にあって視界に入っているのに気付かない現象がある。


人間が何か行動するときに無意識な思い込みにより、脳の処理が抑制されることがある。


ポルンは光魔法でその効果を増幅させ『目の前にいるのに認識できない』といった現象を起こした。


だがこのやり方も万能ではない、移動したり大きく動くと気付かれる確率が跳ね上がるし、もちろん声も音も出してはいけない。

更にポルンは1人にしかこの魔法をかけれない、もっと精密な光魔法を扱えるなら可能だろうが…。


「ふぅ。」


男は背後にポルンが居ることに気が付かないまま卓上の書類に何かを書き込んでいる、後ろから覗き込むが書いてる現語は共通語だ。


(やはり独自の言語を書いてる訳じゃない…つまりはこの手紙は他国からの?調べてみるか…。)


ポルンは男の後ろに立つとその後頭部に光の剣を突き刺した。





「あれっ?いつの間にか寝てしまってたか…。」


しばらくした後目覚めた男は、少し頭痛を覚えるも連日の疲れから気絶したように眠っていた。

実際は気絶していたのだが。


「今日は早めに帰るか…。」


男は自身の肩をもみながら呟いた。



◇     ◇     ◇  


ゴルド王国にて


教会本部から少し離れたところにある酒場、大通りから少し離れた路地の裏にあるこの酒場には数人しか客はおらず、嫁と喧嘩して家に帰りたくない者や騒がしいのが苦手な者などから親しまれてる。


