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水が湧き出る壺

夕方、リガとケンジのテントにて。



「さて、この壺だが、ビット氏の説明だと飲める水が湧き出てくるらしいが…。」


荷物を馬車に乗せ農具も積み込み終わったので残りは壺のみである。


「飲めるって言われても、少し怖いですよね。」


水が湧く壺。

ビットから譲り受けた恐らく『奇跡』であろうと思われるもの。


「飲んでみますか?」


「そうだな、飲んでみよう。

ビット氏も歴っとした商人だからウソを言うのは考えにくい、我々はアケラ村の職員だから猶更嘘は付けないはず。」


梱包された壺のふたを開けると、確かに中は水で満たされていた。

柄杓(ひしゃく)も中に入っており、すくってみると無色透明な液体だった。


「見た感じは水ですね。」


「毒かどうかだけ見るか。」


リガは調理器具袋から1本のフォークを取り出した


「これ、分かる?」


「もしかして、銀食器ですか?」


「正解、異世界でも銀は同じ認識なんだね。」


銀食器、銀は「ヒ素」に反応し黒く変色するので昔から毒を調べる方法として用いられてきた。


リガは壺の中にフォークを付けてみると…。


「変色は無そうだな…念のため私から飲もう、人間のケンジより山エルフの私の方が多少毒に強いからな。」


「そうなんですか?」


リガはそう言うとコップ1杯に水を注ぎ、一気にあおった。



「んっ」


少し顔をしかめるリガ


「大丈夫ですか?」




「うまい!!!」


「え?」


「懐かしい味だ!村の水に似ている!」


「アケラ村の?」


「いやいや違う、私の故郷の事さ、前に一回話しただろう?

山岳地方の少数部落の山エルフの里の事。」


(あぁ、僕が殺されそうになったあの時に話していた事か…岩塩が取れる山にリガさんの故郷はあるんだったかな。)


「じゃあ僕も…。」


ケンジもコップに少量の水をすくい飲んでみる。


「!!!」


「おいしいだろ?」


水が舌にに触れたとたんに感じた固い感触、ほんのすこし塩を感じる味に、飲み込んだ後でも残る違和感。

ケンジが生まれ育った国ではあまり一般的ではない水...



