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お告げ

「占いのお告げだと!?そんなものに大勢を巻き込むというのか!?」


机を叩き怒鳴り上げるアケラ


「その占いのおかげで戦後ここまで魔王国を維持できたのです、もはや占い師様の占いは予知と言っても遜色ありません、当のご本人様が嫌がっておりますので占いと言わせてもらっていますが。」


シルマも負けずと言い返す。


「い、良いですかな、双方の為に認知を改めたいさせて頂きますが…。」


ダロランが立ち上がり少し声を震わせながら説明を始める


「ギルドというものは、ゴルド王国初代国王が創設した組織の一つであり、今はゴルド国内に留まらずグランシェル島国やジュゲ大森林にも存在します。」


ギルドの形式は国ごとの主要都市にあるギルドや、アケラ村の様な辺境の地にも小規模ながら経営しているものがある。


「今回、占い師様がおっしゃったような事を実現させようとするならば魔王国の一部領地はゴルド王国との共通領地といった扱いになります、さらに一つ難しいことがあります、ギルド設置の条件に『ギルド加盟国』といったものがあります。

だがしかし、現在の魔王国とゴルド王国は平和協定を結んではいるもの加盟国ではありません。」


「そうです、我々の問題点はゴルド王国とのコンタクトの少なさです。

貿易を行うにも特産品などは無く相手にしてもらえませんし、労働力の提供にも魔族に対する偏見が強く…。」


「つまり魔王国の経済力ではこれ以上国民を食わせる事が出来ないから、ゴルド王国の力を借りたいと。」


「アケラさま!?」


煽るような発言に驚くリガ


「いえ、良いのです事実ですから。」


ニコニコ笑顔を崩さない占い師、少しピリピリした雰囲気が漂う


「ダロラン、もし魔王国がギルド加入国になった場合どの様な事が想定される?」


「そうですね…やはり一番利益を得るのは魔王国側でしょうね、今現状冒険者の勢いは過去一番で各国で目を見張る活躍をしています、その恩恵は大きいでしょう。

更には冒険者が訪れるとなるとそこから貿易路ができることもあるでしょう、冒険者がいるという事は最低限の安全が保障されているという事ですから。」


「素晴らしいですね。」


「ですが問題はゴルド王国側です、もちろん冒険者や商人からすると未開の地に足を踏み入れることを喜びとしている者もいますが、今回の場合は魔族の問題が出てきます。

我々が魔王国に共通領地を作り自由に行き来できるとなればそれは魔族も同様です。」


「つまり?」


「差別的な発言ではないことをご了承ください、ゴルド王国に住む国民に魔族が自由に往来できるといえば5人に1人は良い顔をしないでしょう。

恥ずかしながら中には過激な反応を示す者がいないとも言えません。」


「ふむ。」


「さらに問題となるのは加入の難しさです。」


「私たちが聞きたいのはまさにそこなんです、どんな条件なんです?お金ですか?土地ですか?」


ずいずいと前のめりになる占い師


「えっと、もちろん金銭もありますが、恐らく一番大きい問題は『加入する側の国の代表との謁見』です…。」


 

静まり返る会議室、なんとなくケンジでも分かる。


以前、大戦を起こした国。

今現在は終戦しているがわだかまりは残っている、そんな国同士の代表と言えばやはりゴルド国王と魔王だろう。


「…なるほど、確かに問題ですね。

こちら側は魔王様以外に代表などありえないでしょうね…戦後初めて会うお二人、しかも対等な立場ではなくこちら側が『頼む』側ですか…。」


「一番懸念すべきは貴族側だろうな、ゴルド王が仮に良しとしても貴族が黙って居るはずがないな。」


「えぇ、アケラ様と同じ意見です、無理難題を出してくるでしょう。

ただでさえ小さな村一つに口出ししてくるような人達です、魔王国の領土なんて…。」


「そうですか…。」


現在ゴルド王国の政治は国王が治めているが、一人では限度があるため各地に領主を置きその領主の管理を貴族に任せている。

貴族の管理している商人や冒険者もいる為、国王に意見できるほど権力を持っている者も複数人いるのが現状である。


「貴族お抱えの商人は流通に深くかかわっており、過去に揉め事が起こったときには領地を通させないなんて暴挙に出た貴族もいました。」


「なるほど、つまり我々魔王国側が国王陛下に謁見して、ギルドの許しが出たとしても貴族達を納得させないと難しいという事ですか?」


「そうですね、非常に難しいと思われます。」


「そ、そんなことよりですね!!」


声を上げたのはモント


「私共教会側としてはですね!戦後、魔王国への情報収集が著しく制限されていたとはいえ『占い師』といった人物は初めて聞きましたし、そんな方が言う占いとやらのお告げでホイホイ話を進めてしまうことが問題だといいたいのですが!!」