そんなひっそりとした酒場にポルンはいた。


カウンターに腰掛け、あまり得意ではない酒を薄めて飲んでいる。

単独行動時は白服を着ずに私服で行動している、露店で買った深い緑のマントを羽織り動きやすいブーツ。


はたから見れば冒険者か旅人に見えるだろう。


その時、ポルンの隣に1人の女性が座った。


入店したときの扉の音や気配もなかった、入り口に背後を向けていたが警戒はしていた。

横に座られたポルンが驚く。


「蒸留酒なら何でもいい、濃いのをくれ。」


酒に焼かれたようなしわがれた声、低いハスキーボイスはポルンより少し高いところから聞こえた。


バーテンダーも少し驚いた表情をしたが女の声で平常を取り戻す


「…。」


バーテンダーが酒を造り始めた事を確認してポルンは女に封筒を渡す。


「…魔物の革封筒か、こりゃやっかいネタだな。」


「ちょっ!ちょっと!!声落としてください!!」


ポルンはこの女のこういうところが苦手だった、仮にも白服に所属しているのだから規約は守り周囲にばれないように行動するべきだと思っているポルンとは逆の行動をする。


なぜこんな人?が自分より位が高いのかが理解できない、白服は実力主義者だから彼女が優れているのは理解できるが心の奥底では納得できてないのだ。


白服序列5位 『バラモ・ヒトヴァ』


赤みがかった褐色肌に服の上からでも分かる筋肉質な肉体、同じ椅子に座っているのにカウンターが少し低そうなほどの高身長。


同じ組織に所属していてもポルンがバラモと会うのはこれで2回目だ。


とは言っても彼女はほとんど国内に居ない。

彼女も教会の創成期メンバーの一人であり、戦争の前線で活躍していた生粋の戦士だった。


そんな彼女に事務仕事をさせる事が出来る人物は教会内に居ないのだ、故に彼女は国内外問わず魔物の討伐、犯罪者の追跡などのような冒険者まがいな事をしている。


「ふ~ん…これを私に持ってくるって事はさ、つまりそうゆう事だよね?」


「この件、上は手出しできませんので。」


「私もその上に入ると思うけど?」


「ルーシーさんにバラモさんは例外だから暴力として使うのが一番良いとお聞きしました。」


「…ふふっ。」


カウンターに出された蒸留酒を煽るバラモ。

ふぅ、とついたため息に乗って香る強烈な酒の匂いにポルンは顔をしかめる。


「いいよ、やろうか。

最近なまってんだよ、魔族あたりと一発ヤりたいんだよね。」


「問題発言しかできないんですか?」


「慣れて。」


「はぁ。」


「じゃあ計画を聞きたいな。」


そう言うとバラモは2杯目を頼んだ。



◇     ◇     ◇



数日後…。


まだ日が昇り切っていない朝の海は大気と水温の温度差で湯気が立っており幻想的な風景を作り出していた。


そんなグランシェル諸島の港町の一角、ダデン商店はいつもより慌ただしかった。


「これどうしましょう!!??」


「置いていけそんなもの!!顧客手帳とかそういうのをまとめろ!!」


「いてぇ!!前見ろボケ!!」


ドタバタと走り回る手下の中に今にも暴れそうな程イライラしている男の姿があった。


「お頭!お頭だけでも先に!」


「ねぇんだよ!!引き出しの中に絶対入れたはずなのにっ!!」


机から引き出しを引っこ抜き床に書類をばらまく、だが探しても無いものはない。


こんなにも慌ててるのは真夜中の訪問者からの知らせを受けたからだ。


『気づかれた、証拠を持って逃げろ。』


たったこれだけを言いに来た訪問者は、真っ黒なフードを被り、姿はわからなかったらしい。


「くそっ、マジで無い…。」


「お頭!! 騎士が来てるっ!!」


「お前ら時間を稼げ!!捕まるとしたら俺だけだ!捕まってもとぼけろ!!」


書類がぎちぎちに詰まったトランクを抱きかかえ裏口へと向かう、裏港まで行かば部下がボートを用意してる、それに乗ってジュゲ大密林まで逃げれば安心だ。


そこには他国からの干渉を受けない小さな獣人の同盟国とエルフの国がある。

エルフの国は無理だが獣人の同盟国ならまだやり直せる。


大慌てで裏口から出て裏港へと向かう。


後ろからガラスの割れる音が聞こえた、恐らくグランシェル騎士団が突入してきたのだろう。

叫び声や怒鳴り声が聞こえるが、だんだんそれも聞こえなくなってきた、男は自分でもこんなに走れたのかと驚いている。


島の反対まで行くのが億劫に感じた島民が掘ったトンネルがある、そこを抜けると目的地までもうすぐだ。


「おはよう。」


だがちょうど真ん中あたりで1本道のトンネルを塞ぐように立ちはばかる女が居た。

バラモだ。


「急いでどこに行くんだ?重そうな鞄だな、持ってやるよ。」


「女に荷物は持たせられんな…。」


「そうか…どうする?抵抗するか、おとなしく捕まるか。

個人的には少しは抵抗してほしいんだけども…。」


道幅は馬車が通れそうなほどに広く作られてはいる。

余裕で横を通り抜けられそうな幅はあるもののそれはできないと直感でわかる。


「じゃ…なんだっけ?お縄についてもらおうか…ん?」


バラモが1歩前に出たところで男の背後にもう1人影があるのに気が付いた。


「…誰だ?」


「気付かれたか。」


男の背後からぬるっと出てきたのはフードを被った黒い衣服の男性


「うわっ誰だお前!!」


「説明してる暇はない、ここは俺に任せて先に行け。」


「だが…。」


「行け。」


圧のある言葉に男は怯えながらもバラモの横を走り抜けていく。


一方のバラモは黒ずくめの男から目を離せないでいた。


「ものすごい殺気だな、あの男の仲間って事でいいのかな?」


「…。」


黒ずくめの男は無言で剣を抜き構える。


(うーん、話し合わないタイプか。)


