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やり手商人


東に連なる大山脈、ジュゲ大山脈。

その麓ではゴルド王国の騎士団一行がテントを張っていた、とは言っても20名程度の小規模なものだが。


「隊長、テントの設置、および物資の無事を確認出来ました!」


「うむ、ご苦労じゃあ皆を集めてくれるか?」


「はッ!すでに集まっております!」


「優秀だな。」


隊長と呼ばれた男はテントから出ると集まった兵士たちの前に立った。


「皆の者長旅ご苦労、まずはこの度の任務に付き合ってくれて感謝する。

皆も知っている通り、東班の隊長アケラ・グラディウスが撃退したドラゴンの討伐が今回の任務である。」


アケラの関係者以外にはアケラが単騎で討伐したことは知られていない、そもそもドラゴンは最低でも騎士が10人以上でないと討伐できないとされている。


決して勝てない相手ではないが戦えば無傷では済まない相手でもある。


「して、皆に尋ねるのだが団長殿はどこにおいでか?」


ざわざわする騎士たちだが、隊長やその側近からすると毎度の事だった。


ゴルド王国騎士団、団長。

騎士団のトップである彼は自由奔放で職務怠慢で知られている。


「困ったな、これでは士気にかかわる…。」


「隊長!!失礼いたします!!」


「何事だ?」


「団長テントの中にこれが…。」


「置き手紙?…まさかっ!!」


隊長は手紙を受け取り急いで読む、そのうちみるみる顔が青ざめていく隊長。


「お前ら!!急いで出発準備だ!!

団長が単独で向かってしまわれた!!」


ざわめきがより一層大きくなる、だが訓練された騎士団は緊急事態でも練習通りの動きをする。

不要な荷物はテント内へ置き、ドラゴン討伐のために用意された武器や防具を身に着け、おおよそ3分もかからず再び集合した。


「では出発!!まだ間に合うはずだ!!」



◇     ◇ 



一方その頃、団長は。


「ひょー!すげぇ吹雪だなオイ!!上着もう一枚持って来ればよかった!!」


雪山を猛烈な勢いで上る男が一人、この男こそ『レイ・ベルモンド』、騎士団団長である。

背中に剣を背負いひざ下まである雪を物ともせず突き進むレイの目的は、ドラゴン。


彼にはある思いがあった、ドラゴンに対する熱い思いが…。


「なめやがって、俺のかわいい後輩の腕を食いやがってクソトカゲがよ!

あいつは誰よりも努力家だったし人付き合いも上手かった、追々俺の後継者として…。

そんな時に襲撃だと!?クソっ!!」


アケラが騎士団に入団した頃から団長だったレイ。

彼は実力主義者であり入団者全員が一通り彼と手合わせをし、そして彼の中でランキングが出来上がる。


そのランキングの堂々たる1位がアケラ・グラディウスだったのだ。

アケラが在団していた5年間、レイは実に良く面倒を見ていた、剣術や光魔法の扱い方、騎士団としての心得など。


戦争で両親を亡くしたアケラにとっては父親のような存在だったのだ。


「何だったか、国からの任務では逃げたドラゴンの討伐って話だがどうにも胡散臭い、あのアケラがドラゴンを逃すわけがない。」


騎士団にも得手不得手があり、冒険者と似ており『護衛』が得意な者や『討伐』が得意な者な様々だ、そんな中特にアケラはレイお墨付きの『魔物』を得意とする騎士だった。


そんな彼女がドラゴン相手に負けるかどうかが引っかかるのだ、1対1ならまだしも襲撃当時は荷物の護送任務のはず。


(俺が思うには、これはプライドがらみの話だな。

俺が知らないって話ならもっと上からの…国王あたりか?

