臨時収入
「なんかさ、うちの村厄介事多すぎない?」
「国境付近ですからね。」
ダロランとアケラ、そしてその従者であるメメと一緒に書類の山と向き合っていた
「アケラ様、新しい書類です、
魔物の一部素材を商人、ミルト村、王都への売買許可書です。」
「村で使えそうなのはあるか?」
「恐らく使えるのは肉と革ですね、それ以外は加工する者が居ませんし何よりあの巨体ですので…。」
「今はノックスが作ってくれた作業所で解体作業が進んでるんだな。」
「えぇ、村で狩りの経験のある男たち総員で熊の解体作業に当たってます、少し内容を聞きましたがやはり身体構造は熊と同じで解体作業自体は問題なさそうです。」
「そうか、ダロラン、この内容だと予想売上はどのくらいになると思う?」
今回討伐した魔物は解体し、その素材を売る。
魔物肉は食用肉としての需要があり、特に獣系の肉は独特の臭みがあり一部マニアから大人気だ。
「恐らくこの爪や牙などは装飾品に加工ができるでしょう、もしくは王都に薬や研究材料として販売するのもありますが…その場合は提示金額の予想ができませんね。」
「こういうのは市場とかだといくらくらいになるんだ?」
「装飾品は貴族に人気がありますから1本600G程あればうれしいですね、革は剣で切らずに弓矢だけでしたので使える場所は多いと思います。
しかし。」
「しかし?」
「肉に関しては廃棄ですね、麻痺毒を使ったとの事で全身に回ってるでしょうから。」
「あぁ、リガが聞いたら悲しむな。」
「ちょうど商人が来ているので見てもらってまして、いつも来てもらってる商人なので適正価格で買い取ってくれると思います。」
◇ ◇
「ふむ、なかなかに良い。」
眼鏡をかけた商人はなめされた熊の毛皮を手に取り品定めをしている。
「毒矢用の小さい矢じりのおかげか傷が少なくて助かります、熊の魔獣は討伐例が少ないので高く買い取らせていただきますよ。」
「そうか、肉は食えるか?」
「リガさん、毒矢で仕留めた生物は無理ですよ…諦めてください。」
「何とか…刺さった所をくりぬけば…。」
手を合わせて懇願するリガ
「ネズミゴロシの毒で倒れたんでしょう?倒れたなら全身に毒が回ってますしネズミゴロシはいくら人より耐性を持っていたとしてもひとたまりまないですよ。」
「ぐぬぬ。」
「騎士団の方々から許可は貰ってますから、牙や爪を換金して良い肉食べたほうがいいですって。
はいこれ、牙と爪。」
仕留めた者の功績として全体の数%を報酬としてもらったが正直リガはうれしくなかった、美食家が大金をはたいてでも食べるといわれている魔物肉。
国の研究機関の調べでは生食しない限りは体に大きな影響はなく、むしろ異常なまで発達した筋肉と特異な生態の影響で美味であることが多いと発表されている。
「はぁ、食べてみたかったな。」
「はは、そんなことよりこれですよ、この頭部。」
台の上に置かれた熊の生首は血抜きと洗浄が終わっており、はく製のようになっていた。
「これは高く売れますよ、熊の頭部は正面からの衝撃に強いんです並みの弓矢ではまず弾かれるでしょう。」
熊の頭部に1つの風穴がぽっかりと出来ていた。
「見事ど真ん中、しかも見たこのないクマの頭部サイズ、これを魔除けとして玄関先に飾りたい貴族もいるでしょう。」
「そういうのって自分で狩ってきた獲物じゃないのか?」
「貴族は魔物狩りなんて危ないの行きませんから。」
「そういうもんか…。」
「はい、じゃあこれ商会の買取一覧です。」
「どうも.........こんなに?」
「魔物の革はここ最近需要が跳ね上がってまして、特にこれからの時期寒くなるでしょ?コートが飛ぶように売れるんです。」
「おおぉ、ではアケラ様に報告に。」
「よろしくお願いします。」
リガは買取表をもってギルドへと走っていった。
◇ ◇ ◇
「買取表です。」
少し肩で息をしながら大急ぎでリガが入ってきたときはどうしたかと思ったが、商人の計算が終わり値段が出たらしい。
「ありがとう、どれくらいになった?」
「見て頂ければっ!」
「う、うん。」
アケラは買取表に目を通す
〇
・魔物 革 30000G
・魔物 爪 500G 10本
・魔物 牙 1000G 4本
・魔物 頭 後日報告
計39,000G
〇
「うほっ。」
「いかがですか!!」
机に両手を置き興奮気味に話すリガ
「いやまあ、凄いけども!いかがですかって…。」
「私はこれを公にすべきです!!」
「え?」
ぽかんとしていると少し早口なリガが勝手に説明を始めてくれた。
「今アケラ村に必要なのは資源です!!辺境の村という事で商人や旅人が訪れていますが冒険者はほぼいません!!
