いざ転生
「熱中症ですか…」
死因は熱中症、近年多く見られる死因でもある。
「あ、あの現世で私の死体やその後の後始末などは…」
「そのままです」
◇ ◇ ◇ ◇
「そうですか、分かりました。」
影山は深々と葬儀の方にお辞儀をしその場をあとにした。
ここは葬儀会館、中山健二の葬儀の最中であった、健二は身寄りがなく孤独であった為に市が葬儀を行っていた、唯一交流があった影山は葬儀に参加していた。
「中山さん…熱中症かぁ。もっと気に掛けとけばなぁ」
「おうご苦労さん。」
「あ山本さん、お疲れ様です。」
「中山さんのお話を役所にお話してきました。」
「…やっぱり農地は機械化か?」
「そうなるらしいですね、土地の所有権も市に移りますし。私としては後継者を探し、あの土地はそのまま使ってほしい考えも提案しましたが。」
「まぁ、市からすればそれより機械化にしたいだろうな。」
「かなしい現実ですね、中山さん成仏できないですよ。」
「仕方ないかもな、時代だよ。」
「中山さん、天国でも農業してそうですね...」
「あの人なら不思議じゃないな...」
◇ ◇ ◇ ◇
「で、どうします?もうサクッと異世界転生がオススメです、色々質問した後に送って終わりなんで。」
「凄いめんどくさがってませんか?」
そんな健二をよそ目にヨヴィは一枚の紙を取り出す。
「ここに希望世界やどんな事をしたいか、使いたいチートなど記入して下さい。」
「は、はぁ。」
ヨヴィによると一番人気は【勇者】や【最強】系統の転生だそう、やはり非日常な人生を歩みたいならオススメだそうだ。
「ちなみにチートというのは?」
「そうですねぇ、便利系だと【マジックポケット】とかの収納系、あとは戦闘スキルの【五大魔法】や【万物破壊】とかは記憶に新しいですね。」
「なるほど、ほんとにファンタジーなんですね。」
また、転生世界も様々あり。
より地球に寄せた環境、つまり魔法などは無く刀と暴力による世界や、逆に魔法中心の世界。
平和な世界、魔王と勇者の世界など様々な世界が存在するとの事。
「面白そうですね、どうせ死んでしまったのだし、新しい人生を始めると考えて異世界転生も良いな。」
「今回はptがだいぶ溜まってるので、とりあえずの⦅任意転生⦆に100pt使いまして、残りの100ptはこちらで振り分けときますね。」
そう言うとヨヴィは一つの水晶を取り出した。
「いやー、久々にやりますよ!任意転生!」
「え、大丈夫なんですか?」
久々と言う単語を聞いて、失敗するのでは無いかと不安がよぎる。
「大丈夫ですよ!前回の転生が約120年前!地球ではない別世界の方の転生でしたがね!」
「やっぱり転生できるほどポイント貯めるのは難しいんですかね。」
そう、人が1人の一生を終えて得られるのは平均で5ptだそうな、ならば転生に必要な90〜100ptなぞ途方のない数字なはずだ。
「いえ、それが前の代のトクトクプロジェクト担当者に聞いた話だと私の代からポイントが0.1倍になったらしいですよ。」
「えぇ!つまり前までは比較的簡単に転戦出来てたんですね!」
「そうなんです!なんでも治安が悪くなり人助けのチャンスが多くなる事に比例して、ポイントをどんどん稼ぐ人が増え、転生者が急増して転生先が足らなくなる事案が発生したんです!そこで急遽!私の代でポイント見直しが提案され今に至ります!」
「た、大変ですね...」
「そうなんですよ〜私の代になった瞬間転生なんて2〜3人ですよ〜。」
それでも2〜3人いる事に驚きではあるが。
「さて、では書いてもらった紙貰いますよ!」
話を聞きながら健二は自分の要望を書いていた、どんな世界があるか分からず何を書けば良いのかも分からなかったが、とりあえずは自分のしたいことが出来る所であればどこでもよかった。