「これ硬水だっ!」


「何?こうすい?」


「あ、いや硬水っていうのはミネラルなどを豊富に含んだ水の事で...えっと。」


「また異世界の知識か?」


「…はい。」


「んで、その硬水っていうのは畑に使えるのか?」


「使えます、僕がいた世界でも硬水を使って農業をする国はありました、しかし…。」


「しかし?」


「少し飲んだ時に塩分を感じました、ほんの少しですが。」


「塩が入ってるって事?」


「でも本当に身体に悪影響が無いレベルだと思います、大量に飲んだりしない限りは…。」


「じゃあいいじゃないか、聞いたことがあるぞ、生きていくには塩も取らないといけないんだろ?」


「それは生き物における話になります、植物や畑においては害になる可能性が高いです。」


たとえ少量の塩分であっても畑に撒いた水の成分はだんだんと蓄積してゆき、最終的には『塩害』として植物が育たなくなる土地になってしまう。


ケンジはこの壺を譲り受けた当初は非常に役に立つものを貰ったと思っていたが、文字の通り蓋を開けてみると純粋な水ではなく塩分を含んだ硬水だったのだ。


「じゃあ畑には使えない?」


「そうですね、やめておいた方がよさそうです、飲料水としてもあまり向いてないかもしれません。」


「え?こんなにおいしいのに?」


「これも異世界の知識なのでこの世界に当てはまるとは限りませんが、硬水はお腹を壊しやすい方が居るんです、現に僕もそうです。」


「へぇ、うちの村では腹壊す奴なんていなかったな…。」


「リガさんの故郷は硬水を生まれてから飲んでいるので耐性がついているのかもしれませんね。」


「ふぅん、じゃあこの壺は返すか、持っていても仕方ないしな。」


「えっ!いやいやセティさんに壺を見てもらわないと!!村の方で今後の使用について話し合いましょうよ。」


「そっか、まずこういうのは教会だったな、なんかいい使い方があるかな…。」


「アケラさんたちにも聞きましょうか…。」


「そうだな、とりあえず農機具の積み込みも終わったし、飯食いに行くか。」


「あ、そういえばまだでしたね。」



◇     ◇



野営地はビットの経営テント以外にも常設されているテントがあり、そのうちの一つが食事を提供する酒場テントがある。


「ここが酒場ですか、広いテントですね。」


ケンジ達が寝泊りしているテントは大人二人が余裕で建てるほどの大きなテントだったが、酒場のテント体育館の半分ほどの面積で、非常に広い。


酒場では長旅で疲れた旅人や冒険者たちが酒を飲んだり、お互いの情報を交換し合っている。


「何食べる?今日は経費で払うから100Gまでならいいぞ。」


「100Gも!?何があるんですか!?」


バーカウンターまで行きメニューを探す

カウンターにはバーテンダーが立っており、料理を作ったり酒を運んだりしていた。


「お?久しぶりじゃん、今日も仕事か?」


「そうそう、今日はなんかある?」


声をかけてきたのはバーテンダーの一人、リガは仕事で時々野営地に来るので野営地経営陣には顔が知れてる。


「何かあるかって、お前毎回肉しか食わねぇじゃん。」


「野菜は嫌いなんでね。」


「えっ!?」


衝撃のカミングアウトである、まさかのリガは野菜嫌いだったのだ。


「野菜嫌いなんですか!?」


「あっ、嫌いというか、山エルフはあまり野菜を食べる習慣がなかったというか…。」


「アホ言え、偏食なだけだろ。

肉以外はパンか芋くらいしか食ってるところ見たことないぞ。」


「いやぁ…。」


リガは恥ずかしそうに頭をポリポリ掻いた


リガは険しい山岳地方で生まれ育った、その山は岩山で植物などはろくに育たず主食は獣肉。

月に数度山を下りパンや果実を買うが、持ち運びにも限度がある。


「嫌いなわけではないんだけどなぁ。」


「とりあえず何にするよ、リガは肉でいいな、そちらのお連れさんは?」


「何があります?」


木の板に刻まれたメニューには様々なものがあり、ステーキや魚などもあるがそれより目を引くものがあった。


「えっ!米!?」


それは、どの肉料理や魚料理などよりも高額な料理として記載されていた。

その額はなんと90G、実に9000円にもなる。


「こ、米頼んでもいいですか!?」


「90G....まぁ、いいよ。」


苦笑いをするリガを横目に注文をするケンジ


「米ね、少し時間がかかる?あと物珍しさに頼むやつもいるが、残すなよ。」


「残す人がいるんですか?」


「何人かな、じゃあ作るぜ。」


カウンターの後ろに下がり料理を作り始めるバーテンダー。


「米は向こうでもあるのか?」


リガの言う『向こう』とは異世界の事を指している、公の場では『向こう』や『あっち』などと誤魔化すようにしている。


「むしろ向こうでは主食として食べてましたね、国によっては芋が主食のところもありますし、パンが主食の国もあります。」


「まぁそれはどこも同じか、地形や環境によって食べ物も変わるわな....なぁ野菜にも肉みたいな野菜はないのか?」


「肉みたいな野菜、ですか?」


「そうそう、今はとりあえず芋を育てるんだろ?なんか芋以外のも野菜を育てたりするのかなと思ってな。」


もちろんゆくゆくは芋以外の野菜も育てる予定ではあるが、まだ具体的には決めていない。

というかまだジャガイモですらまだ育てられてない。


「肉と似た栄養が取れる野菜はありますけど、さすがに肉みたいな野菜は無いかもしれませんね。

上手くいくとは決まったわけではありませんが芋の次はトマトとかいいかもしれませんね。」


「トマト!あれ美味いよな、故郷でも少ないけど野生のやつ食べてたな~。」


「野生のトマト!リガさんの故郷の山はかなり恵まれた山ですね。」


岩塩も取れるし、水も湧き出て高山で自生する野菜も取れる、主食が肉と言っていたから山羊やその他の生物もいるのだろう。


「トマトは嫌いな人が多いんですよ、特に野生種の様な小さい粒のタイプは。」


「へぇ、あれが美味いのにな。」



「なんだ、食い物の話しか?」


ふと後ろから聞き覚えのある野太い声。


「ビットさんとミラドロルさん!!」


「こんばんは、とは言っても先程会ったばかりですが。」


ビットとミラドロルも夕食をとりに来たようだ、因みに2人とも経営陣なので食事は無料らしくメニューを見ずに注文を始めた。


「俺はグランドステーキ。」


「私はビギマスのハーブ焼きを。」


それぞれ好きなものを頼む、野営地は様々な種族が集まるのでそれぞれの食生活に合わせられるように用意しているらしい。


(米を頼んだはいいものの、他人のを聞くとそっちも食べてみたくなるよな~。)