これは辺境のギルドに良い依頼が回ってこないこともありますが、根本的には魅力がないのです!!」
「おぉ。」
「ですが今回魔物が出ました!もちろん一筋縄にはいかない強い魔物でしたがそこがねらい目!!」
「なぜ?」
「元金級冒険者から言わせていただきますと、金級冒険者には様々な人物がいますが、その大半が魔物討伐に興味を持ってましたし専門にしている者もいました。」
「なるほど?つまり魔物が出る森として売り込み金級冒険者に足を運んでもらおうという事か。」
「そういう事です!!金級は知名度が高く訪れただけで呼び込み効果はあるでしょう。」
「なるほどね、却下で。」
「な、なぜ。」
「実力不足な冒険者が真似する可能性があるからだ。」
「私もそう思います、これはギルドマスターでもあり村長でもあるものの立場から言わせてもらうと事故が起こると悪い噂ばかりが立つ恐れがありますな。」
ダロランも書類仕事の手を止めて会話に入る。
「もちろん考え方としては悪くはないですな、冒険者稼業のアピールとして珍しい魔物が出る事を大々的に発表するのもいいでしょう。
ですがあの森に関しては一部ゴルド領地で無い場所も含みますのでかなり慎重に扱わなければなりません。」
明確な境界線があるわけではないものの、森を抜けると魔王国領地といった扱いになっている。
つまりいつの間にか無断で他国に踏み入ることになる、平和条約を結んでいるとはいえトラブルになりかねないので避けた方が良いだろう。
「そうですか、チャンスだと思い舞い上がってしましました。」
「いえいえ、案を出してくださるだけでも…。」
「いずれ魔王国側と会談が進み森が安定している状態なら検討しよう。」
「すいません、ありがとうございます。」
「それよりもリガ、ケンジに畑に回せるお金が浮きそうなので何か必要な物がないか聞いてきてくれ。
ジャガイモの栽培が成功したらそれも客寄せに使えるだろう。」
「分かりました、失礼します。」
リガはいそいそと退室していった。
「なんだか、お忙しそうな方ですね。」
「メメ、絶対私の方が忙しいと思うんだが。」
「アケラ様も見習いましょうね。」
「おかしいな…。」
◇ ◇ ◇ ◇
「ケンジ。」
「あ、リガさんお疲れ様です。」
ジャガイモ畑の水やりを手伝っていたケンジは複数人の村人達と一緒にバケツを運んでいた
現在水やりは井戸から汲み上げたものを畑まで運び柄杓でジャガイモにかけてる。
当初は『奇跡』の道具、水が無限に湧き出る壺を利用して楽できるはずだったが、その肝心な水壺から湧き出る水の塩分濃度が高く農業用に利用できなかったために原始的なやり方で水やりを行ってる。
因みにその、塩水壺は現在バーのキッチンに置かれており煮込み料理などに有効活用されている。
「手伝うよ。」
水が満タンになったバケツを両手で持ち軽々と運び畑に撒く。
「ありがとうございます。」
「やはり効率が悪いな、近くに沢でもあれば楽なんだが。」
「綺麗とまではいわないので畑に無害な水が湧く壺があればいいんですけどね。」
「そう、ちょうどその話を聞きに来た、少し予算をこちらに回せるそうなんだが何か必要なものはあるか?」
「必要なものですか?そうですね…今のところは特に…贅沢を言うならやはり水壺ですかね、水やりをもう少し楽にしたいですね。」
「そうだな、一度聞いてみるか。」
「川を引いてくるのと水壺、どちらが安いですかね?」
「あー、恐らく川だな。」
「あ、そうなんですね。」
「岩魔法で何とか作れるかな?だが人工的な川には問題点がいくつかあってだな。
まず周囲に影響を与える、場合によっては大雨の時に氾濫しやすくなる。」
過去には岩魔法で川を引いた事例が何件かあったが、そのどれもが大雨での氾濫や水流による土地の形が変わるなど様々な事が起こった。
故に現在、ゴルド王国では勝手に川を引くことは禁じられている。
「許可制ですか?」
「それもかなり厳しい。」
「となるとやはり水壺が欲しいですね。」
「そうなる、水やりが終わったら教会に行こうか。」
「野営地のビットさんの所ではなくて?」
