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淫夢

夕刻のアケラ村ギルド、1階のバーカウンター。


シルマ達が出てしばらくした後に開かれたれた少し早い夕食会はギルドメンバーで貸切を行っていた、そもそも夜になると冒険者たちは宿に止まるか野営をしてあまり出歩かない為、日が沈むと暇なことが多い。


とは言っても村がもう少し活性化したらそんなことも言ってられないらしい。


「王都のギルドはもう真夜中まで冒険者などがごった返しで大変なんだ、酔っ払いも多いから騎士団も警備に回っていたかな。」


「そんなに。」


王都のギルド事情に詳しいのは以前勤めていた経験があるリガ。

シスター同様に王都務めはかなり優秀でなくてはならず、リガも同様に優秀だという事が伺える。


「それよりも今回はうまくいったようだな。」


「えぇ、結構スムーズにやり取りができましたよ、前回大まかに話をまとめてもらっていたからという事が大きいですね。」


「でもまだ完全に可決ではないからね、王都に出した報告書が国王陛下に認証されるまでが今回の件。

もちろんシルマ氏にも承諾を得るために魔王に許可を取って貰う事になってる。」


「実質国同士のやり取りになりますね。」


「もし承諾されたらアケラ村はもっと発展しやすくなるだろうな。」


「ここからシルマ領の貿易路を作るとかですか?」


「確かにそれがあるかもね、シルマさんたちはここから北の森を強引にぶち抜きで来てるらしいから道は作りたいね。」


「ぶち抜き?」


「そう、ぶち抜き。

本来魔王国領地の行き方は西にグルっと大回り道をして1週間の道のり、だけどシルマ御一行は朝出て夕着くらしい。」


「は、早い、危険性は…。」


「もちろんあるだろうけど、そこは魔族だから探知能力が優れてるんじゃない?

身体的構造が根本的に違うのもあるし魔族によっては眠らない方もいるらしいから。」


「無茶に耐えれる体って事ですか、人間には無理そうですね。」


そんな話をしていたらバーテンダーのジギが料理を持ってきた。


「ケンジ、お前が持ってきた水だがあれで料理を作ってみた、水質はだいぶ鉱質寄りの味だったが煮込めばだいぶマシになった。

牛肉などの固い肉に合う感じだ、今回はトマトとジャガイモと一緒に煮込んだ。」


「トマト…。」


「リガ、好き嫌いするな、食え。」


目の前に置かれた料理からはとても良い香りが漂ってきた。

一口で食いきれそうにないサイズの牛肉ブロックにざく切りの野菜、そして真っ赤なトマトスープ


「お、おいしそう…。」


「また感想を教えてくれ。」


そういってジギは奥へと引っ込んだ


「う~ん、トマトはなんか生臭さがあるから苦手なんだよ。」


「トマト嫌いのほとんどが同じこと言いますよね。」


そうしぶしぶ言いながらスープを啜るリガ。

ケンジも同じように啜る。


「「うまい。」」


同時に発せられた感想は偶然にも同じだった、必然だったのかもしれない。


(臭みがない、今まで食べた肉はただ焼いた肉だったから少し獣臭さがあったけど…これが硬水で煮込んだ料理…。

野菜も一緒に煮込んでいるからホロホロでうまみが出てる、トマトの生臭さがないから野菜嫌いの人でも大丈夫だろうな。)


横を見るとリガもスプーンを止めることなくがっついている。


「うんうん、これならいくらでも食える。」


「今まで食べた肉で一番柔らかいですね、水でここまで変わるとは。」


(硬水は洋風の料理のイメージがあったが、こういうことが理由なんだろうな。)


「これ看板メニューにしてもいいんじゃないか?冒険者に人気が出そうだ。」


「看板メニュー、確かに良いかもしれませんね!

集客効果もありそうですしね。」


今アケラ村は観光資源もないし、冒険者向け依頼も充実していないのでおいしい料理があるとなればおのずと観光客が増えるだろう。


「お、それ新作?」


一心不乱に食べてる2人の後ろから声をかけてきたのはアケラ。


「あ、そうですジギさんの新作です。」


「へぇ、おいしそう。」


ケンジの隣に座りジギに同じものを注文した。


「どうだった?今日シルマさんと出会って。」


「そう…ですね、そのことについてお話したいこともありますが…基本的には好印象でしたね!