どうせ国民の安心を買うためにドラゴンの首が欲しいんだろうな、襲撃時には周囲に魔物の遺体はなくアケラのみが生き残った、痕跡などからドラゴン襲撃は確実だが確実な証拠が欲しい。

そこで『逃げたドラゴンを騎士団が倒した、国民の皆さん安心してください』って事だろうな。)


雪山を走りながら高速で独り言や思考を巡らせながらドラゴンの巣へと向かう。


「まぁ何がどうあれクソトカゲの種族に俺のかわいい後輩がお世話になったんだ、1個くらい首貰ってもかまわんだろう!」


ドラゴンの巣穴はもうすぐそこだった。




◇     ◇     ◇     ◇




「では、忘れ物はないか?」


早朝、日が昇り始めたころケンジとリガの2人は野営地へ行くためにギルド前に集合していた。

リガは馬車に荷物を載せながら最終確認をしている。


「はい、大丈夫です。」


ケンジは特に荷物なんてものはないので、非常食やナイフ、筆記用具やメモくらいしかない。


「それより、この馬車って早馬ですよね?」


「そうだ、借りた早馬は返さねばならない。

元の場所に返すと一部返金があるから、返金の為に馬車を返す仕事もある程だ。」


(なんか昔あったショッピングモールのカートみたいだな。

カート返却口に戻すと100円かえってくる奴。)


「では行こうか、明日には帰れるだろう。」


馬車には様々な荷物が積まれており、手紙や商品などがある。

本来なら行商人などが荷物の運搬などをしてくれるのだが、用事があるものに荷物を託したりするのが割安である。


「便利なシステムですね。」


「確かに便利ではあるけど、行商人などは盗賊に襲われたりする可能性があるから冒険者を雇わないといけない問題がある。

旅人も流通の要だけど、信頼が大事だから重要な書物などを任せられる旅人なんてほんの一握りだからなぁ。」


冒険者と違い、旅人はギルドなどの所属がないので仕事を取るのは個人になる。

名が売れれば信頼を得て、重要な荷物の運搬などを任せられたりするらしい。


「良し、じゃあ行こうか。」


まだ皆は目覚めていない早朝、2人が乗った馬車は静かに野営地へと出発した。


しばらくガタゴトと馬車に揺られて数刻、馬車に乗ってる間は回りを見張ったりする。


だが、アケラ村から野営地までは広い平原を通るルートがある、今回はそのルートを選んだので見張る理由があまり無い。


つまり今は暇、こういう時は雑談するに限る。


「…リガさんは、冒険者の資格をお持ちなんですか?」


「もちろん、冒険者ギルドに勤めるものは大体の者が何かしらのバッジを持っている。」


「…バッジって何ですか?」


「冒険者はランクで実力を可視化してるのは知ってるか?」


「はい、王都のギルドで見た本では鉄、銅、銀、金の4段階と書いてました。」


「あぁ〜その本って【冒険者ギルドガイド】か、アケラ村にもあるよそれ。

ポケットサイズの持ち運びガイドもあるから持っておくといい。」


初心者からベテランまで広く利用しているガイドブックらしい、冒険者登録時に必ず読むことが義務付けられてる物で過去に複数回出版されている。

大きいものからポケットサイズの物まで様々あるらしい。


「で、そのランクの4段階も3種に分けられてる。」


「あ、『討伐』『護衛』『採取』の事ですか?」


「そうそう、私はそのうちの『討伐』と『護衛』の銅バッジを所有しているよ。」


「おお、3つあるうちの2つも。」


「珍しいことではないけどね、『討伐』なんてものは魔物や害獣などを討伐していけばポイント貰えるし、『護衛』も今回の野営地までケンジを連れていくってだけでもギルドに報告すればポイントになる。」