「ケンジさん、お仕事の話ですみませんが、先程の壺は農業に使えそうですか?」


バーカウンターにはリガ、ケンジ、ミラドロル、ビットの順で座ったのでミラドロルは自然とケンジと会話を始めた。


「えっと、あの後少し飲んでみたんですが植物には少し不向きなので別の方法を探そうかと。」


「やはりそうですか、我々も飲んでみたのですが変な味?がするので飲料向けではないと思っていたのです。

もちろん身体に害はないという事は検査して分かった上でお譲りしましたが。」


「俺らじゃ使い道がわからんくてんぁ、水の専門家であるミラドロルが思いつかないなら俺もお手上げよ。

実はあの壺とまったく同じ物が残り3つあってな、中身も同じ味なんだ。」


ビットは大げさに両手をあげ『お手上げ』のジェスチャーをする。


「同じものが3つもあるんですか…。」


「せめて買い取り先があればいいんだが、飲み水に適してない水を生み出す魔道具は売れない。」


「魔道具自体に価値はあるんですが、有用性がないと買い取ってくれるところがないんですよ。」


「なるほど、価値はあるけど需要がないんですね。」



「あいよ、お待たせ!!」


その時リガの前に料理が置かれた、頼んだ覚えのないワインジュースも置かれた

この時間は料理と一緒にワインを薄めた飲み物もついてくるらしい。


「肉盛り合わせプレートだ、20G。」


「うまそうだ、ありがとう。」


リガは20Gを払う、料金は同時に払うシステムらしい。


リガの目の前には焼かれた鶏っぽい肉や牛っぽい肉が2枚ずつプレートに積まれたワイルドな肉料理だった。


「量多くないですか!?」


レストランなどで出てくる1人前のサイズの肉が4枚積まれているプレートを一人で食べようとしているのだ。


「まぁまぁ、この肉プレートは野営地にしかないメニューなんだよ、見逃してくれ。」


そう言うとナイフで一口サイズに切り分けていくリガ。


「羨ましいですね、我々ヒューマンは胃もたれする量ですよ。」


「それだけ食べて太らないっていうのも羨ましいな。」


そんな人間3人の目線を浴びながらリガは肉を口に運ぶ

肉が主食という食文化というのはあながち間違っていなさそうだ、肉食獣の様にバクバクと食べている。


「凄いですね…。」


「ハイこちらもお待ちど!!」


バーテンダーがミトンをして持ってきたのは1人前サイズの土鍋の様なもの。


「来た!!」


ケンジの頼んだ料理は『米』異世界初の米である。


(土鍋の様な器でミトンをしているっていう事は炊いてあるのか?)


「90Gだ。」


料理の蓋を開ける前に手を差し出すバーテンダー。


「おいおい、90Gってえらい奮発するじゃねぇか。」


ビットが驚いていると


「ん。」


口いっぱいに肉を入れてハムスターの様になっているリガが経費用の財布から金銭を支払う。


「まいど、では召し上がれ。」


バーテンダーが蓋を開けるとモワッと湯気が上がる。

鼻腔を通り抜けるバターの香り、湯気が晴れるとケンジは眼を丸くした。


「あっ!」


「なんだ?」


「どうしました?」


「....リゾットだ。」


そう、運ばれてきた料理は紛れもなく米料理だった、しかしケンジが想像していたホカホカご飯ではなくリゾットだったのだ。


(キノコが入っているリゾット、いやお粥か?けど少し米が細長いな。)


スプーンで少しすくってみるとお粥より水分が少なく、ドロドロというよりベチャベチャといった印象だ。


「米を頼んだ奴は初めて見たな。」


「そうですね、値段も高いですしね。」


ビットとミラドロルは珍しい注文に興味津々だ、リガはリゾットを横目に肉を頬張っている。


「で、では。」


ケンジは心の中でいただきますをしてリゾットを口に運ぶ。


(うん、やっぱり細長い米だ、インディカ米かな?少し芯が残っていて歯ごたえがある。

味も凄くしっかりしているな、アケラ村の料理が薄いってわけじゃないけど前世の料理並みに味が濃い。)


