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オオカミと冒険者

金級冒険者


それはギルドが認証する冒険者の中で、信頼と実績を得た者だけがなれる選ばれし者の称号である。


その数は冒険者全体の数%しかなく、出会えるだけでラッキーな存在として知られている。


そのうちの一人『だった』のがリガ・アルヘオ、アケラ村のギルド職員である彼女だったのだ。


「金級だったんですか!?」


「もう何年も前の話だが安心しろ、森の調査くらいなら出来る。

毎日鍛錬は欠かしてないし、討伐依頼も何件かこなしているぞ、ケンジが来てからは忙しくて出来ていないがな。」


「なんだか…アケラ村って凄い人ばかり集まってません?」


「それは私も感じているよ、元騎士団隊長に白服、異世界転生者もいる。

魔族も来るしな、こんな事になってることが教会に報告されたらえらいことになりそうだな。」


「え、どうなります?」


「うーむ、ケンジの身柄が教会に引き渡されることになるかもしれん、または教会関係者がこぞって監視として来るかもな、ハハハッ。」


「ハハハッじゃないですよ!!」


「それよりもなんか用があったのか?」


「あっご飯できたそうです。」


「それを先に言え。」


急ぎ足でバーへ向うリガ、恐らくアケラ村で一番肉を消費しているのは彼女だろう。





◇     ◇     ◇     ◇





「お待たせいたしました。」


パサミは教会本部の大会議室に入室した、その大会議室にはパサミを含めた6人のシスターが居た。


もちろん全員白服である。


「こんな頻度で会議開いたのは初めてじゃないか?」


白服の一人が声を上げる


「とは言っても前とほぼ同じだがな。」 


「違うのは…セティ君が来ていることかな。」


5人のゴルド王国在住の白服、そんな彼女らの間に座るのがセティ・パロネルだった。


大会議室の円卓は13人座れるようになっており、上座から順番に座っているので所々空席があるが約半分埋まっている。


「まぁ、こんなにすぐ集まるのはさすがだよね。」


「暇かよ。」


「まぁまぁ、ではパサミちゃんも来たことだし始めますか、今回は緊急会議という事だね。

以前から報告に上がっている異世界君の件だと聞いているけど…。」


前回も会議全体を取り仕切っていたのは彼女である、白服序列3位。


『ルーシー・ファビオラ』


ゴルド王国内で自由に動けて緊急時に真っ先に動くのは彼女だ。

正直彼女についての情報は少ないが、分かっていることは怒らせてはいけない人だという事と実年齢はセティを超えている可能性があるという事。


何を隠そう白服の上位3名はゴルド王国が建国されてからずっと順序が変わっていないのだ、もちろん3人とも建国時からの同一人物らしい。


「はい、今回お話したいのがまさにそのことです、数日前に魔族側からの接触がありました。

その際に魔族側から異世界転生者、以後ケンジと呼びますが、その存在を認知していると思われる発言がありました。」


白服たちは事前に配られた報告書を見ながら会議を続ける


「追加報告にはなりますが、魔族の名前はシルマと名乗っており旧名はぺルーナです。」


「ぺルーナ!?ペルーナ将軍か!」


「まだ生きていたのか。」


「シルマを名乗っているのか、もしかしたら生き残りがまだいるかも…。」


混沌の戦争時代を生き延びた白服の幹部達、皆それぞれペルーナの名前に聞き覚えがあり様々な反応をしているが、そうでない者が一人。


「あ、あの申し訳ないのですが、そのペルーナと呼ばれる魔族はどのような…。」


「そっかパサミちゃんはまだ生まれてないよね、ペルーナ将軍っていうのは魔王国軍隊のトップだった魔族の事さ、この中だと接触した事があるのはセティちゃんだけかな?」


「はい、過去に1度…ですが今は当時の様な凶暴性はなく落ち着いている印象でした。」


「まぁ、今はもう戦争中じゃないからね向こうさんも落ち着いてるでしょうね。」


「ですが今回、我々教会側、そしてアケラ村ギルドのごく少数にしか知らされていない情報が漏れていたという事が起こりました。」