優しい方でしたし、何より自国の領地を大切にされてる印象でしたね。」


「確かに、私からもちゃんとした領主って印象だったかな。

それで?何かほかに気になることがあるのかな?」


ケンジが思い返すのは、別れ際に言われたあの言葉。


(「転生者」…この事を知っているのはアケラ村のギルド上層部と教会白服の人だけ…どこから情報が洩れてるのかもしれない。)


「そうですね、ちょっとここでは言えない内容で…。」


「!!、じゃああっち方面の話題?」


「えぇ。」


「アケラ様、ここでは何ですし2階に上がりましょう。」


「待って待って、料理食べてからでもいい?」



◇     ◇



「で、何があった?」


急いで飯をかきこんだ後、リガとアケラとケンジの3人はギルドマスター室に集まって

いた。


「えっと、もしかしたらだいぶ大ごとになる可能性もあるんですが…。」


「なら尚の事話さねばなるまい。」


リガもいつになく真剣な表情で聞いている。


「えっと、実はシルマさんが帰られる際にですね、僕の事を『転生者』と…。」


「「.......。」」


怖くて顔は見えなかったが、安易に難しい表情をしている2人が想像できる。


「あの…。」


「考えられる可能性は?」


「教会側の漏洩、もしくはギルド内部からが考えられますね。

ですが教会側が知るのは白服以上ですので漏洩の可能性はかなり低いと思われます。」


「ハァ、ではギルドか?」


「ですがあまりにも早すぎます。」


「ではどう説明ができる?」


「それは…。」


頭を抱える2人。


「あの、決してふざけてるわけではないんですけど。」


ふとケンジは思い出したことがあった。


「シルマさんが言っていた『占い師』という可能性はないですかね?」


「ふむ…可能性としてゼロではないね、むしろその方がありがたいほど。」


シルマが言っていていた『占い師』もはやこのレベルまで来ると預言者とか未来が見えるとか言った方が良い程だ。


「実際ありうるか?」


「ケンジのように特別な力がある可能性は捨てきれないですね。」


「僕以外にも転生者が!?」


考えたことはなかったが、教会側も過去に複数人の能力者が存在していたと話していた。

同じ時代に複数人の能力者が存在する可能性はある。


「これまた教会案件ですかね。」


「だろうな、だが気になるのはシルマ氏がこのタイミングでケンジに話した事だな。」


「確かにそうですね、敵対行為と取られてもおかしくないタイミングです。

信頼を得るやり方にしてはあまりにも雑というか…。」


「うーん、なんなんでしょうかね。」


「とりあえずリガはセティに言伝を、この件は我々のみでの対応とする。

ケンジも他言しないように。」


「わかりました、早速教会へ行ってきます。」


「わかりました、十分に気を付けます。」


結局、シルマの動機はわからず教会の意見を聞くことになった。




◇     ◇     ◇     ◇



少し前、魔王領地にて。


コッコッと固い床を歩く音が響く。


シルマはアケラ村から出たその足で直接とある場所へ向かった、魔族の本拠地である魔王城である。


この魔王城は現魔王を支持する魔族たちの拠点となっており、彼らは魔王派閥と呼ばれている。


「魔王様、失礼いたします。」


重厚な扉の前に立ったシルマは、その部屋の中にいる人物に聞こえるように少し大きな声で話しかけた。


「入れ。」


落ち着き払った中性的な声、だがその声だけでシルマは緊張する。


「失礼します。」


重たい扉を開けるとそこは魔王が生活する部屋になっていた。

キングサイズのベッドにソファー、ゆらゆらと燃える蝋燭に照らされた部屋には2人の人影があった。


机にはチェス、白の駒を動かしているのは黒い翼が生えた麗しい女性、そしてその対局相手はシルマの主、魔王だった。


2本の禍々しい角に体の節々にはドラゴンを連想させる鱗、そしてエメラルドの様な綺麗な緑色の瞳。