教会は戦後、できる限りの情報収集を行ってきた、魔王国の主要人物の生存確認や軍の動き、他国とのやり取りがないかなどの情報を集めていた。


だがその情報の中に一言も占い師なんて文字は無かった、さらにモントが気になるのは占い師の発言内容だ。


「占い師さん、貴女は先ほどからスムーズに話を進めていますが、貴方に与えられた権限でそこまでお話ができるという事は、少なくとも大臣クラスの権限を持っているようにお見受けしますが?」


「えぇ、まぁそう思っていただいていいかと思います。

正確には魔王様の次に偉いといってもいいですよ。」


「っ!!!」


その場にいる全員が息をのむ。


まさか目の前にいる少しふざけるように話す人物が、魔王国の二番目に偉い人物だとはだれも思わなかっただろう。


「なので本日ここで許可を貰えればすぐにでもギルド魔王国出張所の建設に取り掛かろうと思っていましたが、なかなか難しいのですね。

ゴルド王国の法には疎くて。」


「う、疎いって…。」


開いた口が塞がらないモント


「とりあえず早急に決めなければならない問題ではないという事はわかった、もっと慎重に進めるべき事案だ。」


「そうですね、急ぎではないですし何もわからない身ですのでいろいろと教えを乞うかもしれませんがよろしくお願いいたします。」


「こちらこそよろしく頼みたい。」


こうして魔王国にギルドを建設する話は一旦保留となった。




◇     ◇     ◇




「本日はありがとうございました、アケラ村も案内していただきありがとうございます。」


占い師達に雨上がりのアケラ村を案内し、気が付けば夕方になろうとしていた。


「いえ、こちらこそ質問攻めのような形になってしまってすみません。」


謝るセティ、後ろの方でモントが見送りもせずに紙に質問内容などをまとめていた。


「大丈夫ですよ、今まで表舞台に立ってませんでしたし。」


「次はいつ頃来られますか?恐らくですがこの事を本部に報告すると更にややこしくなり、最悪また来て貰う事になりそうなのですが…。」


「そうですね、確かルーシーさん…でしたっけ?

彼女の事ですから血相を変えて来そうですね。」


突然教会最高幹部の名前が出てきて冷や汗があふれ出るセティ


「…いやはや、ルーシー様の名まで出るとは思いませんでした、もしかしてお知り合いで?」


「いえいえ、会ったことも話した事もありませんよ。

ただ夢の中で見たことがあったので、つい…。」


「もうそこまで行きますと恐怖を感じてしまいますね。」


やや引きつった笑顔を浮かべるしかなかった。


「実はそこまで万能ではありませんし、今の話を他人に信じろと言っても信じてもらえないのが大半ですけどね。」


「占い師様、馬車の準備が出来ました。」


シルマが声をかける


「アケラ様、そしてアケラ村の皆様、この度はこのようなお話の場を設けてくださり大変感謝しております。

今後ともお互い予期関係であり続ける様に努力いたします。」


「こちらこそ急な呼びかけの答えていただき感謝する、まだまだ話し合いが足りないところもあるので今後も定期的に行おう。」


「えぇ、是非月に一度必ず私かシルマが伺いましょう。」


「月に一度というのはあれか?頂いたカレンダーというやつの…。」


「はいそうです、またケンジさんにお聞きすればよいかと思います。」


「ケンジに?」


「はい、あれはもともと異世界の知識を元に作り上げたものです、教会も把握している事実ですが過去にも異世界人が渡ってきた記録はあります、その時に授けられた知識の一つです。」