今言ったギルドのランクポイントが昇格に値するとギルドが判断したら冒険者の階級が上がるといったシステムだ。

もちろんポイントが多ければよいという話ではない、周囲の評価や依頼中の行動などが大きく影響する。


「過去にねー、金級まで上り詰めた冒険者が居たけど、女遊びとか金遣いが荒いとかで降級になったんだよね~。

その後すぐ規約が改善されたんだ、ゴルド王国を代表する冒険者、その中でも一番名誉ある金級にふさわしい者でないとね。」


「冒険者もたいへんですね、周りの評価も影響するなんて。

変な噂でも流せれたら大変だ。」


「あぁ、確かにそうだよな。

だが人気者には噂は付き物だ、私やアケラさんだって噂や二つ名なんてあるんだから。」


「二つ名!!なんかカッコいいですよね!!」


「恥ずかしくてたまったもんじゃないよ!!」


「…聞いても?」


「指一つ貰うよ。」


「…スミマセン。」


(こえぇ~、話しやすい雰囲気だからついつい喋りすぎるけ1回殺されかけてるんだよな...。)


「ハハッ冗談だよ、けど二つ名ってのはその人の戦闘スタイルや功績から来たりする事が多いんだけど、人によっては事件とかの名がついたりすることもあるから、あまり二つ名は聞くもんではないね。」


「なるほど、確かに人によっては不快になることがありますね、これも異世界では気を付けないといけないですね。」


ケンジが居た世界に似ている文化もあるが、違いが多々ある。

特に冒険者のマナーや常識などはまったく異なる、今の二つ名の件についてもリガに尋ねるまではカッコよくて恥ずかしいイメージはなかった。


この少しの認知のズレが場合によっては致命的なミスにつながりかねない。


(リガさんに殺されかけた時も知らなかったとはいえ、山エルフのタブーだったもんな、岩塩。)


「もしよければ知ってるタブーとか教えてもらう事は可能ですか?」


「あぁそうだな知っていた方がいいよな、とは言っても君の世界の常識がわからないとなんともな…。」


「確かにかなり常識が違いますもんね、法律なんてそんなしっかりしていないし。」


「法か、そんなものは領地内でしか意味をなさないな。」


「あ、そうなんです?え、今この道を通っていますが大丈夫なんですか?」


「ケンジ、君の元居た世界では”法”があれば皆、善人なのか?」


「そんなわけでは...。」


「だろ?”法”なんてものは所詮人が勝手に決めたルールだ、魔獣や獣に対して何の効果もない。

ましてや悪人なんてルールを破ることが仕事みたいなもんだろう。」


「うーん、確かにそう言われると…領地内なら法は通ずるってことですよね?」


「騎士団、警備兵、その他目撃さえなければ逃れられる場合があるかなぁ。

あ、王都はダメ、あそこはマジで犯罪は無理。」


「アケラさんから聞きました、一番安全だって。」


「違いないね、とりあえずは”法”はあるけど絶対的な力はないって事かな。

あとは好奇心が旺盛すぎるのは身を亡ぼすね。」


(あれかな、やはり異世界でも人の本質は変わらないってやつかな。)



◇     ◇     ◇



ガタゴトと揺れる馬車に揺られるなかでケンジもウトウトしてきた。


「こう、馬車って眠くなりますね。」


「確かにそうでな、一昔前までは馬車もひどいもんで少しの段差で大きく揺れたもんさ。

とても寝れるようなもんじゃなかったよ、けど早馬が登場し始めたころから馬車に改良が施され、随分とよくなった。」


「馬車が良くなると流通もよくなりますからね。」


「そうそう、早いとこアケラ村の前の道とかも整備しないといけないなって。」


「え?でもだいぶ道綺麗でしたよ。」


「もう少し道を広くしたいのもあるし、治安が確保されていないんだよ。

昔からある廃屋とかも撤去しないと族や魔物の寝床になってしまうし、洞窟や巣穴なども確認が出来ていないのもあるかもしれないから調査しないとね、人手が足りないのが現状かな。」