「どれどれ〜?ふむ、『まったりと農業がしたい』『技術の進んでない機械などがない世界』『18〜20歳の体』ふむ、つまり【まったり農業系異世界】ですね!」
「そうなりますね、あと記憶の引き継ぎなどは...」
「それは⦅任意転生⦆の内に入ってますよ!pt消費は特殊なスキルや、容姿変更などに使うのでこの場合は『若さ』と『ルックス』に使わせてもらいます!」
「る、ルックスですか?見た目は別に変えなくても良いのですが、そりゃイケメンの方がいいとは思われますが。」
健二は見た目は40代の男性で顔つきはどちらかと言えばさっぱりしない顔だ、人に覚えてもらいにくいどこにでもいそうな顔である。
「甘いですね、異世界では基本的に顔面偏差値は高いのですよ!それも地球の20倍!モデル級の方々が普通に街を歩いてるのですから!そうなれば!必然と健二さんの顔も平均的にしなくてはなりません!」
「そんなもんなんですかね...」
ポイントは余裕があるので細かいところはヨヴィに任せる事にした、何せ異世界の事は健二には何も分からないのだから。
「てなわけで少し顔良くして〜、そのあと170cmまで背を伸ばし〜現地語をインプットしたあとに〜......あとは?」
「あ、手先の器用さや体力増やす的なやつが有れば。」
「りょ〜かい、後の細かいのはこっちでやっとくね!じゃぁ1分後に転生で〜す。」
「早い!!」
不安な点がものすごく多いがヨヴィは有無を言わさず水晶を掲げる。
「なんか困ったことあれば教会やパワースポットで強く願ってくださいね!少しだけなら会話が許されてますので!」
水晶が白い光を放ち始める。
「あと!自分が転生者とは言わない方が良いです!スローライフを送りたいならね!!」
光はより強く明るく部屋を包み込む。
「え!ちょっ!聞きたいことが多すぎる!!ヨヴィさん!待ってください!!ちょっと!」
その抗議虚しく、健二の意識はそこで途絶えた。
最後に見たのは眩しく光る水晶と、満面の笑みで仕事を成し遂げたヨヴィの顔だった。
◇ ◇ ◇ ◇
「いきなり過ぎる。」
目覚めた健二は周りを見渡し危険がない事を確認し、ため息を吐きながら開口一番そう呟いた。
あたりは林と思われる場所で、少し離れたところに道が見える、木は所々に生えており緩やかな風と鳥の鳴き声が聞こえるのどかな場所だった。
顔はまだ分からないが、視線が高くなっているのはわかる、身長が伸びたからだろう。
身体もがっしりしてる、バキバキに筋肉が付いてるわけではないが生活に必要以上の筋肉量なのは間違いない。
服は昔よくやったRPGゲームの村人みたいな服だ、布で出来ており通気性が良い。
農作業時に来ていたサラサラの吸水速乾の化学繊維服に比べると肌触りは悪いが、真っ裸よりましだ。
「さて...何をすれば良いんだ?」
異世界に飛ばされてまず先にする事を聞いておけばよかったと後悔するも、とりあえずは出来ることから始めた。
「まずは水探しでもしようかな。」
健二は不死でもなんでもないただの人(のはず。)なので、食べたり飲んだりしないと生きていけない。
しかし闇雲に歩いても水にたどり着ける訳がないので、取り敢えずは道に出る事にした。
それは田舎の田んぼ道のような人や馬、馬車などによって踏み固められた道だった、とりあえずは人が通る道だということは確実なのでこの道を辿ればいずれ村や街、良ければ国などに着くはずだ。
「取り敢えずは歩くか、腹も減ってないし、前と違って身体もしっかりしてるから大丈夫だろ。最悪、通りすがりの人に道を聞くもありだな。」
健二取り敢えず歩き出した。
この先、異世界に振り回される事を知らずに、未知の世界に心を躍らせるのだった。