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白服 セティ・パロネル

セティが来日した夜、小規模だが歓迎会が開かれた。


「皆さま初めまして、アストログロブ教のシスター、セティ・パロネルと申します。

この村に在籍はしますが留守にすることが多くなると思われます、居たり居なかったりしますが皆さまどうぞよろしくお願いいたします。」


パチパチパチ


簡単な挨拶を終え、職員や村の代表などで歓迎会が始まった。


「良かったじゃないかラシ、この村唯一のシスターだったが後輩ができたぞ。」


「…いや、マジでやめてほしい、白服の方が後輩とかはマジで冗談で済まない。

リガからしたら山エルフの村長が後輩職員として来るのとほぼ同じよ。」


「…かんばってくれ。」


リガとラシは端のテーブルでワインを飲みながら駄弁っている。

ラシはめそめそしているが今回怒られたのは彼女が悪い、子供に教えるべき授業を行ってなかったので怒られるのも仕方ない。



「最近の森の様子はどうだ?」


「少し小動物が少ないですね、中型の肉食動物か魔物が増えている可能性があると思います。

北の森に狼型の魔物の痕跡があったんでもしかしたらそれかも…。」


「ではギルドからクエストを出しておこう、今の森はどれくらいだ?」


「調査だけなら鉄級、もし魔物の討伐になるなら銅級が好ましいですね。」


「わかった。」


森の調査と維持管理をしているマッシとギルドマスターのダロランで話し合いをしている。

マッシは時々しか村に帰ってこないので、帰って来る時は大体飲み会か仕事の話だ。


そんな時は決まってバーテンダーのジギの前に座り酒を飲みながら話す、前に酒飲みながら仕事の話をするとミスが生じるとリガに怒られていたらしいが、ジギも一緒に聞いているので大丈夫だろう。



「あっ、あの世界には炎が噴き出る山があるっていうのは本当ですか!?」


「ええ、本当ですよ。

岩さえ溶かす灼熱の炎が絶えず噴き出しています、本来生物が生きられる環境ではないはずですが、驚くべきことに灼熱の土地でも生きるすべを持った生き物や住民がいるのです!!」


「はわぁ~。」


「さらには息をするだけで体内まで凍るような極寒の土地でも住民はいます、世界は広くミリアさんの想像を超える事が待ち構えているんですよ!」


「す、すごいです!!」


セティとミリアは水で薄めたワインを飲みながら冒険談を語り合っている、長寿のエルフであるセティは世界中を旅して『奇跡』と呼ばれる不思議な力を持つ品を集めている。

ミリアは王都とアケラ村以外を知らないので冒険者の話を聞くのが好きなようだ。


(皆、結構飲むよな。

このワイン、ブドウだとは思うんだけどかなり渋いなぁ、まあ現代のワインなんて改良が進んで飲みやすくなっているんだろうけど。)


ケンジはあまりお酒には詳しくないし、強くもないので水で薄めたワインを飲んでいる。

薄めるとブドウ100%ジュースのようになるので結構おいしい。


「ケンジさん!飲んでますか!?」


「あ、ゴベさん。

....ゴベさんは何を飲んでるんですか?」


アケラ村の労働組合長であるゴベさん、片手のは見慣れない酒を持っていた。


「これですか?これはミードです、蜂蜜のお酒ですね!みんなワインを飲んでますが一部冒険者の間ではミードはまだ根強い人気がありますよ。」


「蜂蜜酒!」


ついつい声が出でしまったケンジだが、実は蜂蜜酒はワインより歴史が古いのでワインがある時点で蜂蜜酒があるのは不思議ではないのだ。


「結構お酒って種類あります?」


「え?どうだろうなぁ、今は2種類しかなかった気がするぞ。

王都の酒場ならもっといっぱい種類があるだろうな!!」


あまりお酒を飲まないケンジであったが、嫌いではないので生前はウイスキーや日本酒の飲み比べをちまちま飲みながらスマホで動画や映画をみるのが趣味ではあった。


(次に行く機会があれば見てみよう。)