「冒険者に周辺の調査依頼を頼むというのは?」


ギルドは出現した魔物や獣、賊も討伐依頼として出してる。

ギルドから出る場合もあれば、個人的に依頼が出る場合もある。


「依頼を出すのに重要な項目は『内容』『報酬』『推奨人員』などがあるんだけど。

内容は調査、報酬も出せたとしても洞窟や廃屋に何がいるかが確認出来てないから『推奨人員』が決めにくいんだよね。」


「敵の正体が分からないから、どの強さの冒険者向けに依頼を出すかが分からない、という事です?」


「そう、仮に『討伐』の銅級資格を持ってる冒険者が依頼を受けてしまって、敵が銀級レベルの強さだったらあぶないからね。」


「何かあったらギルドの責任になってしまうんですね。」


過去にギルド職員のミスで痛ましい事故が起きたこともあり、ギルドでは個人からの持ち込み依頼でも必ず裏を取るようにしている。


事の真偽が分からない場合はギルドの正式な依頼提示版とは別の個人依頼提示版というものがあり、そちらの依頼は時折、掘り出し物があるとして腕に自信のある冒険者がチャレンジとして受ける場合がある。


「もしケンジも依頼を出したい場合は私かミリアに話してくれ、報酬はお金じゃなくてもいいからな。」


「ははっ、機会があれば何か出してみようかと思います。」


そんな会話をしていると野営地が見えてきた、確かに前回の馬車に比べるとサスペンションがついている馬車の方がスピードが出るのでお昼ごろには到着しそうだ。


「そういえば、先程の話に上がった冒険者の階級ですけど、アケラ村で一番強いのって誰なんですか?」


「ケンジも男の子だねぇ、強さなんてそれぞれだしなぁ。

しいて言うなら、対人だと恐らくセティさんかアケラさんだと思う。

私は魔物が得意だし、魔法などの要素を踏まえるならギルドマスターやミリア嬢かな。」


「セティさんも強いんですね。」


「憶測だけどね、けど教会の幹部はかなり強いと思うよ。

アケラさんも元騎士団隊長なんだから言わずもがな。」


「おもえば、アケラ村の人員ってかなり凄いのでは?」


「辺境だから戦力がいるのは当然だね、現に今魔族との交流をしている村なんてアケラ村ぐらいだろうから、戦力があって損はないかな。」


「アケラさんは領主なんでいわゆる辺境伯って立ち位置なんですか?」


「うーん、少し違うね。

辺境伯は野営地より王都側にもう一つ町があって、『ミルト町』って言うんだけどそこが一応辺境伯の領地になってるんだ。」


「アケラ村はゴルド王国領地より外にあるって事ですか?」


「一応領地内だよ、村が復興したら恐らくアケラさんが辺境伯になるんじゃないかな?

いまミルト町の辺境伯は結構ご高齢だから、その事も考えて国王はアケラさんを選んだんじゃないかな?」


ミルト町は人口が5000人程の中規模な町である、王都から1日で来れる距離にあり程よい森が広がる町は駆け出し冒険者にも重宝されている。


「はぁなるほど、そのミルト町にもいつか行ってみたいですね。」


「あれ前回王都に行った時には通らなかった?」


「野営地から川を下ったんで。」


「あぁ、なるほどね。

確かにその方が早いか。」


いろんな雑談をしているといつの間にか野営地に着いていた。


「じゃあ私は馬車と荷物を下ろしてくるから、ケンジはその魔法使いの人に所に行ってきな。」


「わかりました、行ってきます。」




◇     ◇     ◇     ◇




ケンジは野営地の一番大きなテント、ビットのいるテントに向かった。

ケンジは水魔法を扱うミラドロルを尋ねる前にビットに頼んでいた農機具についての話をしに行くことにした。


恐らく、ミラドロルは野営地で雇われているので、雇い主であるビットにまず話をしようとも思ったのだ、『アケラ村に手伝いに来てくれることは可能なのか』と。


「何か?」


「あっアケラ村の者です、ビットさんと商品についての話がありまして。」


「アケラ村の方ですか、どうぞ。」


テントの前に居るガードマンに面会の許可を取りテントに入る。


「ん?おお兄ちゃん、頼まれていた商品出来てるぜ。

制作者のドワーフのじいさんは面白い依頼だと奮発していたぜ。」


「ありがとうございます!あともう一つお話がありまして。」


「なんだ?新しい注文か?」


「実は…。」


アケラ村で農作業をする際に、農作物への水をやる際に魔法を使いたいことを話し、その魔法に関してミラドロルさんに話を聞きたいのと、もしよければアケラ村へ来てくれないかとの胸を話した。