バラモも腰にぶら下げた双手斧を抜く。


男が踏み込んだ、かなり間合いがあったがそれも一瞬で無くなる。


「なんだ、私が構えるまで待ってくれていたのか?優しいな。」


「チッ。」


斧の腹で初撃を受け止め、横に流す。

だが男もただでは流されない、すぐさま剣を引き2撃目へと移行する。


だがバラモはその動きを見越していたかのように距離を詰め懐に入る。


服を掴み、地面に叩きつける。


舗装されてないとは言え固い岩の地面に大きなひびが入り天井からパラパラと破片が落ちてくるほどの激しい衝撃がトンネルに轟いた。


「なんという力。」


「ありゃ、逃げられちゃったな。」


地面にめり込んだ拳を引き抜くバラモと少し離れた位置に受け身を取る男。

地面には男が着ていたフードが埋められていた。


「おっ…魔族か、久々に見たな。」


「…。」


フードを取られた男はその姿をあらわにした。


全身を覆う緑色の鱗のような皮膚、顔は爬虫類のそれに近く大きい目は蛇を彷彿とさせる。

足も逆関節となっており、その顔が仮面や作り物でない事を証明している。


「リザードマン系か…リザードマンにしては尾がないしマズルも短い、大戦でよく見た魔族だな。」


「貴様も大戦の生き残りか。」


「まぁね、その口ぶりからするとやっぱり今回の裏で動いているのは魔王国?」


「....少々しゃべりすぎたな。」


「いやいや、全然喋ってないじゃんっておっ!!」


とっさの投げナイフを弾き距離を詰めようとするが、魔族の男が口を大きく開けてこちらに向けているのが見えた。


(ブレス!?)


トカゲの様な見た目をしていたが実はドラゴンの魔族の可能性が脳裏によぎり回避行動をとる。


だが予想とは裏腹に吐き出されたのは霧状の物だった。


(毒か!?)


霧は緑から濃い紫へと変色し視界を遮る。

魔族が背中を見せて逃げようとする姿が見えた。


「逃がすかっ!」


後を追おうとするバラモだったが毒霧が行く手を阻む。

少し皮膚に触れた毒が肌を焼き激痛が走る。


「いって~、マジかこの毒はヤバいな。」


いつまでもその場に滞留している毒霧は何か魔術的なものにも感じ取れた。


「取り逃したのは大きいけど、本来はあのお頭くんだけの話だったしイレギュラーって事でいいか。」



書類を持って逃げた男の方へと歩きながら考え事をする。


(やはり魔族からしてみればそこまでして助ける道理はなかったのか、少し時間を稼いだらすぐに逃げた。

ここで本気でやり合うつもりはなかったんだろうな、でもこれで魔族が関わっていることは確定だし、後の事は難しいことを考えるのが得意な人らに任せればいいでしょ。)


バラモは正直、国同士のいざこざはよくわからない、しかしそういう揉め事が起こると必ずバラモの力が必要になる事態が少なからず起こる。


最近は退屈していた、強い魔物も滅多にいないし遠くまで戦いに行くことは教会の監視の目が届かない故に許可されない。

もう少し体が動かせる環境が欲しいと思っていたのだ。


(これってさ、つまりはチャンスなんじゃないか?

魔族が関わっていることは確定でしょ?どういう話なのかぼんやりとしか知らないけど、このままいけばもっと暴れられる任務があるんじゃないかな?)


不意に笑みがこぼれる。

バラモの中に流れるオーガの血が騒ぐ。


(ふふ楽しみだな。)


いつの間にかトンネルから出ていたバラモ、彼女の目の前には麻縄でグルグル巻きにされたお頭が横たわっていた。


「あ、お疲れ様です。」


トランクの中を一通り漁り、必要な書類だけを抜き取っていたポルンと合流した。


「問題なし?」


「はい、そちらは?」


「魔族と交戦、少し毒に触れた。」


毒によってただれた腕を振りアピールする。


「えっ毒!?いやそれよりも魔族!?」


「大丈夫大丈夫、毒は問題ないからこのまま帰って調べてもらう、魔族は逃げちゃったけど…。」


「となるとほぼ確定ですね、ダデン商店は魔族と手を組み王国に密輸していた。」


「最終判断は上に任せちゃおう、さっさと撤収しよう、騎士団が来る。」


「そうですね。」


書類を懐に入れ痕跡を残さずに2人はその場を後にした。





◇     ◇     ◇     ◇





数日後、ルーシーの部屋に呼び出された2人。


「ちょっと上司の雑談というか、独り言に付き合ってほしいのだけども…。」


ルーシーは机に書類を当てて整える。


「えーっと、何だったかな、そうだ、まずはダデン商店について。

従業員のほとんどは何も知らないといったことで無実、これは良いとしてお頭のダデン、彼は書類偽造や違法品売買、貿易法違反などの罪で牢屋行きって話ね。」


「ちょっと待ってください!ダデンは魔族と協力して王都に危険物を持ち込もうとした罪ではないのですか?」


「どこから聞いた話かは知らないけど、証拠不十分なんだろうね。」


「そんな!バラモさんが目撃して戦闘、負傷までしてるんですよ!?」


ルーシーの鋭い目がポルンに刺さる。


「ん?それはどういう事かな?ダデンが逮捕された周辺に君たち2人…『白服』が活動していたという報告は受けていないが?」


一段と低くなった声に圧がかかる。

ポルンの顔がしまったという顔に変わる。


「それともまさか白服である2人が、教会の許可も、グランシェル諸国の許可も得ずに秘密裏に活動していたと?