ケンジなどの情報は白服以外にはごく一部の関係者しか知らない。

教会が抱える情報の中でもトップクラスの機密である。


「なるほどね…そうなるとやはり情報漏洩とか、スパイがいるとかかなぁ。」


「疑いたくはありませんがその可能性もあります、この情報は教会本部以外は書類形式での情報保管をしていないので泥棒などが入ったとしても漏洩の心配はありません。」


「じゃあ、疑いたくないけど人為的な情報漏洩かなぁ。」


そして白服は決して情報漏洩を起こさない。


真偽は定かではないが教会には相手の心が読めるシスターがいるらしい、そのことは上層部の3人しか知らず、その他の白服達は誰がその人物なのかわからずに過ごしている。


故に白服は裏切るような真似はしない、もしそのようなことがあれば教会の拷問フルコースである。


「アケラ村でこの情報を知っている者は?」


「はい、アケラ・グラディウス、ダロラン・ポート、リガ・アルヘオの3人です。」


「ん?リガ・アルヘオ?『狂犬』リガか。」


「リガが何か?」


「リガ・アルヘオは過去にギルド内で問題を起こしたことがある人物だね、ギルドマスターを半殺しにしたとか何とかで一度ギルドを辞めているね。」


「なんと、けど辞めてるんですね。」


「そう、その後辺境の村ででギルドを作るってなった際に戻って来たんだったかな?」


「戻れたんですか、その時の資料もまた探しときますか。」


その時神妙な顔でルーシーが呟いた。


「…じゃあリガ・アルヘオを調べようか。」


「えッ?」


「今回の魔族側への情報漏洩の件、過去にトラブルを起こしたことがある人物でもあるし山エルフでしょ?可能性はあると思うんだけどな。」


「ルーシーさん!!今のは差別発言ですよ!」


「でも魔族と繋がりがあったのは確かだし、ギルドの事務局長をやってるんでしょう?

一番疑いがかかる人物だけどな。」


「ですが…。」


「けど情報漏洩の元を探さないといけないよ?

だとしたらいずれはお話聞かなきゃね。」


「…。」


セティは納得のいかない顔をしている、森エルフと呼ばれる民族である彼女は同じくエルフに分類される彼女の置かれている立場は痛いほどわかる。


差別問題は未だに残っている、戦後に生まれた者は差別意識は少ないがルーシーやその他の長命種は未だに差別的な発言をする人が多い。


「では誰かに行ってもらいましょうか、セティちゃんだけだと仕事量が多いと思うからね。」


「…分かりました。」


「じゃあこの話は調査を進めるといった感じでお願いね。」


複数人の白服が頷き議題が変わる。


セティの望まぬ結果になってしまったがルーシーの言っていることにも一理あるので何も言い返せなかった。




◇     ◇     ◇     ◇




「セティさん。」


早馬乗り場で帰り支度をしていたセティの元に一人の白服が話しかけてきた。


「今回アケラ村まで同行させていただきますモントです、よろしくお願いします。」


白服の『モント』、彼女は序列9位なのでセティの部下に当たる。


彼女は顔以外布で覆われており、非常に肌面積が少ない衣服を着用していた。

だがそんな衣服から出た顔は綺麗な黒肌で、ゴルド王国では少数派になる西の部族の出身の彼女。


「モントさん、毎回思うんですけど熱くないのですか?」


「ふふっ、グランシェル地方で作られた通気性の良い布生地です、かなり涼しいですよ。

あと私がいた地方はもっと暑いですから。」


「そう…今回はアケラ村ではいわゆる尋問の様な命を受けた訳だけど、無理しなくていいからね…。」


「その件についてルーシー様から直接お話をいただきまして、『遠慮無くお願いね。』との事でして…。」


「……そう、あまり信用されてないわね。」


「上層部も頭硬いですから。」


「...恐ろしい子ね。」


クスっと笑うモントを乗せて白服2人が乗った早馬馬車はアケラ村へと出発した。



◇ ◇   ◇ ◇



次の日野営地付近にて。



「ベリット隊長、まだ早いですが今夜は野営地ですか?