出来たてなこともあり少し冷ましながら口に運び続ける。


「....。」


ついつい無言になってしまうが、それほどにうまいという事でもある


「米食えるのは城か野営地くらいじゃないのか?」


「そう思うとかなり貴重なんですね。」


「ふふっ、貴重っていうのもありますが、調理過程に塩や胡椒、バターなどを惜しみなく使いますから高価になります。

それらすべて程よいバランスで、多ければ良いというものではないのです。」


バーテンダーが料理を運びながらしみじみと話す。


「ハイ、お待たせしました。」


「お、来た来た。」


ビットとミラドロルの目の前に料理が置かれる


ビットはグランドステーキ、名前からわかるように1枚の大きなステーキだ、シンプルだが肉の美味そうな香りが漂ってくる。


ミラドロルはビギマスのハーブ焼き、30cm程のマスがそのままの姿で焼かれた料理だが、さらには一緒にハーブが添えられていた。


(ハーブ、このリゾットと言い料理の幅が広いし技術的にも高い料理があるな。)


メニューを見直すと米料理は1品しか無かったが、魚や肉料理はとても豊富にある。


(ゴルド王国は料理技術がだいぶ進んでるのかなぁ、農業は全然進んでなのに。)


4人は食事を口に運び、少しの間会話がない時間が流れる....



「そういえば、話は戻るんだがあの壺。

他の方法を探すとは言っていたが、あてはあるのか?」


料理が運ばれてきたので会話が途切れてしまったが、先程まで水が湧き出る壺の活用方法を話し合っていたのだった。


「我々アケラ村職員としては、やはり教会に届けて正式な手続きを踏むべきだと考えています。」


「アケラ村に魔道具鑑定員は居ないはずでは?」


魔法関連の話ならミラドロルさんが詳しいのだろう、リガの話に素早く質問を投げかける。


「実は最近アケラ村の教会に白服の方が就任しまして、その方が詳しいらしいので。」


「えっ、それは本当ですか?」


「やはり魔王領地に近いから教会の監視の目を置くんだろうな。」


(本当は僕やアケラさんの監視なんだけど、説明できたもんじゃないしそういう事にしておいたほうが都合がよいな。)


「でしたら白服の方に壺を見てもらうのが一番良いでしょうね。」


「あぁ、俺らが貰った計4つの壺は中身が全く同じ物でな、森エルフの商人からもらい受けたんだよ。」


「私もその場にいました、彼らは食品や必需品などを交換する際に壺の話を持ち掛けてきました。

彼らは『壺の処理に困っている、安くするから商品と交換してくれ。』という話だったのでよく覚えています。」


「森エルフの持ち込みかぁ、エルフは基本的に人と価値観が合わないことがあるからなぁ…。」


「リガさんもエルフですが、価値観が合わないことあるんですか?」


「私はギルド職員だぞ?価値観が違うと仕事に支障が出るからな、人間界でも30年くらい生活しているし職員試験も実技共に満点だから安心して大丈夫。」


「ていう事は、普段エルフの方々って人との交流がないんですか?」


「お、やっぱりそういうイメージがあるんだ、実際山エルフ同様に森エルフも商人以外は基本森から出てこないんじゃないかな、商人も凄く少ないよ。」


リガは人間界で働く珍しい部類に入るらしい

エルフ種は昔から人間種との交流はあるが、山エルフは険しい山、森エルフは深い樹海での生活を主にしているので交流が難しいのも一つの理由でもある。


「で、その森エルフとはどのくらいの商品で交換したんですか?」


「内容は詳しくは言えないが、燻製肉や干した魚などの食料品から貴金属や嗜好品、魔道具などかな。」


「そんなにですか!?じゃああの壺とんでもない価値なんじゃ。」


「いやいや、今の話を聞いた感じだと飲料用に使えない水の壺は利用価値がすごく少ない、価値はだいぶ低いと見積もるのが妥当だろうな。」


ビットは今回の取引については損にはなっていないので良いという話だ、ただ壺を有効活用できなければただの荷物になってしまうとの事、恐らく森エルフも壺の使い道に困り、ビットび売ったのだろう。


「でも、リガさんはあの水うまいうまい言って飲んでましたよ。」


「ほんとうかぁ?部下が試しで大量に飲んでいたら腹壊したぞ、あの水。」


(あぁ、硬水だからお腹に合わなかったんだろうな、この時代に硬水とは言え綺麗な水は貴重だもんな。)