「何とも興味深い、またそのような話を聞かせてほしい。」


「えぇ、いずれまた。」


占い師とアケラは硬い握手をした。


こうして嵐の様に占い師たちの訪問は終わった。



◇     ◇



「いやはや、少し情報を整理しないといけないな。」


アケラ村ギルドマスター室で今日の会議に出席したメンバーがそろっていた、白服の2人を除いて


「まったくです、白服のお2人は教会に戻り報告書の作成などに取り掛かるそうです、あの感じですと2日は教会から出てきませんな。」


「今回得た情報はあまりにもデカすぎたな、で、また報告書を出しに王都に行って大騒ぎだろうな。」


「また後ほどお2人にワインを持っていきましょう、少し良い奴を。」


「リガも、お疲れ様だったな。」


アケラの執務机の前に気を付けの姿勢で直立しているリガは、真っ直ぐ立っているが顔はげっそりとしている。


「いえ、身の潔白が証明されただけで十分ですので…。」


「ジギに言って今日は豪華な夕飯にするといい、私にツケてくれ。」


「ホントですか?ありがとうございます。」


少し顔色が良くなるリガ、問題は山積みだがまずは飯がモットーらしい。


「ケンジも、結局巻き込んでしまったな。」


「いえ、まぁ心のどこかでは少し覚悟していた事でもありますし、のんびりスローライフが難しいのはなんとなくわかってました。」


「そうか、すまないな。」


「…今後国王と謁見とか、貴族と会ったりとかは無いですよね?」


「一応目の前にいる私も貴族なのだが、まぁ国王陛下との謁見は相当の事がなければ無いだろう。

君の身は一応教会が保護しているし、今回は例外だったが外部に漏れることは無いだろう…恐らく。」


「言い切れないですよね、占い師さんの様な人が他にいないとも限りませんし。」


「うむ、今後はもっと教会と連携を取って情報の共有をせねばならないな。」


その時ギルドマスター室にノックが響く


「どうぞ。」


 

入ってきたのはロングスカートのメイド服を着たメメ


「失礼いたします、アケラ様休暇をいただきましてありがとうございました、本日よりアケラ様のメイドとして復帰させていただきます。」


「おぉ、戻ったか、家族は元気だったか?」


「おかげさまです。」


「戻ってきて早速で悪いが、書類整理が山積みだが…。」


「えぇ、お任せください、その為に戻ってきたのですから。」


「失礼ですがアケラ様、もしお忙しいようでしたら私もお手伝いいたしますが。」


「いやいいんだリガ、君はギルドの方を頼むよ。

それに勝手に話を進めてすまないが少し落ち着いたら騎士団と一緒に森の調査に行ってくれ。」


「うっ、騎士団とですか…。」


「よろしく頼むよ。」


「分かりました、元々森の調査は行きたかったので。」


「ありがとう、さてメメ、この書類なんだが…。」


執務机に回り込み一緒に書類を読む。


「ふむ、これはキャラバン関連ですね、彼らは来たばかりですしこの時期だと乾燥させた保存食が主なので後回しでよいです、それよりこちらの宿屋と領主館の建設を急がせましょう。

騎士団やキャラバンにこの村の存在が知られてますし、詳しくは聞きませんが他国の重鎮が来訪したことを見ると氷賢の季節が終わる頃に大量に冒険者が来ることが予想されます。」