一目見るだけでそこらの魔族とは違うことが分かる威厳のある姿はまさに魔王と呼ぶにふさわしい見た目だった。


「お楽しみの所申し訳ありません、アケラ村から帰還しましたことをここにご報告させていただきます。」


「うむ、ご苦労であった。」


その瞳はシルマを見ることはなく、チェス盤に釘付けだった。


「どうでした?例の、異世界人は居ましたか?」


凛とした声の持ち主は魔王の相手をしている女性、チェスの黒い駒をはじき白い駒を移動させる翼の生えた魔族。


「はい、占い師様がおっしゃる通りに怪しい人物に揺さぶりをかけてきました。」


「してその反応は?」


「非常に驚いた顔をしておりました。」


「ふむ、ではその方が恐らくは異世界人でしょうね。」


占い師と呼ばれた人物もチェス盤から目を離さずにしゃべり続ける。


「ほう、本当にいたのか。」


「まぁ私の眼も完璧なものではありませんので必ず居るとは限りませんでしたが、今回は大当たりでしたね、もし居なくとも訳の分からない質問なので警戒されることもないでしょう。」


「そうだな、ではどうするのだ?」


魔王は置かれた白い駒を黒い駒ではじき、番を終了する。


「まずは友好を示しましょうか、質問したことは相手側に広まってることですし、こちらも少し弱みを出して信頼を得るのが得策ですかね。」


「いかように?」


「私が出向きます、占い師としての力を見てもらい協力する姿勢を示せば良いでしょう。

ついでに異世界人を直接見てみたいです、能力によっては貿易のアプローチを変えるのが良いかと。」


「うむ、ではアケラ村についてはそなたとシルマに任せよう。」


「承りました、あと、チェックメイトです。」


「むっ!?いつの間に…。」


チェス盤を睨みつけ、腕を組み悩む魔王はこれで20連敗である。


「ではシルマさん、私の部屋でいろいろとお聞きしたいことがあります。

魔王様はおやすみのお時間ですので…。」


「あ、はい…わかりました、失礼いたします。」


1人でぶつぶつと局面を見ながら考察している魔王を背にしながら2人は部屋を出た。




◇     




「どうぞ。」


「ありがとうございます。」


占い師の部屋、この部屋に入ったものはもれなく首を上に曲げる。

その理由は壁一面の本棚にギッシリと本が並べられており、それが天井まであるからだ。


(上の方はどうやって取るんだろうか…。)


「では、いろいろお聞きしたいところですがまず一つ。

教会はどのような感じでしたか?人数や設備、規模がどれくらいかによっては警戒度が上がりますから。」


「それが、教会の大きさや人数はごく少数で2人しかシスターは居なかったのですが、大問題がありまして。」


「ほう2人、それは良い知らせですね。

問題とは?」


「1人は黒服なのですが、もう1人は白服で『コレクター』セティ・パロネルでした。」


「うっ、白服とは予想外ですね…。」


占い師は天を仰ぎ頭を抱えた。


「なぜあのような辺境の地に白服が?しかもよりによってエルフの白服…。」


「ですがかなり友好的というか、過去に対峙した時の様な殺意などは感じ取れませんでした。」


「おや、でしたらだいぶ良いですね。

ですがもうすでに白服がいるという事は、異世界人の存在は教会側にバレている可能性がありそうです。

その場合だとこちらは後手ですね。」


「ここからどうしましょうか?」


「チェスと同様に後手は基本的に不利です、ですので後手は後手なりの立ち回りがあります。

やはり私も同伴して訪問するのが良いでしょう、あわよくば異世界人をこちら側に引き込もうと思いましたがそれはもう無理ですので。」


「ケンジと言います。」


「!」


少し困り眉だった占い師が不意に笑顔になる。


「そうですか『ケンジ』と言うのですね?それはいいことを聞きました。」


「?」


「とりあえずは情報が足りないですし、名前からすると男性ですね?

