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再会

占い師、この世界ではかなり信頼されている職業となっているらしい。

それもそのはず、現代では医療や科学の発達により判明している物事が、異世界では不

可解な現象なのである。


異世界であるここでは重い病気などは占い師に見てもらう事が多い。


「占い師、ですか?」


そんな占い師という単語が出てきたのはアケラ村とシルマ領の会議のことだった。


「はい、我々には戦後に専属の占い師がおりまして、これまでも幾度も助言に助けられてきました。

今回のお話も、占いで『よい結果が出る』と言われたのもあります。」


「結構当たるんですか?」


「えぇ、かなり。

証拠になり得るかどうかは分かりませんが、持っていけば良いと言われたものをお出ししますね。」


シルマは鞄から紙の束を取り出した


「これは?」


アケラは紙の束を受け取る、ケンジはその紙に見覚えがあった。


「カレンダー!?」


その紙には前世でよく見た31日までの日が書かれているカレンダーによく似ていた。


「はい、現在魔王国で発行している『太陽暦カレンダー』と言います。」


「これも占い師の方が?」


「えぇ、私も詳しくはないのですが、ひと月が30、もしくは31日でそれを12回繰り返すと1年という単位らしいです。

にわかには信じられませんが、我々の住んでいる世界は球体らしいですよ?」


「…へぇ。」


下手にリアクションすると転生者とバレてしまうので曖昧な返事しかできなかったケンジだが、恐らくこの場ではこれが正解だろう。


「うーん、よくわからないがこのカレンダーがあれば農業が楽になるんだな?」


「そうですね、体感的に今がどのくらいの季節かは把握できますが、このカレンダーのように視覚化することによって僕の様な専門家以外も作業がしやすくなります。」


「なるほど、確かにそれはありがたいな、ケンジだけに任せるのは効率が悪いからな。」


「我々魔族の間でも氷賢などの表記では細かな予定が組めないので重宝しているんですよ。」


「確かにこれはいいな、明日、明後日などと伝えるより何日と伝える方が良いか。」


「えぇ、因みに本日は9月25日です。」


「ここか。」


アケラはカレンダーをペラペラめくり9枚目の紙を見て日付けを確認した。


「ははぁ、こりゃ便利だ。」


「ありがたく頂戴いたします。」


こうしてアケラ村にカレンダー制度が導入された。





「この後はどうされます?」


会議室から出てきたアケラとシルマとケンジの3人、ダロランは今回の書類をゴルド王国に送るためにまとめている。


「そうですね、では教会に挨拶をしたいですね。」


「なるほど、ではケンジ君に任せよう。」


「えッ!?」


アケラが近づき耳打ちする


「忘れたのか?私は元騎士団所属だ。

騎士団は教会に近い組織でもあるから私が赴けば教会側2人に魔族側1人で公平ではなくなる。」


「なるほど、つまりは中間の立ち位置の人間が良いと。」


「そう。」


「それ聞いて行きたいと思います?」


「1000Gあげる。」


「(10万円分…)わかりました。」


ケンジの財布には最初に貰った給料しか入っておらず、それもあとわずかしかなかったので大変魅力的な話だった。


しぶしぶギルドの外でシルマと合流し教会へと案内する。


「お待たせいたしました、では教会の方へとご案内します。」


「ありがとうございます、よろしくお願いいたしますね。」



◇     ◇


村から教会までは徒歩で向かう、魔族の秘書も同行したがっていたがシルマが拒否した。

魔族がぞろぞろ教会に行くのは良くないという事らしい。


「いやぁアケラ村は非常にのどかな場所ですね。」


「確かにそうですね、物騒な事は起きていませんしギルドの依頼も「オオカミの討伐」とか「薬草採取」とかばかりでしたし。」


「わぁいいですね、我々の住んでいるところでは魔物が多くて、もしギルドと協力できるなら魔王国領にもぜひ来ていただきたくおもいます!」


「それは良い案だと思います、そうなるとアケラ村にくる冒険者も増えますね。」


その時、昨日ラシにお願いされていた話を思い出した。


「えっと、もしよろしければ教えていただきたいのですが、シルマ領というのはどの辺なんですか?」


「そうですね、実はどこが村だとかは決まってなくてですね、廃墟や小屋などに住み着く者もいますが基本的には皆放浪の民です。」


「シルマさん達もですか?」


「私や秘書たちは魔王城に住んでます、魔王城はご存知ですか?