「ほほっ、これはこれは優秀なメイドですな。」


「だろ?私にはもったいないよな。」


「こっちに集中してください…なんでこの書類がまだここにあるんですか!!王国に早急に送らないといけない奴です!!ここにサインを!!!」


怒られつつメメと一緒に書類を片付けるアケラ、おかげで今までの3倍の速度で仕事が進んでいった。




◇     ◇     ◇     ◇




「ただいま戻りました。」


広い部屋の真ん中には円卓が置かれており、その上座に彼は座っていた。


「うむ、ご苦労であった。」


薄暗い部屋に煌めくエメラルドのような瞳が浮かび上がる、魔王である。


魔王城の一室、大会議室は体の大きい魔族の為に必要以上に大きい作りになっており、ロウソクや松明だけでは部屋の全域を照らせないほどだ。


「して、交渉の方は?」


「かなり前向きだと思われます、やはり国王と謁見が必要だという事です。」


「ふ~む、絶対面倒だな。」


「えぇ、必ず面倒ごとが起きます。」


「…ヨシ、しばらく保留だ。」


「かしこまりました、また機を見て…。」


大きくため息をつき部屋のロウソクが少し揺れる


「異世界人は?」


「脅威ではありません、生産系の能力ですね。」


「お、それは良い知らせだな、生産系は世界に益をもたらす。

過去に居たな…なんだったか刀の。」


「『ニホントウ』ですかね?」


「そうそう、あいつの作る刀はもはや美術品だったな。」


「ドワーフの国に行ったきり消息不明になってしまいましたけど、ですが確かに生産系は今の我々にはうれしい知らせですね。」


「うむ、戦闘系は血の気が多く力に溺れて敵わん。」


「その生産系の異世界人、名はケンジと申します作物を育てているとの事です。」


「よし、我々としては援助出来る事は出来るだけしてゆこう。」


「かしこまりました。」


その時大扉が外れそうな勢いで開いた。


入ってきたのは水牛の顔をし上半身は筋骨隆々の大男、いわゆるミノタウロスである。


「今戻った。」


鼻息荒くして入室してきたミノタウロスはどかっと椅子に座った


「ギュロス将軍、もうすこしゆっくり入ってこれませんか?」


「ふん、報告だ。

リザードマン共はそろそろ冬眠の時期に入る、これは放っておいてもよいだろう。

次にハーピィ共は変わらず能天気なもんだ、冬に備えて食糧を蓄えてる最中だな。」


「一番気にいなるのはオーク達ですが…。」


「うむ、どうやらゴブリンの集落を回っているとの報告があった、兵を集めてるやもしれん。」


「面倒だな…どうだ?早めに潰すか?」


「ですが魔王様、これから冬になるので今攻めるとなると不安が残ります。」


「占い師、アケラ村からの支援は求められそうか?」


「いえ、あちらもまだ準備が整ってない状態ですので…。」


「ならば早くても春、下手すると夏か…それまでに何事もなければ良いが…。」


「報告は以上!!

では私は部下共の訓練に行ってまいります。」


「あ、ギュロス将軍、シルマも連れて行ってください、今後アケラ村を往復することになるでしょうから体を動かしといていてほしいのです。」


「承った、模擬戦でもするか。」


「城を壊さないでくださいよ。」


にやりと笑みを浮かべ大股で出てゆくギュロス将軍、筋力なら魔王軍だ1番だがシルマも負けていない。

彼が将軍の座に就くまでは彼女が将軍として君臨していたのだ。


「はぁ、アケラ村の問題よりも魔王国の方が大変かもしれませんね。」




◇     ◇     ◇     ◇




「だんだん寒くなってきたな。」


次の日の早朝、畑の様子を見に行くケンジ。


雨が上がった土の状態を見ておきたかったのだ


「あ、でも水はけは割といいな、元々の地質か。」


農場に着くと水溜まりは無く、種芋も土が流されて地表に露出しているという事もなかった。


ただ数本を除いて。


「ん?」


ジャガイモ農場の端に緑色のモサモサと緑の葉っぱが朝露で輝いていた。


「なんだこれ、こんなところに雑草か?」


事前に村人の協力を得て除草を済ませていたのであんなに大きな雑草は無いはずだった。


近づいてみると、それはケンジの良く知る植物だった。


「え?これジャガイモか!?」


なんと畝の端に生えていたのは”成長した”ジャガイモだった


茎が太く、葉も上部は青く下部は黄色く変色していた。


「…まさか。」


恐る恐る苗を掴み、上に引き上げる。

能力のおかげか砂の様になった土からするっと抜けた。


「うわ…どうなってるんだ。」


株には見事なサイズのジャガイモが10個程ゴロゴロとついていた。


変色もなく綺麗な形のジャガイモ、間違いなくA品だろう。


「一昨日植えたばかりだろ!?」


不思議な事に成長しきっていたのは畝の端の2〜3株だけである。


「これって、俺が植えた奴か?なんか能力か何かか…?」


急いで手帳を取り出し、メモを確認する。


「これか…『緑の指』、植物の発芽、発育のバフ効果。

いくら何でも強すぎる…数日でこれだと怪しすぎる。」


急いで収穫する。

どれもたわわに実っている、品評会があれば優秀賞間違いなしだろう。


ケンジは大量のジャガイモを抱えながら逃げるようにして畑を後にした…。




読んでいただき誠にありがとうございます!!


X(旧Twitter) @yozakura_nouka


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