でしたらちょうどよい方法があります、証拠も残らない完璧な方法が…。」


「それはどんな?」


「ふふふっ、とある人物の手を借ります。」


不敵な笑みを浮かべた占い師はシルマに作戦を話した…。




◇     ◇     ◇     ◇




深夜、アケラ村の2階のケンジの部屋。


少し肌寒くなってきたこの頃、動物の毛を詰めた重ための布団にくるまって寝ていた。


その日はシルマを案内したりで精神的に疲れていたこともありケンジは深い眠りについていた。



「ん?」


気が付くと見たことのない部屋に居たケンジ、今まで寝ていた部屋ではなく、煌びやかな部屋でどこぞの5つ星ホテルの様な豪華な部屋にいた。


「あれ?どこだここ?」


ケンジは周りをきょろきょろと見渡すが、何度見ても身に覚えのない部屋だ。


「夢か?」


「そうだ。」


後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「アケラさん…ってうわぁ!!!」


夢にしては鮮明だったので居心地が悪かったので、聞き覚えのある声が聞こえ安心したのもつかの間、ケンジはすぐさま眼をそらした。


「ちょ、ちょっと!!なんで服着てないんですか!?」


振り向いた先にはベットの上で一糸纏わぬ姿で横になるアケラの姿がそこにあった。


「ふふふっ、傷物の女は嫌いか?」


左腕のない彼女はケンジをからかうように妙に艶っぽい声色で喋る。


「いや、好きとか嫌いとかではなくてですね…。」


「そんなことより、もっと近くに…。」


艶めかしく誘う彼女を見て違和感を覚える。


「どうしたんです!?様子が変ですよ!」


体を背けたまま会話する、ケンジとて男だが上司の裸体を直視するわけにはいかない。


「細かいことを気にするな、いいではないか私とお前の仲だ。

私もここ最近忙しすぎて溜まっているんだ、なぁ、相手をしておくれ…。」


「ちょっ!アケラさん!!」


いつの間にかケンジの後ろに移動していたアケラは体を密着させてきた、背中に人肌の温度が伝わってくる。


「あわわ!」


アケラの右手がケンジの体をまさぐる、その手はケンジの下半身へと忍び寄る


「ん?」


だがその手はすぐに止まった。


「どうして?」


「え?」


「もしかして、男色?」



「一体なんの話ですか!?」



とんでもないことを言い出した

いつもと様子の違うアケラにしびれを切らしたケンジは彼女を振りほどく。





「!!」


振りほどくと同時にベットから飛び起きたケンジ


「…夢か、なんか嫌な夢だったな…。」


最近様々な事が起こり疲れているのかと思い再び眠りにつくケンジ、今度はより深く布団に潜り込んだ。




◇     ◇     ◇     ◇




「どうですか?何か聞き出せました?」



魔王城の一室、様々な香水が混ざった匂いのする部屋にはシルマと占い師、そしてベットに横になっている女性が居た。


「…駄目ね、はじかれちゃった。」


その女性は頭を押さえながらゆっくりと起き上がった

魔族の女性は肌露出が少ないにもかかわらず妖艶な雰囲気を漂わせており、街中で歩けば男性は皆振り向くだろう。


「君が?それは驚きだね聖職者でもない限り、君の誘惑からは逃れられる者はいないと思っていたが。」


「この国に私以上のサキュバスは居ないと断言できるわ、私レベルになると聖職者でも落として見せる。」


「ほう、つまり?」


「彼、只者じゃないわね。

男色の可能性もあるけど、それなら夢に入る段階で男性の姿で夢に入れるはず。」


「だが女性の姿で夢に入れたと?」


「そうね、彼は確かに『アケラさん』と呼んでいた、少なからず彼の中では好感度の高い人物よ。」


「ほぉ、領主か、彼が実は人間不信という可能性は?」


「それなら私も感じ取れるはず、不思議な感覚だったわ。

まるで性欲そのものが無いかの様な…。」


「ふむ…。」


しばらく考え込む占い師


「とりあえずはこの事を魔王様に報告するべきではないのでしょうか?」


「いや、もう少しアケラ村の主要人物の調査をしてからにしよう。

次はダロラン・ポートの夢に入れるか?」


「ちょっと休憩させて、あまり連続で人の夢に入るとこちらにも意識の混濁が生じるから…。」


「では明日でも構わないからよろしくお願いできる?」


「えぇ、また報告するわね。」




2人はサキュバスの部屋を後にする。


魔王城の長い廊下を歩く二人、占い師は少し考え事をしながら今後の計画を練る。


「占い師さん、やはり異世界人の特別な能力が影響してるのでは?」


「…まぁそう考えるのが普通でしょう、この件は私に任せてください。

あなたはこれまで通りアケラ村と交流を続けるように。」


「わかりました、前回別れ際に異世界人の事についての話を本人に伝えましたが…。」


「それはそのままで良いです、こちらには情報収集能力があることをアピール出来ますし、向こうも『もしかしたらカマをかけてるかも…』と思わせる事が出来れば、向こうから下手に質問は飛んでこないでしょう。」