それは困ったな、国家会議だなぁ…。」


「あっ…いや…。」


その時ずっと黙っていたバラモが口を開いた。


「すいません、先日後輩のポルンと酒を飲む約束をしておりまして、つい先ほど少しばかり飲んでましてね。

ポルンは普段酒は飲んでいないようで、少し酔って意識が朦朧としているのでしょう。」


「あら、それは大変ね。

先輩からの誘いを断れない気持ちもわかるけど飲みすぎもダメよ、というかまだ昼間なんだから飲まないでほしいのだけども…。」


「気を付けます。」


「あ…はい、すみません気を付けます。」


ポルンは頬を赤らめ己の行動を恥じた、今回の行動は最初から最後まで『白服のポルン』ではなく一般人として行動しなければならなかったのだ。


なのに今の言動は下手すれば処刑も免れない非常に危険な言動だった。

ここにいたのがルーシー以外の上司だったら間違いなく首が飛んでいただろう。


「話を戻すと、今ここにあるのはダデン商店の周辺でたまたま教会の信者が拾って、たまたま教会に落とし物として届けてくれた封筒なんだけど。

ここには魔族の言語でダデン商店に物品を卸したいって事しか書いてないのよね。」


引き出しから取り出されたのはポルンがとってきたあの封筒だった。


「知ってると思うけど、最近ある北の村で魔王国との貿易が実験的だけども許可されたのね。

なのでこの封筒に書いてある事は今となっては違法でも何でもないの、もう少し前なら少し問題になってたと思うけど。」


封筒は机の上に放り投げられた。

つまり今回の一連の騒動では魔族との関わりがあったことは認められても、ドラゴン襲撃事件と結びつけるのは難しいといった話になった。


「その…どうすれば…。」


「うーん、白服の我々にできることといえば、やっぱり地道な活動かしらね。

各地の教会を巡りその地域で情報を集める、もちろん布教も忘れずにね、そして情報網を敷き占めて国内に怪しい動きが出来ないようにする。

これが大事かしらね。」


「今はあまり動かないほうが良いのでしょうか…?」


「白服は…ね。」


「!」


「はいはい、上司の独り言に付き合ってくれてありがとうね!じゃあ業務に戻っていいわよ、また何かあれば連絡するから。

あ、そうだバラモ、腕のやけどの具合はどう?」


「ん?あぁもうすっかり元通り、やけど跡をミミに見せたが興味深そうにしてたぜ、ここ数日研究室から出てないらしいけど、そろそろやけど跡について何か結果が出るんじゃないかな?」


「そうかそうか、わかったよありがとう。」


バラモは軽く会釈、ポルンは深々と頭を下げて退出していった。


「.....はぁ。」


机に突っ伏して大きなため息が出る。


(ここんところめんどくさい事ばかりが起きている、国王陛下もそろそろ交代の時期だとお伺いした、アケラ村の転生者と能力者も注視しておきたい。

それにしてもグランシェル諸島まで魔族が手を伸ばしているとは…これはエルフの国も油断ならんな。)


顔を上げ書類の山を見つめる。


「私も単独行動してやろうかな…。」


勿論そんなことをしたら大パニックになるだろう、あくまで特別にあの2人に許可してるだけだ、むしろあの2人以外は各々の役割や持ち場があるので自由に動けない。


「うまい事やってくれるといいんだがな。」


その時ノック音が鳴り響いた。


「どうぞ。」


「失礼します、ルーシー様。

研究局長のミミ様からお呼び出しです、至急研究棟まで来てほしいとの事です。」


それはうれしい知らせだった、ここの所部屋にこもりっぱなしだったのでたまには散歩をしたいと思っていたところだった。


教会から研究棟まではかなり距離がある、それは過去に爆発事故があった故に隔離といった形で距離がある。


ルーシーは上着を羽織り研究棟へと向かった。


読んでいただき誠にありがとうございます!!


X(旧Twitter) @yozakura_nouka


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