ここからはるか北にまっすぐ行くと魔王国がありまして、その中心です。」


「そこから通われてるんですね。」


「ですが今後通う頻度も増やそうと思っていますので、国境付近に住居を建てようかと思っております。」


貿易自体は数か月に1回程だが、それ以外にもギルドへの依頼などでアケラ村を利用したいとの事なのでアケラ村とシルマ領の間に家を建てたいらしい。


「もちろん魔王国領地側に立てますのでご迷惑はおかけしませんよ、また建てる時にはご連絡いたしますね。」


「もう少し往来が楽になればよいですね!」


(という事は、ラシさんが聞きたがってた村の位置というものは存在せず、領地だけという感じなんだな。)


気を悪くしたらどうしようといった不安があったが、ラシが思っていたより重要な案件ではなかった様子。


「そろそろつきますよ、この角を曲がるとすぐです。」


教会への道案内も難なくできるようになるまで村の事を理解し始めたケンジ、隙あれば散歩したりしてたのでなんとなくではあるが頭に入っていた。


「あら、立派なコーネリア教会ですね。」


「今は2人のシスターが居て…あっ。」


「どうかしましたか?」


今の今までケンジが気が付かなかったのは、恐らくこの世界の歴史を深く理解していなかったからであろう。


アケラ村の教会には本来こんな田舎には居ないはずの人物が、特別に在住していたのを忘れていたのだ。


「いえっ、ちょっと考えごとをしてまして…。」


(教会と魔族は恐らく問題ないんだろうけど、白服と魔族はどうなんだろう。

もしかすると知り合いだったりしたらとても気まずいぞ…。)


そんなことを考えて教会の入り口で考え事をしていると


ガチャッ


「その声はケンジ君かな?」


何ともタイミングが悪く問題の人物が出てきてしまった。


コーネリア教、幹部『白服』の序列6位

セティ・パロネル


ケンジと目が合うより先に後ろに立っていた背丈2メートルはあろう魔族の女性と目が合う、実際には1~2秒の間だったがケンジはその数秒が永遠に感じられた。


そんな沈黙を破った声はケンジの頭上から聞こえた。


「これはこれは、まさかこのような場所でお会いできるとは思っておりませんでした、『コレクター』セティ・パロネル様。」


そんなシルマの挨拶に対していつも通り落ち着いた姿を保ちながら挨拶を交わすセティ。


「まさか来客中の魔族のお客様が『持たざる者』ペルーナ将軍様とは驚きました。」


「今は『シルマ』と名乗っております、以後お見知りおきを。」


「かしこまりました、シルマ様。

こんなところで立ち話ではなんですから中へどうぞ。」


「えっえっえっ?」


ここでケンジが思った事はただ一つ


(絶対アケラさんが案内した方がよかった!!せめて同伴してほしかった!!助けてくれ~!!)




◇     ◇     ◇ 




教会の応接間、その空間は何とも不思議な空間になっていた。

背丈の高い角の生えた魔族、真っ白なエルフ修道女、そして異世界転生者の人間


そんな彼女らが来訪者側と教会側に分かれソファーに座り、セティが入れたハーブティーを啜っている。


「お、おいしいですね…。」


ケンジが言えるのはそれしか言えなかった。


「行商人から仕入れましたジュゲ大密林産の良い茶葉です。」


「あなたの故郷のですか?」


「えぇ、そのようです。」


どうやら2人は顔見知りの様子


(気まずいな、まさか顔見知りだったなんて…一体どんな関係性なんだろうか。)