「それよりケンジさん!ジャガイモなんですけど。

結構いいものが手に入りそうなんですよ!期待していてくださいね!!」


「ありがとうございます、こちらも準備ができましたら本格的に始められますのでよろしくお願いします。」


「後は何が足りてないんです?」


「野営地のビットさんに土地を耕す農具を用意してもらってます。」


「土地をたがやす?」


「はい、ジャガイモを育てる場合は土を掘り起こしてウネを作ります、そこにジャガイモを植えます。」


「地面に直接植えるのはダメなんですか?」


「そうですね....水はけがよい土地ならいいんですが、水はけが悪いと野菜は腐ってしまうので地面より少し高い位置に野菜を植える為に畝を作ります。

さらにジャガイモなどの場合、地下に出来るので畝を立てると収穫しやすくなるというのもありますね。」


「はぁーなるほどな、ちゃんと意味があるんだな。」


ビットとジャガイモ栽培について話していると。



「えー、皆さんご注目お願いします!!」


ダロランが皆に呼びかける。



「この度新しく来たセティさんは教会の仕事により村を空けることが多いのでよろしくおねがいする。」


は~い、と皆からまちまちな返事が返ってくる


「そして、教会のや村の方々にはお伝え済みだが、アケラ村は冬明けに魔族との交易を開始する。

ゆくゆくは野菜や特産品などの交易を行い、双方にとって利のある取引を行いたい。」


ケンジが知らないところで教会は魔族との交流について把握していたようだ


そもそもの話、国の情報を管理する機関なのだから知っていて当然なのだが。


「その取引の要は農産物、つまりケンジ氏の農業にかかっていると言っても過言ではない。

彼はこの地に詳しくないので皆で彼をサポートしてほしい。」


いきなり呼ばれて焦ったが、皆は暖かな拍手と応援の言葉をかけてくれた。


「では私はもう寝るので、各々飲みすぎないように!!」


そこまで遅い時間ではないはずだが、ダロランは70代のおじいちゃんなので寝る時間らしい。



「ケンジさん、少しいいですか?」


ダロランの話が終わった後セティが声をかけてきた。


◇     ◇     ◇


「私の故郷、エルフの国では非常に農業が盛んなの。」


バーのカウンターでワインを飲みながらセティは話始めた。


「私も少しだけ農業の知識はあるんですが...土の栄養は大丈夫なのですか?」


「土壌成分の事ですか?」


「どじょうせいぶん?はよくわからないけど、土地にも栄養があって野菜は栄養を吸って成長するんでしょう?」


「その点については大丈夫です、先日村の人たちが草を刈ってくださったのですが、それらは全部かなり背丈の高い草でした。」


草刈り後の雑草を見たが、良く伸びた雑草だった。

普通、しばらく農作物を育ててこなかった農地、耕作放棄地は学校のグランドのような固い土地で背の短い草しか生えないはずなのだ。


「つまり雑草が高く伸びるほど栄養があるってこと?」


「そうですね、なので野菜を育てても大丈夫なんです。」


「そうなんですね!農業の担当はケンジ君だから任せます。

そして万が一魔族との交渉がこじれたら私を呼んでくださいね!」


(絶対さらにややこしくなるだけだと思うんだけどな。)


「あと、これはお願いなのですが。

我々エルフ、あっ森エルフは基本ベジタリアンなのです。」


「はぁ。」


「特に私は世界中を旅をして、世界中の野菜を食べてきました。

その中でも大好きなのは『トマト』なんです!!」


「トマト!!トマトあるんですね!!」


ジャガイモがあるならそれに近しい野菜もあると思っていたが、まさかトマトまであるとは。

この世界はケンジが思うより現実世界と同じレベルで野菜が存在するのかもしれない…。


「はい!腐りやすいので一部地域でしか食べられていませんが…一度食べたあの甘酸っぱい赤い実が忘れられないのです!!

そこでですね、もしよろしければ…トマトの栽培なんて…?」


「…!!、出来ると思いますよ!!」


「本当ですか!?」


「ですが種、もしくは苗が必要ですが…。

トマト自体は手に入ります?」


「えぇ!王都に行けば何とか!!」


「でしたら、可能だと思いますよ。」


「明日の昼からでも王都に行ってまいります!!」


興奮した口調で張り切るセティ。


(よほど好きなんだろうな、個人的に試したいこともあるしトマトも栽培に挑戦してみるか。)


「では、明日の予定を少し変更して、アケラさんと一緒に朝の教会に来てください!

アケラさんの義手の接続と魔法について授業を行います、子供たちの授業はラシに任せようと思います!!」


「あ、朝ですね、わかりました。」


「こうしてられません!明日の準備をしなくては!!」


大慌てで皆に挨拶をしてギルドを出ていくセティ。


ケンジからしてはトマトはメジャーな野菜だが、この世界では貴重な野菜として存在しているらしくセティは栽培が可能かもしれないとわかると大興奮した。


(まあでもこの時代にトマトの様な栄養価の高い野菜があれば良いよな。)


ケンジは今まで様々な異世界の市場を探索したが、基本的には商品棚の上に常温で展示されていた。

故にほとんどの野菜は水分量の少ない長期保存に適した野菜などしかなかった。


主にジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、後は豆の様なものもあった。


(いつかは米作りたいよなぁ)


「ではそろそろお開きにしようか。」


ダロランとセティが退場したのでお開きムードが流れたところでリガが声を上げた。


「皆の今後の予定でも聞いて解散にしようか、じゃあマッシ。」


「俺は引き続き森の管理かな、これから本格的に寒くなると冬眠する生き物が出てくる。

その前に大鳥や森の恵みを村に卸せるようにする。」


「ありがとう、一応野営地からの定期便などで食品類は仕入れているから無理はしなくてもいいからね。」


「分かった。」


マッシは森で採れたキノコや薬草類、さらに大鳥と呼ばれる鶏より大きい鳥を狩ってくれるのでアケラ村の食料問題に一役買っている。


「ミリア嬢は?」


「はい、私はクエストボードの整理と依頼書の作成をしようかと、先程ダロランさんから新しい以来のお話を聞いたので明日詳細を聞き依頼書を、そしてクエストボードを更新します。」