「水壺は『奇跡』だ、それなら専門家に聞いた方がいいだろう。」
「なるほど。」
◇ ◇
「なるほど、それで私のところに。」
「そうです。」
「ふむ、自慢に聞こえるかも知ませんがこの大陸で一番詳しいのは私でしょう。」
「自慢にしか聞こえませんね。」
ケンジとリガはセティの所へと赴いた。
「水壺ですね、どんなのを探してるんです?」
「えっと、確か液体なら何でも湧くんでしたっけ。」
「えぇそうです、アケラ村にある水壺は塩水みたいなのが湧く大きな壺ですが中には小さな小瓶もあります。」
セティはシスター服の袖に手を入れ中から水瓶を取り出した。
「私が重宝しているこの小瓶、これも『水壺』と呼ばれる物と同じものです、中身に満たされてるのは水です。」
「おぉ、小さなものもあるんですね。」
「素晴らしい、冒険者や旅人なら喉から手が出るほど欲しい代物ですね。」
「ケンジさんはどのような物がお望みですか?」
「そうですね、サイズは特になくて水さえ出れば…。」
「水はどのような水です?甘いのや酸っぱいのが出るのもありますが。」
「もう普通のが出れば…人が飲めるのであれば。」
「なるほど。」
袖に入らないであろう分厚さの古い手帳を袖口から取り出しペラペラとめくる。
「ふむ、それだと……王都か密林同盟国、グランシェル群島にもあったかな。」
「それは?」
「これは私の趣味兼仕事です、古今東西様々な奇跡を記録してます。」
手帳には革のカバーが使われており、長年使われた痕跡がある。
「今言った国には奇跡を取り扱っている店がありまして…まあ闇市で見かけたものもありますが。」
「つまりそこに行けば水壺が買えると?」
「そうです、と言いたいところですが私が取り寄せましょう、普通の商品とは違うので私が取引を行った方がスムーズでしょう。」
「ありがとうございます。」
「お代はギルドに?」
「い、いくらくらいでしょうか…?」
「ふふ、リガさんそんなに身構えなくても大丈夫ですよ。
50,000G程に押さえときますので。」
「「そ ん な に。」」
「水壺は奇跡の中でも数が多いので比較的安価ですよ。」
「比較的安価で50,000Gも…。」
「値段がつけられないものが大半なので、後は必要なものはありませんか?」
「どうだケンジ?」
「今のところは水壺だけで大丈夫かと。」
「かしこまりました、では取り寄せときますね。」
「よろしくお願いします、そういえばラシさんやモントさんは?」
教会にはセティ一人しかおらず静かなものだった。
「彼女たちは王都へと報告に、伝える内容が多すぎて鳥では運べなかったので。」
「大変ですね。」
「ケンジさん、あなたのせいですからね、おかげで本来なら奇跡収集の旅に出てる私がいつまでもアケラ村に拘束されてるのは、いつまでたっても報告する内容が尽きないからです。」
「ですよね…申し訳ないです。」
「ではセティさん、よろしくお願いします。」
「はい、お任せください、リガさん何か奇跡関連のお仕事があれば私に…。」
「分かりました。」
◇ ◇ ◇ ◇
教会を出るといつの間にか太陽が頂点に来ていた。
「この後の予定は?」
「本来なら熊肉をじっくりと火を通して食いたかったんだが…肉はないし騎士団が訓練をしたいとの事なので中庭を解放しようかと。」
「あ、見に行こうかな。」
「…ケンジは戦闘経験は?」
「ありません。」
「ほぅ…そうかそうか。」
ニマニマ笑うリガ、その笑顔は何かを企んでいる顔だった。
「後で中庭に来てくれ。」
(イヤな予感しかしない。)
◇
昼下がりの中庭、騎士たちが掛け声と共に木剣で打ち合い訓練をしていた。
その中にはリガと面向かうケンジの姿があった
「すいません!!マジで木剣すら握るの初めてなんですけど!!」
「誰でも最初はそうさ、さ、打ち込んで来い。」
同じく太い棍棒を2本構えてケンジを誘うリガ。
(高校の時に剣道の授業受けたぐらいでしかやったことないのに…。)
剣を握り直しとりあえず打ち込む。
「やぁ!!」
うろ覚えの剣道の真似事で剣を前に突き出し大きく踏み出す