お茶をすすりながらそんなことを考えていたが、その答えはすぐにわかった。


「もう、『将軍』は退職されたんですか?」


「えぇ、平和条約が結ばれた後、魔王国軍は直ちに軍隊を解体し我々は各地に散らばるようにそれぞれの生活をしてます。」


「魔王は?」


「陛下はまだご健在ですよ、最近はチェスにハマってます。」


「そうですか、良かったです。」


セティはクッキーを口に運び茶をすする。

因みにこのクッキーはまったく甘くない、砂糖は高級品なのだ王都まで行かないとなかなかお目に掛かれない。


「そちらは?相変わらず収集を?」


「えぇもちろん、私の寿命があるうちに集めきれるかわかりませんね。」


「ハイエルフの冗談にしては面白いですね。」


何とも言えない微妙な空気が漂う。


「あ、あのお二人はどのような関係で?」


「警戒させたくなかったので伏せていたのですが、もうお分かりの通り『元魔王国軍将軍』として働いていた時期がありました。

とは言っても過去の話で、今は魔王国務めです。」


「そして昔の白服は主に情報収集や他にも汚い仕事もしてきたので、もちろんその中には将軍様の部屋に侵入とかもするわけで…。」


「なるほど。」


「けどお会いしたのは結局あの夜だけでしたね。」


セティが懐かしむような表情をしながら詳細を語ってくれた、まるで思い出話をするかのように。



◇     ◇     ◇     ◇


60年程前、魔王国領地内の魔王城にて


「交代だ。」


全身鱗で覆われたトカゲの様な魔族がうす暗い廊下で会話していた。


「おう、どうだそっちは?」


「良くないな、何でも前線基地に何者かが侵入したらしい。」


「なんだそれは?被害は?」


「次の侵略作戦概要や兵の個人情報など、見張りは皆そろって気絶していたらしい。」


「おいおい大問題じゃないか、前線基地なんて重要拠点がそんなので魔王軍は大丈夫なのかよ。」


「それがウワサでは、ほら例の教会の。」


「あぁ、なんだったか『白服』だったか?

あんなもんおとぎ話だろ、そんな目立つ格好なら目撃情報がいくつも上がってるはずだぜ。」


「だよな、この調子だと兵士の士気が下がるから本部も何かしら対策を立ててほしいよな。」


「おい、ペルーナ将軍の部屋の前だぞ、聞かれたらどうする。」


「おっと、しゃべりすぎた.......な…。」


会話していた2人の魔族は気付いたかわからないが、短剣のような小さな光の剣が2つのトカゲ頭を通り抜けていった。


2人のトカゲの魔族はその場に倒れこみピクリとも動かなくなったが、かろうじて呼吸は出来ている様子だった。


「…。」


2人の兵士を踏みつけないように気を付けて歩きながらお目当ての部屋の前まで移動する、その姿は薄暗い魔王城の廊下でもハッキリと目視できるほどの白い修道服に薄いグレーのヴェールをかぶっていた。