それとも引き返してミルト村ですか?」


「うーむ、どうするか。」


15人ほどの騎士の装備をつけた隊が休憩をとっており各自食事や睡眠をとっていた。


北の治安維持を任されているベリット、今回も定期的な見回りと新人を連れた団体行動の練習を兼ねてここまで来てた。


場所は野営地とミルト村の間にある平地。

ミルト村より北は基本的には戦地跡なので昔は此処らも治安が悪かった。


だが今は戦後の物漁りも居ないし魔物がでる暗い森も切り開かれた後なので非常に治安が良い。


逆にそれも野営地まで、そこから先は未開拓だ。


「このまま野営地まで行っても良いがこの人数を収める余裕があるかが賭けになるな、前は行けたがギリギリだった。」


「騎士団の名を言えば貸してくれる宿も多いですよ?」


「それはありがたいことにあるんだが、あそこは別だ、管理者のビットと言う男は権力に屈しない。

信用してるのは顧客と金だけだ。」


「なるほど。」


「だがミルト村まで戻るとなるとかなり遠いな。

目的地はアケラ村とその周辺だ、野営地まで行こう。」


「かしこまりました、ではその様に伝達致します。」


小走りで走ってゆく副隊長。


「ふぅ、まぁここまでこのスピードで来れたのは素晴らしいかな。

馬の質も良くなってる、世話係に感謝せねばな。」


ゴルド王国騎士団の馬は専属の係のものが育てており、その恵まれた環境で過ごした馬体は国の流通に大いに役に立っている。


馬主にもさまざまおり、早馬はスタミナが多いが重い荷物は持てない。

荷物を運ぶ馬はスピードこそ無いもののスタミナやパワーが多い。


そんな様々な馬達はゴルド王国の名産と言っても良いだろう。


「さて、そろそろ出るか。」


岩から腰を浮かし十分に休んだ部下達に声をかけ出発の合図を出す。


今は戦では無いので軽量化のアーマーに最低限の武器。

そして野営道具など。


アケラがドラゴンに襲撃された時と違い、偵察や見守りが任務なので軽装で良いのだ。


逆に輸入品の護衛や危険地帯の偵察だともっと人数も多いし装備も厳重だ。


「新入り達!あと少しで野営地だ!頑張れ!」


約半数の新入りに声を掛け、ベリットの隊は野営地へと出発した。





アケラ村から少し離れた野営地付近の平原。

そこには4匹のオオカミの亡骸と1匹の飢えたオオカミ、そして冒険者3人。


「リリー、さっきので。」


「わかったお兄ちゃん。」


「じゃあゴートさん、前に。」


「承知。」


盾を持ったゴートがオオカミとの距離をジリジリと縮める。


オオカミは盾に噛み付いても無駄だと他の4匹を見て学んでいるので睨みながら距離を一定にして後退りする。


ゴートは盾をガンガン鳴らしながらオオカミの気を引く、その時。


ドッ


と肉に鋭利な矢が刺さる音がする、オオカミの腰にリリーの矢が命中したのだ。


悲鳴を上げながらもがくオオカミに逃げる隙を与える間も無くバンが剣を振り下ろす。


オオカミとて生き物、一度にたくさんのことが起こると頭では何が起きたかわからずにその生涯を終えた。



「ねぇバン、これで何匹目?」


「ふぅ、今ので5匹だ。」


「キリが良いなバン君、一度休もう。」


チーム『青銅の短剣』はギルドから出た依頼、「街道に出たオオカミの群れの討伐」を受けて野営地付近まで来ていた。


「実際どうなの?この数は。」


「うーん、森なら不思議じゃ無いんだけどこんな平原に出るのはおかしいかもね。

ほら、肋骨が見えるくらいに痩せこけてる、これはつまり十分に飯が食えてないんだよ。」


「ほんとだ、よく見ると他の個体も。」


バンは短剣でオオカミの右耳を切り落とすと穴を開けて紐に通した。


今回の依頼は10体以上の討伐で遺体を持って帰れない場合はこの様にして証拠を集める。


「多分森を追い出された個体かな?」


「ふむ、その事も報告すべきですな。

して、この遺体はこのままで?」


「そうだね、できるだけ集めておこうか。」


リリーとゴートも手伝い5体のオオカミの亡骸を集めた、場合によってはギルド職員のチェックが入る場合がある。

今回の様な場所の指定がある依頼はギルド職員が確認するか第三者の確認が必要である。


手間が大変なので大体は目撃情報で確認を行う事が多い、討伐報告後にパタリと目撃情報が無くなったらそういう事である。


「ふぅ、疲れるな。」


「けど動きはなんとなくわかってきたね。」


「落ち着いて一匹ずつ処理すれば大きな問題にはならないでしょうな。」


「あと5匹かぁ......この辺はあらかた見たからミルト村方向に行こうか。」