「ん、なるほど…難しい事はわかりませんがこのままでよいのですね。」


「また何かあれば伝えますので、ではこのあたりで。」


「はい、今日はありがとうございました。」






◇     ◇     ◇     ◇






「どうも。」


本格的に寒くなってきた朝方、ビットからもらった毛皮のマントを愛用しているケンジは包まりながら下りてきた。


「良く寝れたか?昨日は疲れただろう。」


いつも朝早くのバーカウンターにはリガが座っており肉料理を頼んでいるか何か飲み物を飲んでいるかだ。


「昨日は疲れましたね、ここ最近ドタバタで気を使うような会議も多かったですし…おかげさまでなんだか変な夢を見ました。」


「へぇ、どんな。」


「えっ?いやその…。」


「もし悪夢だったら枕元にお守りを置くといい、我々山エルフは故郷の山の石を枕元に置くかな。

アケラ様や教会の様にコーネリア教を信仰してる人はアストログロブ像を置いたりする習慣があるらしい。」


「へぇ、お守りを。

やってみようかな、この前野営地で女神の石像買いましたし。」


「あぁ、あれか、あれは良い出来だったな。

魔法やまじない的なものが無くても、あるだけで精神的な助けになるものは多い。

特に冒険者間ではそういったものが多くてな。」


お守りというものは様々なものがあり、教会が祈りをささげたものから村の娘が小遣い稼ぎに有り合わせの物で作ったものもある。


「不思議なものでな、物には人の魂が宿ると考えることがある、山エルフは特にこの考えをするものが多いな。

大半は思い込みだろうが、中には本物もあるかもな。」


「では、さっそく今夜にでも女神像を枕元において寝てみようかな。」


「是非そうしてみてくれ、で何か面白い夢を見たらまた話してくれ。」


ちょうどその時朝食が運ばれてきた。


「ケンジの姿が見えたんでな、注文を取らずにスマンが試作品だ、食べてみてくれ。

リガは大鳥サンドな。」


「おぉ、煮込んだ肉を使ったサンドイッチだ。」


「私はやっぱりやわらかい肉より少し硬めの肉の方がいいな!」


リガは大口を開けてサンドイッチを頬張る。

固いバンズに挟まれた直火焼きのチキン、アケラ村ギルドで一番安くて腹持ちが良いメニューだ。


ケンジはひと段落着いた朝に優雅な朝食をすごした…。





◇     ◇     ◇     ◇





同時刻、ゴルド王国騎士団、団長室


「ならんぞ!!」


朝から血圧が上がりそうな声量で叫ぶ初老の男性は騎士団副団長のギルデント・モーグ。


そして怒鳴られているのが団長のレイ・ベルモンドだった。


「先日の作戦内単独行動により団員からの信頼が下がっているのだ!

そんな中、私情が込み入った内容の偵察を誰が許す!?」


「私情って言ったってな、今現在復興に力を入れている辺境の村、アケラ村の偵察がそんなに駄目か?」


「そんなもの、北地方担当のベリットに任せれば良いだろう!

団長であるお主が動くだけで、それが騎士団の総意だと取られかねんのだぞ!?」


今回のドラゴン襲撃事件、唯一の生存者であるアケラは騎士団を追い出され辺境の領主になった。


この事から真実を知らない者は


『隊長を任せられていた人物が荷物や団員を守れなかった、だがこれまでの功績やドラゴンを撃退した事もあり、王都から追い出され、辺境のさらに辺境であるさびれた村の復興を命じられた。』


といった理解だそうだ。


「俺は総意と捉えられても問題ないぜ、アケラは俺なんかより団員からの信頼があった、あいつはあんな端っこで燻っていていい人材じゃない。」


「お前が後継者としてアケラを信頼しているのはわかる、だが今は時期早々だ。

もう少し時間を空けるべきだと思う。」


「……ならベリットでもいいから向かわせてくれ、アケラが満足しているならそれで良い。」


「あぁ、そうしよう。

今日はドラゴンの頭を国王に披露する日だ、髭を剃ってくるんだぞ。」


「わかった。」



どこか悲しそうな表情を見せるレイの姿は、はたから見れば娘に会えない父親のようだった。


読んでいただき誠にありがとうございます!!


X(旧Twitter) @yozakura_nouka


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