白服の修道女は扉の前に立つと音もなく扉を開き中に滑り込む。



部屋に明かりはついておらず窓から差し込む月明かりのみが部屋を照らす。


その部屋は書斎のようにたくさんの本と巻物が置いてあり、中央の大テーブルには詳細な世界地図が広げられており、駒などが現在の戦況を表していた。


「…!!」


白服がお目当ての書類はどこかと探そうと思った矢先、奥のテーブルに誰かが座っているのに気が付く。


「…貴様がここ最近我が軍を嗅ぎまわっている『白服修道女』とやらか。」


椅子から立ち上がった人物は窓から差し込む光に照らされその姿を晒す。


そこそこ背が高い方だと自負していた白服修道女を見下す背丈、筋骨隆々の体、額から生える凛々しい2本の角。


見間違えるはずもなく修道女は彼女が魔王国軍のトップ、将軍ペルーナだと確信した。


「…。」


だが予想外の遭遇にも関わらず、白服は一言も言葉を発しないまま先ほど兵を無力化した様に光の剣を飛ばす。


今までのように光の剣は相手の頭を通り抜け、すぐに無力化できる…はずだった。


「遅い。」


その体格に見合わぬ俊敏さで光の剣を避け、瞬間的に間合いを詰める。


「んっ!!」


まさかの素早さで間合いを詰められ、あと数センチで手が届いてしまうところだった。

後ろに飛び退き再び距離を取る。


「思ったより素早いのね。」


「やっと音を出したな、心音すら聞こえないから亡霊の類かと思ったぞ。」


「『隠密のヴェール』、声さえ発しなければすべての音を遮る奇跡よ。」


「いいのか?手の内をさらして?」


「もともとおしゃべりな方なの、窮屈で仕方ないのよねこれ。」


改めて対面する2人。


「ならばその流れで名前を聞かせてもらおう修道女よ、我が名はペルーナ。」


「密偵が名を明かすわけないでしょ…コレクターと名乗っておくわ。」


「目当てはなんだ?」


「魔王軍の幹部構成。」


「正直だな、密偵向いてないぞ。」


「上司にも同じこと言われてる。」


「…。」


「…。」


しばらくの沈黙。

先に仕掛けたのは白服


右手を懐に差し込み、ペルーナに向かってナイフを投げる。

驚くべきことなのはそのナイフの本数とサイズ。


「なっ!?どこから!?」


投げられたナイフは包丁のようなサイズでなんとその数10本


「まだまだ!!」


間髪入れずに続投、だがこれらすべてを拳ではじき落とすペルーナ。


「遅いぞっ!!」


まばたきすれば白服の目の前には特大の拳、当たれば頭のみ吹き飛ばせそうな勢いの拳を人並外れた反射神経で避ける白服。


「っ!」


間一髪で避け、バランスを崩した体勢で攻撃に転じる。

いつの間にか左手に握られていたのは光の剣、その件をペルーナの脳天目掛けて突き刺した。


「うぅっ。」


フルスイングで拳を振り切った勢いのまま倒れこむペルーナ、もちろん位置的に白服の上に覆いかぶさる様に倒れこんだ。


「は、ははっ、危なかった。」


ペルーナはトカゲ兵士の様に生命活動だけしている、白服はその巨体から抜け出すようにもぞもぞもがいていた。


「重すぎっ、なんであんなに素早く動けるんだ。」


やっとのことで抜け出して一息つく。


「ふぅ、なんでペルーナ将軍がここにいるの?前情報だと城外に出てるはずだったのに…まあいいか。」


懐から短剣を取り出し首筋に当てる。


「申し訳ないけど、戦争なのよね。」


グッと力を込め動脈を切る、いかに自然治癒能力が優れている魔族とはいえ動脈を切られてはひとたまりもない。

教会の過去の”実験”によりそれは判明している。


「えっ?嘘…。」


その異様な光景に常に冷静を保つように訓練された白服だったが、思わず驚きの声を上げざるを得なかった。


動脈は確かに切れた、数ある短剣のコレクションの中から一番切れ味の良い物を選んだのだから間違いはない。


だが血が出なかったのである。


それどころか見る見るうちに傷が塞がりあっという間に治ってしまったのだ。


(魔族の自然治癒?にしては早すぎるし血が出ないなんてことある!?)


動揺してしまったがそこは白服、すぐに任務を思い出す。


(そんなことより情報だ、もともと将軍との遭遇は想定外。

無力化できた今、優先すべきは将軍の部屋にある幹部情報…。)


引き出しや本棚を漁り、重要な文献を懐に収納してゆく。


(こんなもんか、将軍は…どうしようか…。)


戦時中の教会の方針としては「痕跡を残さない」を何よりも重視していたのでこの場で処理しておきたい。


だが先ほどの戦闘音を聞いて兵が集まるかもしれない、ここに来るまで何人かの無力化はしてきたが時間経過で目が覚める。


(くそ、時間もないし適切な処理する方法もない…あるにはあるが証拠が残りすぎる。

仕方ない、撤収だ。)



白服は再びヴェールを被り、音もなく部屋を後にした。



◇     ◇     ◇     ◇



「という事がありまして、終戦後あらためて『コレクター』の名前を冠した白服を調べてセティ様の事を知りました。」


「あの時の事は忘れません、初めて私が現場に目撃者を残してしまった日ですもの。」


すっかり冷めたお茶をもってニコニコ笑顔で向かい合う2人を横に、ケンジは慌てふためいていた。


(どうしよう、仲が悪いどころか殺しあった仲だったとは。

まずいぞ、今からでも遅くないからアケラさんかリガさんに助けを…。)