だが素人の踏み込みなどで届く領域にリガはおらず、片手の棍棒で軽くいなしもう片方の棍棒でケンジの頭を小突く。
「本当にど素人だな、なんだその構え。」
「喧嘩すらしたことないので…。」
小突かれた額を抑えながら不満を垂れる
「うーん、少しは鍛えたほうがいいな。
筋肉はあるんだろうが使い方が違う、素振りからやろうか。」
「鍛える意味はあるんです?」
「今ケンジは野営地に行く時ですら同行者が必要だろ?いずれはひとりで行けるようにしておかないとな。」
「え、でも荷馬車とかと一緒に行けば…。」
「ギルドの仕事で急に行かないといけないこともあるだろ?そんな時はキャラバンや荷馬車なんて待ってられないからな。
最低でも銅級くらいの実力はほしいなぁ。」
銅級になると1人での外出が認められる目安になっている、村人が隣町に行くのも銅級か同等の実力者の同行が推奨されている。
だが昔に比べ魔物などの襲撃は減り、街道は企画的に安全とされているため1人で外出する者も多い。
「えぇ~。」
「ケンジの為を思って言ってるんだぞ、いざという時に一番頼りになるのは己の肉体なんだから。」
などとリガが話しをしていると。
「特訓かい?」
「アケラ様。」
仕事を抜け出してきたのか、はたまたサボりか領主のアケラが背後にいた。
「お仕事終わったんですか?」
「なんでそういう聞き方するの?私だって人間だから休憩しないといけないんだよ?」
「終わってないんですね、メメさんに怒られますよ。」
「改めて考えたんだけどさ、どこにメイドに怒られる領主がいるんだよって話しだよね。」
「そうですネ。」
「アケラも来たのか。」
騎士団のベリット隊長も会話に加わる
「いや見学だよ、少しサボらせてくれ。」
「やはりサボりじゃないですか。」
「まぁまぁ息抜きも大切だ、どうだ?久しぶりに模擬でも?」
「う~ん、そうだな、たしかに長らく剣を握ってないから胸を借りるとするか。」
「そう来なくてはな、最年少隊長の実力を見せてくれ。」
◇ ◇
「なぁ、アケラさんって強いのか?」
「そりゃ強いさ、あの若さで騎士団の隊長を務めていたんだから。」
「女性なのに強いよなぁ、ドラゴンもあの人が追い払ったんだろ?」
「あぁ、あの噂か。」
「俺はその場で討伐したって噂だぜ?」
「まだ調査中だからあまり憶測で話さないほうがいいな、国民の安心を買うために先日団長がドラゴンの首持って帰ってきたんだから…取り敢えずは一件落着だろ。」
「だな、あまり踏み込まないのが長生きのコツ…お、始まるぞ。」
中庭は騎士団員が円になっており、その中心にはアケラとベリットが軽装でそれぞれ木剣を構えていた。
「お手柔らかに。」
「うん。」
まず先に仕掛けたのはベリット。
ケンジの踏み込みとは比べ物にならないほど鋭く重い1歩。
防ぐのが難しい鋭い突き。
だがアケラは体を半歩だけずらし躱す。
アケラは避けたついでにベリットの懐に滑り込み脇に腕を通す。
そしてそのまま足をかけ後方に倒す
「うおっ!」
まるで合気道の技にかけられた様に綺麗に転がるベリット。
「おぉ!」
周りの騎士たちも思わず歓声を上げる。
転がされたベリットだが受け身を取り隙も与えず起き上がり再度構える。
「最近組み手をしてなかったから忘れてたよ。」
「言い訳かな?」
じりじりと間合いを詰める2人。
剣と剣の先端が当たりそうになった瞬間、目に留まらぬ速さで刃と刃がぶつかり合う
「すごい…。」
離れたところで見学していたケンジはその迫力に目を離せなかった。
時代劇や映画で見るような物を想像していたが、それどころではなかった。
息を突く暇もない連撃、一度刃がぶつかり合ったと思ったら蹴りなり肘なりで攻撃する。
その繰り返しを目にもとまらぬ速さで行う
「初めて見るか。」
「リガさん。」
「騎士団は魔物より悪人を捕縛する機会が昔より増えてきていてな、ケンジには騎士団で訓練を受けてほしいなぁ。」
「逮捕術ってやつですか?」
「よく知っているな、お、見ろ。」
刃と刃が合わさり押し合いになるがアケラがベリットの剣を剣の腹で上手く滑らす。