「足痛いんだけど〜。」


「もっと鍛えろよ、路銀無くなったら基本歩きなんだから。

それに今後アケラ村を中心に依頼こなすんだからさ。」


3人はミルト村方面へと向かう、ここら辺は人が行き来した跡が残ってると言う表現が的確な道で野営地を過ぎると綺麗な道になってるので歩きやすい。

一方アケラ村周辺はまだ路上に石がゴロゴロあるため歩きにくい、馬車の後を歩くのが1番マシな程だ。


「夜は野営地の方が良さそうですな。」


「ミルト村の宿高いわよね〜。」


「仕方ないさ、けど俺は今後アケラ村の方が発展すると思うけどな〜。」


などと歩きながら話してると野営地まで来た青銅の短剣一行。


「寄りますか?」


「どうするリリー?」


「...いや、先に残りオオカミ5匹さっさとやろう。

その後ゆっくり休む。」


「いいね。」


「リリー殿もだいぶ強くなられましたな。」


「まぁ、仮にも冒険者なんで!」


そのまま3人は野営地を後にした。



◇ ◇ ◇



「隊長、前方に人が、3人です。」


「賊の偵察か?」


「おそらく冒険者かと。」


「そうか、この辺りの情報が欲しいな、話をするか。」


ベリットは馬から降り手綱を部下に持たせた。


「隊長自らいかれるので?」


「その方が早い。」





「お、騎士団だ!北方治安維持隊かな...。」


「よくわかるわね。」


「バン殿は騎士団に憧れてましたからな。」


「いやぁ、入隊試験の実技は行けたんだけどな、筆記が...。」


「あと魔法適正ね。」


「まぁ、いずれ冒険者もやりたかったから後悔はしてないさ。」


「む、誰か馬から降りてこちらに向かって来ましたぞ。」


「やべやべ、みんな冒険者証出せるようにしとけよ。」





「やぁ。」


「どうも!ご苦労様です!」


ビシッと真っ直ぐ敬礼するバン


「お?騎士団上がりか?」


「過去に試験を受けたことがありまして。」


「そうか、その心意気に感謝する。

して、君たちは冒険者か?」


ベリットは軽く敬礼を返してバンの緊張を解く。


「はい、私たちは『青銅の短剣』の名で登録してる銅級冒険者です。」


3人で冒険者証を提示する、冒険者にとって冒険者証は1番の身分証明書だ。


「ありがとう、確認した。

名乗り遅れてすまない私はゴルド王国北方治安維持隊の隊長、ベリットだ。」


「隊長!?あっ、失礼しました!」


バンは驚きのあまり声を上げてしまったがすぐに謝罪した、騎士団における隊長格は10人もいない。

東西南北の治安維持隊、国内治安維持隊、その他。

そのうちの1人がわざわざ歩いて同じ地面に立ち会話をする。


騎士団に憧れをもつバンからすればとてつもない体験を今してるのだ。


「いや構わないよ、出来ればこの周辺の情報が欲しくてね。

我々の目的は国境付近の調査なんだが、この先に村があるだろ?そこの話も聞きたい。」


「アケラ村の事ですな、それでしたら数日滞在しましたので色々とお話しできるやも知れません。」


「おぉ、向こうから来たのか、出来れば詳細にお願いしたい。

あ、ちょっと待ってくれ。」


ベリットは部隊の方を向き

『しばらく休み』

のハンドサインを送った。


「では話を。」







「なるほど、オオカミが。」


「はい、まだ完了しておらずギルドに報告もまだで憶測の域を出ませんが。」


「となると森の方が気になるな。

我々が王国から来る際はそれらしき痕跡などは見なかった。」


「やっぱり野営地よりアケラ村周辺ってこと?。」


一通り村の現状や村から受けた依頼の話をしたバン達。

この様な情報交換は重要で、情報が書かれた紙単品が取引される事もある。


「わかったありがとう、お礼に野営地で何か奢ろう。」


「えぇ!いいんですか!?」


「ええ、我々は今夜は野営地で休みます、また夜に会いましょう。

ではオオカミ討伐お気をつけて。」


「ありがとうございます!!」


ベリットは部隊の方へと戻っていった。



「いい人だったね。」


「ふぅ、緊張した。」


「なかなか気前の良い方でしたな。

して、我々は少し戻りますか、野営地の村側を捜索しましょう。」


「そうだな、よし!頑張るぞ!!」


「張り切っちゃった。」




読んでいただき誠にありがとうございます!!

作者が少し体調を崩してしまったので少し短いかも知れません!

来月は頑張ります!


X(旧Twitter) @yozakura_nouka


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