だが歴戦の戦士2人からは怯えている事が筒抜けのケンジ


「ケンジさん安心してください、我々教会はもはや魔族とは敵対しておりません、戦は終わったのです。」


「そうですよ、もちろん襲撃された事は事実ですが我々魔族も許されないことをしてきました、両国とも己の正義の為に戦ったのです。

そこにどちらが悪かったという事はないのです。」


「そうですそうです、今は同じアケラ村復興の仲間です。」


昨日の敵は今日の友とはこの事だろうか、以前まではもちろん仲が悪かったであろう魔族と教会側がこうして1つのテーブルで茶を啜りながら話し合っているのだ。


もしかしたらケンジが思っているよりも大丈夫なのかもしれない。


「それでしたら良かったです…。」


「して、今はシルマさんでしたっけ?今回の貿易以外に他国、もしくは他ルートはありますか?」


「他のルートですか?うーん、以前交渉した国はありますが…物資のやり取りは商人のみですね。」


「ゴルド王国に輸入したりとかは?」


「許可が下りませんでしたよ、まだそこまで信頼が戻っていないと痛感した交渉でした。」


「なるほど、となるとやはり設立したてで交渉をねじ込みやすいアケラ村へと来たのですね。」


「まさにその通りです、占い師の助言もありましたが。」


「ふむ、占い師。

それもまた調査させてもらうかもしれませんね~。」


「ま、まあいいでしょう今は平和条約中ですからね、教会も昔の様な乱暴な調査はしないと思いますし。」


「…。」


「え、しませんよね?」



◇     ◇     ◇     ◇



教会の正門にて、教会内部の案内などを一通り終わらせてギルドに帰る時間になった。


「そういえばなんですけど。」


ふとシルマの事について気になることがあったので聞いてみるケンジ、別に2人の時にも聞ける内容ではあったがセティにも聞きたい内容だった。


「最初に顔合わせた時に、『コレクター』や『持たざる者』みたいな名前がありましたけど、あれって二つ名ですか?」


「ん?そうですね、我々の場合は戦時中の二つ名ですのであまり現在では言われませんよ。

私が当時名乗っていた二つ名の『コレクター』はなんとなく分かると思いますが…。」


「その時から奇跡の収集を?」


「えぇ、最初は仕事でしたが今となっては趣味と言いますか生きがいになってますね!」


「セティさんはまだ良いですよね、私なんか剣や弓、魔法の才能がなかったのでこの拳一つで戦っていたら『持たざる者』なんて名前がついてしましました…ただ不器用なだけなのに。」


(リガさんっ前言っていたみたいに良い二つ名と悪い二つ名があるんだな、セティさんみたいに自分から名乗るパターンもあるっぽいけど。)


「今気が付きましたけど、シルマさん昔に比べてずいぶん細くなりましたね?だいぶ筋肉がしぼんだのではないですか?」


指摘されたシルマは力こぶを作り、無邪気な笑顔をつくった。


「もう戦争は終わりましたからね、望むならペンを持つ筋肉さえ残れば良い世界になれば良いですね!」


「これからの我々が目指す理想ですね。」


そんなことを話しながらケンジとシルマは教会を後にした。




ギルドに帰るとダロランやアケラ、そしてリガがシルマの秘書と話をしており、そこに合流し別れの挨拶を済ませた。


アケラとケンジを除いて2回目の訪問だったので話し合いはスムーズに終わったので、ケンジはシルマを馬車まで見送ることにした。


皆がいる方とは違い、馬車の反対側に回ると扉が開いており従者の魔族が足場を出していた。


「では私はここで。」


馬車の後ろには荷物を載せている従者の姿が見える、今回はアケラ村に滞在している商人からいろいろ購入して帰るそうだ。


「もし何かお手伝いできることがありました私、シルマ何なりとお話ください、そちらのリガさんに伝えればこちらの秘書がテレパシーで遠距離会話ができますので。」


「おぉ、それは便利ですね!恐らくですが農業が本格的に始まるのはカレンダーだと3~4月ごろになると思います、様々な作物を作れるように努力しますので。」


「なんとも心強いお言葉!」


シルマと固い握手をした、そしてシルマは周りを少し見渡しケンジの耳に顔を近づけ、周りに聞こえないような声で囁く。



「さすがは転生者様ですわ。」



ビクッと体をこわばらせるケンジの目に映ったシルマの顔は、先ほど教会の前で見せたような笑顔ではなく。


何か、獲物を見つけた獣の様な…。


「それではまたお会いしましょう、ごきげんようさようなら。」


そう言い残すとシルマ一同は馬車に乗りアケラ村を去っていった。

ぽつんと残されたケンジはまだ心臓がドクドクと脈打つのが分かるほど動揺していた。


(どこでバレた?リガさんやセティさん、アケラさんやダロランさんしか知らないはずだし、というか今回ほぼ最初から最後までシルマさんと一緒に行動していたから…。)


「ケンジ、見送りご苦労様。」


肩にポンと置かれた見事な装飾がされた義手。

その触れられているところからじんわりとあたたかい何かが伝わってきた、するといつの間にかケンジの動機は収まっており冷静さを取り戻した。


「ア、アケラさん、お疲れ様です。」


「何かあったか?動揺が見られたが…。」


「いえ、なんだか疲れました。」


「ははっそうだろう、今回はすまなかったな!!入りたての職員が背負う仕事ではなかっただろう。」


「ほんとにそうですよ!!なにか奢ってください。」


「いいぞ、ジギが君が持って帰ってきた水を利用した料理を思いついたらしい、少し早いが晩御飯にしよう。」


「へぇ、なんでしょう?」


アケラの後ろを着いてゆき、ギルドに入るケンジだったがその心にはモヤモヤが残ったままだった。


読んでいただき誠にありがとうございます!!


X(旧Twitter) @yozakura_nouka


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