「先程ケンジに聞いた話だと、体質に向き不向きがあるらしい。

味が我々山エルフの故郷の湧き水に近いから、山エルフに一度話を持ち掛けたらどうです?」


「....なるほど、この話は誰かにしたか?」


「いえ、この4人だけです。」


「....この話は金になる話だな。

よし!今のは実にいいことを聞いた、壺の使い道を思いついたし早速俺らは行動に移そうと思う。」


ビットとミラドロルは食事を急いで終わらせると席を立つ。


「壺の取引に関しては売り上げの一部をアケラ村に送ろう!これらは情報料だと思ってくれていい。」


「えっ良いんですか!?」


「『山エルフが好む水が湧く壺』この情報だけで価値が跳ね上がった!兄ちゃん感謝するぜ!!

久しぶりにでかい商売が出来そうだ!!」


嬉々として酒場を出ていく2人。


「良かったんでしょうか?」


「いいんじゃないかな、こちらに損はない話だし売り上げの一部をくれるというのなら断る道理はないかな。」


「というか、話してよかったんですか?

あまりあっちの話するとバレるリスク上がるんですが。」


「水の味については私から出てもおかしくはないし、水の特性、特に腹痛に関しては実例が出ていたから問題はないと思ってな。」


「....確かに言われてみればそうか、ちょっと神経質になりすぎですかね。」


「いや?情報は慎重に取り扱うに越したことはないからな、そのうち慣れるさ。」


リガは肉を食べ終わると、ワインジュースを飲み干す。


「よし、じゃあ明日の朝に出発ね。」


ケンジも残りのリゾットを食べ席を立つ、もちろん心の中でごちそうさまをする。


(思えば、ビットさんたちは『いただきます』や『ごちそうさま』言わなかったなぁ。

文化の違いなんだろうけど、日本人としては少し気になってしまうなぁ。)


◇     ◇     ◇


「変な事したら今度こそ殺すからな。」


ベットは二つあり、2人は離れて寝ることにはなっているのだが、1つのテントの中で男女が夜を共にするのだ。


「教えてやる、冒険者や旅の仲間内で問題になりやすいのは交際問題、今までギルド職員として何度も見てきた。」


「そんなに多いんですか?」


「多い、ダントツで問題として相談される件数が多い。

セクハラがひどいだの、酔った勢いで一線を越えてしまったなど…。」


「そんなに。」


「冒険者稼業は命の危険が伴う、故に距離が近くなりやすいからね。」


「なるほどなぁ、ややこしいですよね、その、そういう関係って。」


「そう、ややこしい。

だからそういう事はちゃんとしないとな。」


リガはそう言うとテントの真ん中に紐を張り、毛皮のマントを掛けて簡易的な仕切りを作った。


「ここから先は緊急時以外立ち入り禁止だ、侵入次第殺す。」


どすの利いた声で注意を促すリガ、彼女の枕元には愛刀の短剣が置かれておりすぐに抜刀できる位置にある。

先程の言葉も嘘ではないだろう。


「り、了解しました。」


「分かればよろしい、では寝る。」


「はい、おやすみなさい。」


「異世界のまじないか?」


「あ、そんな感じですね。」


「ふっ、じゃあ『おやすみなさい』だ。」


リガがランタンの火を消し、テント内が暗くなる。


野営地の見張りの松明の明かりでかろうじて足元が見える程度の明るさの中、ケンジはベットに潜り込んだ。


(恋愛か....この世界の人は美男美女が多いし、以前の俺ならリガさんの様な美女とテントで一夜を過ごすなんて…考えるだけでも鼻の下が伸びそうなもんなんだが。

不思議とそんな気分にならない、何だろう異世界人の特徴なのか、はたまたヨヴィ様からもらった能力か何かなのかな........。)


そんなことを考えていると瞼が重くなってきた


ケンジが野営地で考え事をしながら眠りにつこうとしている時、王都では何やらあわただしく動いている人たちが居た。



◇     ◇     ◇     ◇ 



「おい!!紙が足りてないぞ!!早く持ってこい!!」


「早朝に出せるように準備をしろ!!鳥に飯を食わせておけ!!」


「何やってんだてめぇ!!ここの余白は絵を入れるところだってんだろ!!」


あわただしく動く男たちの手元にはA4コピー紙サイズの紙が握られていた。


紙には絵が印刷されていて、満面の笑みを浮かべる騎士団の男とその男の後ろに横たわるドラゴンが描かれていた。


読んでいただきありがとうございます!!


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