「なるほどね、水魔法か...確かにミラドロルは優秀な魔法使いだがここで働いている以上アケラ村へ行くことは許可できないなぁ。

野営地が運営する王都までの足として、非常に重宝しているもんでな。」


「そう、ですよね。」


「水魔法の魔法道具なら取り扱ってるぞ。」


「魔法道具!!そんなのあるんですか!?」


「だからあれだろ?川が遠くて水汲みが大変だし、井戸も遠いって事なら魔法道具を使えば良いんじゃねえかな。」


「そんな便利なものが…。」


「でも許可がいるから時間がかかる、魔法道具の使用や取り扱いは教会の許可書がいるからなぁ。」


「え?教会が?」


「そう、なんでも魔法道具の仕組みは解明されていないものが多く安全面が完全に把握出来ないかららしい。」


(それっていわゆる『奇跡』って奴なんじゃ...)


「その魔法道具、どんなのがあるんですか?」


「見せてやろう、ついでにお前の商品も見てくれ。」


ビットにつられて商品管理テントまで行くことになった。



◇     ◇



「ここだ、入ってくれ。」


やってきたのはビットのテントよりも大きな倉庫だった。

周りには警備兵が立っており、野営地の中でも一番大きな建物になっている。


中には様々なものが置いてあり、そのほとんどが商品だろう。


「兄ちゃんに頼まれていた商品はこれらだ。」


案内してもらった場所にはケンジが注文した農機具が置いてあった。


「クワが10本、クマデも10本、あとこのコウウンキ?ってやつが1つだな。」


「おぉ!耕耘機!!これはすごく出来がいいですね!」


鍬や熊手などは畑を均したりするのに使うが、鉄製の製品がなかったのでビットに頼むことになったのだ。

そして重要なのはこの『耕耘機』現実世界ではエンジンがついており畑を耕すのに使われていたが、この世界ではエンジンがないので、牛や生き物に引かすものになっている。


幅の大きな『スキ』になっており、これを牛に引かせて畑を耕すつもりでいる。


いわゆる『牛耕式』(ぎゅうこうしき)農法である、ケンジの前世でも昔から活躍していた農法であり、鉄製農具の登場とともに世界で幅広く行われた方法である。


「これをどう使うかはわからねえけど、農業に使うんだろ?もし野菜が収穫できたならうちのも卸してくれよ。」


「えぇもちろん。」


「よし、じゃあこれの請求はアケラ村に付けとくぜ、今日は誰と来たんだ?」


「今日はリガさん、リガ・アルヘオさんです。」


「ああ、事務局長様か、ならばこの書類は直接渡した方が話が早いな。

今荷物を下ろしているのか?」


「はい、早馬馬車の返却と手紙とかの荷物を下ろしています。」


「ならこれらを積んで帰る用の馬車を用意しないとな、良しじゃあ次は魔法道具だ。

リガさん呼んできてくれた方が良いかもな、俺はこういうのに詳しい奴連れてくるから俺のテントまでまた来てくれ。」


「わかりました。」



◇     ◇ 



「リガさん。」


「お、ちょうどいい荷物を下ろし終わったところだ。」


馬車がたくさん集まっているところにリガはいた、どうやら荷物の最終確認をしていたらしく業者とやり取りをしていた。


「これは今回の報酬で、ざっと6000Gほどだ。」


(えと、1Gが100円程だから60万か。)