「うおっ。」
力が逃げバランスを崩したベリットの背後に回り込み後方に飛びながらコツンと頭を叩く。
「1本。」
おおぉと兵士たちが歓声を上げ勝者をたたえる。
「いやぁ負けた負けた、かなり強くなったんじゃないか?」
「だろ?」
「おいおい。」
アケラの義手に支えられ起き上がり握手をするベリット。
同期という事もあって嬉しそうに互いの成長を認め合う2人。
「じゃあ、次はリガ。」
「えっ私ですか!?」
「元金級冒険者の胸を借りたいな。」
「対人なんて久しぶりすぎて…弓ダメですよね。」
「ダメダメ、稽古用でも穴開いてしまうよ。」
「いやいや、そんな…では双剣で。」
少し湾曲したコンパクトな木製の双剣を武器棚から取り出すリガ、普段弓矢を使う彼女は装備総重量などを考慮すると長物は携帯せず、ナイフや短剣、大きいもので双剣などを使うことが多い。
「じゃあ、私は…。」
アケラは武器棚に近寄り一つの武器を取った。
「えっ。」
「おっ。」
騎士団の数名とベリットが少し驚いたような声を上げる
「アケラさん、それ使えるんですか?」
「う~ん、いけると思うよ、たぶん。」
アケラが取ったのは槍、だが普通の槍ではなく先端に斧が着いた特殊な槍。
「ハルバードですか…そんな難しい武器で…。」
「じゃあよろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
少し呆れたような顔をしたリガがやれやれといった顔で構える
アケラはハルバードの先端をリガに向けて構えた。
模擬戦とは思えないヒリついた空気がケンジの頬を刺した。
先に仕掛けたのはリガ、音もなく走り出しあっという間に間合いを詰める。
だがアケラもすぐに反応する、数歩素早く下がりハルバードの斧の部分を振り下ろす。
それを前進しながら剣でいなし懐に潜ろうとする。
長物を扱う相手には懐に潜り込みさえすれば圧倒的に有利になる。
リーチが短い双剣のリガは機敏さを生かし接近し右の剣を突き出す。
だが焦って表情を一切見せず落ち着き払った顔でアケラはハルバードを振り回す。
ハルバードを逆さにし柄の部分をリガの突き出した右腕の脇に入れ、逆にリガの懐に滑り込む。
リガより身長が低いアケラはリガの突撃のさらに下を行き、ハルバードとリガを一緒に背負うような体勢になった。
「えっ!?」
つい声を出すリガ、それもそのはず自身より小さいものに投げ飛ばされたからである
股の下に斧の反対側、本来はトゲがついている部分で持ち上げ転がすように投げたのだ。
「はい、1本。」
ポカンと仰向けになってるリガにハルバードの先端を突き付ける。
「ま、参りました…。」
パチパチと騎士団からも拍手が起こる
「槍術…グランシェル諸島の伝統武術をなぜアケラが?どこかで学んでのか?にしても見事な…。」
ぶつぶつと顎に手を置きながら独り言を呟くベリット
騎士団でも槍術を習うが、突きや薙ぎ払いなどを学ぶ。
今回の様に投げ技などを使う槍術は珍しい、ベリットが知る中でグランシェル諸島の伝統武術で似たようなものがあるが、伝統武術なので関係者以外は学べないことで有名だ。
「元金級冒険者にお相手してもらえてうれしい限りだ。」
「いや、ちょっとなんというか…驚きました。」
「私もだ、まさか自分がここまで動けるとは…。」
「え?」
「いや、何でもないよ、よし次はいるか!?」
「では私が。」
「あっ。」
「おっ!…おおぉ…。」
リガに勝ち、調子に乗っていたアケラに声をかけたのはメメだった。
「メメ…。」
「2試合目はギルドマスター室でお願いいたします。」
「いや、これはサボりではなくて…。」
アケラは周りを見回すが誰も目を合わせない。
リガに関しては背を向けている。
その後、次の日になるまで彼女の姿を見た者は誰もいなかった。
読んでいただき誠にありがとうございます!!
X(旧Twitter) @yozakura_nouka
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