「何売ったんですか?」


「冒険者から買い取った魔物の素材とか、獣の革などだな。

冒険者は名が売れる前はギルドに売るんだ、そのあとギルドが鑑定して適正価格で市場に卸す。」


「ギルドは市場でいうところの中間業者なんですね。」


「そうそう、冒険者の評価付けてあげるから安く素材をギルドに卸して~ってことだ。」


「上手いこと出来てますね。」


冒険者は評価が上がり依頼報酬金と素材売却の金が手に入る。

ギルドは報酬の10%と素材が手に入る。

野営地などの市場卸業者がその素材を買い取る。


そして冒険者や旅人はその素材でできた装備で依頼をこなすのだろう。

よくできたサイクルである。


「あ、ビットさんとお話してて、魔法道具というものを使ってはどうかという案が出てきて。

一緒に現物を確認して欲しくてですね、ちょっと来て欲しいんですけど。」


「魔法道具か、確かに使えるなら道具の方がいいかもな、分かった行こう。」



「ん、来たか。」


ビットはすでにテント内におり、その横には前回王都まで船で運んでくれたミラドロルさんがいた。


「リガさん、お久しぶりです。」


「ビットさんこそ、お元気でしたか?」


リガは何回も来たことがあってからか、ビットと面識があった


「紹介します、王都までの船の舵取りをしてます魔法使いのミラドロルです。」


「ミラドロルです、よろしくお願いします。」


大きな杖を持ったミラドロルさんはぺこりと挨拶をした


「んで、話をまとめますと植物に水をやるのに水魔法などの力を借りたいというお話でしたが、そんなことは可能か?

魔法使いからの意見を聞かせてくれ。」


ケンジの理想としては雨を降らしたり出来れば一番良いと考えていた。

しかし


「結論を言いますと、そのような上級魔法は使えませんというのが答えになります。」


「そうなんですか…。」


「魔法は自然に起こり得る現象全てを再現できるとは言われていますが、『雨を降らす』という事は非常に難しいものになります。

まず第一に精霊に命令する範囲が広すぎて不可能という点、そしてそれが可能だったとしても降水量のコントロールが非常に難しいです。

ハッキリ言わせてもらうと現実的ではありません。」


「わかった、では第二の案としてある魔法道具の話を聞かせてもらっても良いか?

元よりビットさんの元で働いている貴方を引っこ抜く事はできないと思ってたので、魔法では無理という事が分かっただけでも十分な話だ。」


リガが素早く話の切り替えを行う、恐らくリガも薄々気が付いていたのだとは思う、魔法で雨を降らすことの無謀さを。


「わかりました、では魔法道具についてお話しましょう。」


そう言ってミラドロルはテーブルの上に置かれた厳重に梱包された箱を開け、その中から一つの壺を取り出した。


綺麗な装飾が施されたその壺はどこか神々しさを帯びていた。


「この魔法道具は水の精霊が閉じ込められてるとされている物です、魔法道具というものは原理が不明なものが多くこの壺も原理が分かっていない物の一つです。」


「ミラドロルに言わせると、この壺には水の精霊なんて感じられないそうだ。」


「どういうことですか?」


「ケンジ、この世のすべての物には必ずと言っていいほど”精霊”がついているんだ、焚火などには火の精霊、水場には水の精霊ってな。

その水の精霊を、水の魔法使いが見えないっていう事は先程の『水の精霊が閉じ込められている』という話はウソになる。」


「そうなんです、そして不思議なのはこの壺、水が延々と湧き続けるんです。」


「え?」


「つまりこの壺は水の精霊の反応がないのに、水が湧き続けるという魔法道具なんだな?」


「不思議ですね…。」

(もうこれ『奇跡』で確定なんじゃ...)


「どうです?リガさんこちらの壺、正直言って買い手がつかないんですよ。

飲み水にするにしては怪しすぎるし、水の浄化魔法の方が安上がりで安全ですしね。

そもそも分からないことが多い魔法道具は教会へ預ける規約があるんですが、教会から帰ってき試しがないんですよ。」


「なるほど、売るにも売れないし、教会に見つかると没収されてしまうと。

ビットさんは損する商売はしない方という事はわかっています、いくらですか?」


「いやぁお話が早くて大変助かります!!

ですが、アケラ村には今後お世話になりますので無償でお譲りしますよ!!」


「え!?良いんですか!?」


「えぇ、その代わりと言っては何ですが、今後農作物が収穫できましたらお安く卸していただけたらと。」


「…いいでしょう、お約束しましょう。」


「では、交渉成立という事で。」




その後2人は契約書を記入してテントを後にした、ケンジの手には厳重に梱包された壺があった。


「これ、本当に良かったんですかね?なんかやけにすんなり貰えましたけど。」


「恐らくだけど、盗品の可能性がある。」


「え!?」


「あくまで可能性の話だ、買い手がいないと言った事は本当だろう。

この様な商品なら表に出しただけですぐにバレるからな。」


「そんなものなんで貰っちゃうんですか!?」


「幸い、村には教会のお偉いさんが居るだろ?

一度セティさんに見てもらおう、上手くいけば使用許可が出るかもしれない。」


(あれ?リガさんって『奇跡』の話知ってたっけ?)


「リガさんはこの魔法道具について何か知ってるんですか?」


「いやまったく、けど教会が不思議な品や魔法道具の回収をしているのは知っている、昔に冒険者が拾ってきた魔法道具を教会が回収したのを見たことがあるからな。

こういうのは教会が一番得意なはずだ。」


「なるほど。」

(『奇跡』とかの存在をハッキリ知ってるわけじゃないけどなんとなく分かってる感じだな。)


「では倉庫の方に農具があるんだろう?取りに行こうか、帰りの馬車に積むのを手伝ってくれ。」


「はい!」





そのころビットのテントの中では


「良かったのですか?あの壺を差し上げて、30,000Gはしますよ。」


「あぁ、良いんだよ。

アケラ村への先行投資ってやつだな。」


「投資ですか?」


ビットは椅子にもたれかかりながら高級葉巻に火をつけリラックスした。


「ミラドロル、お前今この国の食料はどの国から仕入れているか分かるか?」


「『ジュゲ大森林共和国』ですよね。」


「この国がどれだけ依存しているかわかるか?」


「野菜や穀物類に関しては8割以上を…。」


「そうだ、ゴルド王国は冒険者などが狩猟した獣などの肉や畜産業以外は輸入に頼り切っている。

そんな中、面白い兄ちゃんが現れた。」


「彼が?」


「あの兄ちゃんが発注した道具なんだが。

ありゃジュゲの国で使われている農具にそっくりだ、昔一度だけ見たことがる。」


「それがなぜ面白いのですか?」


ビットはにんまりと笑うとミラドロルに顔を近づけて言った。


「あれらの農具はジュゲ大森林共和国からの持ち出し、または製造方法の一切が秘密とされてるんだよ。」


「!!」


「な?面白いだろ?ジュゲを敵に回す度胸があるとは思えない。

ていうことはあの兄ちゃんが1から考えた可能性があるんだよ、あ、もちろんこの話も秘密な。」


「うーむ、そうなると確かに面白いですね、今後どうなるのか。」


「もしかしたらこの国の食糧問題を解決してしまうかもなぁ、たのしみだぜ。」



そんな会話がされていることもつゆ知らず、ケンジは問題の農機具を馬車へと運んでいたのだった。


いよいよ登場しました農業の効率を変えた耕耘機の先祖様!!

その名も牛耕ぎゅうこう

分かりやすいイメージとしては〇ブリの「〇ド戦記」で主人公が手にマメを作りながら使っていたものですね。

これからどんどん農作業風景を書いていきたいと思います。

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