「分かった、それについては私も手伝おう。」


アケラ村は人口こそ少ないが、割と冒険者や旅人が来る。

理由としては物珍しさである

『数年前まで一切人が住んでいなかった廃村に領主が着任した。』

『魔王国領地に一番近い村』

『手つかずの森が広がっており珍しいものがあるらしい』


といった話が冒険者や旅人間でささやかれており、好奇心旺盛な者が来る。


実際に王都は依頼の競争率が激しいのでギルドのある人口の少ない村は穴場ではあるのだ。


「アケラ様はいかがななさいますか?」


「あぁ~、本来なら土地関連の書類などの仕事があるんだけども、ケンジと共に朝の教会に呼ばれているからそっちが先かな。

昼からは恐らく書類かな。」


「かしこまりました、ではラシも朝から?」


「はい、恐らく。

子供たちへの授業があると思われるのでそちらを…。」


(リガさんやラシさんは2人きりの時だと砕けた言葉使いになるけど、目上の人や皆がいる場所だとかしこまった口調になるよな。)


「皆さん大体いつもと同じ感じですね、了解しました。

では皆さん明日に備えて体を休めてください、解散!!」


皆で少し拍手をして食器を片付け、ぞろぞろと帰る。


「ケンジ、じゃあ明日教会集合でいいかな?」


「わかりました、ではおやすみなさい。」


「あぁおやすみ。」



◇     ◇     ◇     ◇



教会前で待っていると木箱を抱えたアケラが来た。


「おはよう」


「おはようございます、あれ?それは義手ですか?」


「そそ、持ってきてほしいって昨日帰る際に言われてさ、一度試しに装着してみようということらしい。」


そのとき、後ろの教会の扉が開いた。


「おはようございますアケラさん、ケンジさん、どうぞ中へ。」



◇     ◇     ◇     ◇



中に入るとセティは扉を閉め2人を奥へと案内した

部屋に入ると机と椅子が並べられており、教室の様になっていた。


「今日は魔法の授業をしようと思います。」


「魔法?なんで?」


「アケラさんは光の初級魔法を扱えますが、今回の主な目的はケンジさんの適正診断です。」


「僕の?」


「はい、もうお判りでしょうがこの世界には特別な力を持った物があります、それらは『奇跡』と呼ばれるような物だったりします。」


「『騎士の心』とかの事だろ?」


「そうです、あれは対象を強制的に仮死状態にする物でして…。」


『騎士の心』は過去に使用した人物が一定時間仮死状態を経験したのち人ならざる力を得たという伝承があり、教会がその異常性を確認するまでお守りとして各隊長が所持していた。


「先日のアケラさんの証言により判明したのは、死後のアストログロブ様による『トクトクプロジェクト』の存在ですね。」


「そう言えば、アストログロブ様の存在を確認したわけだけど心境はどんな感じなの?」


「正直に言えば…存在自体は信じておりましたし、特段驚くようなことはありませんでした。

ただ白服以外の子が知ったら想像に難くないでしょう。」


「まぁ、『奇跡』を目の当たりにしている時点で信じるしかないか。」


「で、話を戻しますが。

パサミ氏から貰った報告書ではお二人とも何かしらの力をお持ちとの事で。」


王都の教会本部で話した内容の事だろう。


「…そうですね僕は農業や土地に関する力を。」


「私は武器の上達?かな。」


「分からない点があると?

そしてケンジさんは複数ですか?」


「やっぱり珍しいんですか?」


「えぇ、過去に前例がない訳ではないですがかなり珍しいですかね。」


「実は、僕以外にも異世界転生者がいたということをヨヴィ様に聞いていたのですが。」


先日王都の教会本部で礼拝をした際にアケラとともにヨヴィとコンタクトが取れた。

その時に聞いた話では過去にもトクトクプロジェクトによる異世界転生者がいるそうなのだ、かなり昔から行われていた様子なので今も生きているかは分からないが、もし生きているなら是非会ってみたい。


「過去にも…恐らくですが何人かは心当たりがあります、ですがそれらの人物はすでに亡くなってます。」


「そうですか…。」


「それらの人物は英雄として語られている人物が怪しいかなと、私は思います。

ドワーフの英雄に天才的な発明をする人物が居たという話しがあります、その人物はヒューマンだったという噂があるのですが、不明な点が多く噂の域を出ませんでした。」


「昔から語られている英雄譚とか伝説のお話とかは全部異世界人が関わっている可能性が?」


「えぇ、無いとは言い切れませんね、これに関しては本部のほうで歴史に詳しいシスターが担当してくれると思います。

私は基本『奇跡』担当ですので。」


「調べることが多くて大変だね。」


「それがお仕事ですから、そして今回こうして現存している異世界人にお会いできたので、何ができるのか?、危険性は?味方なのか敵なのか?といったことを明確にさせていこうかなと。」


「それでまずは魔法適正の診断なの。」


「もちろん、アケラさん貴女も能力を見せてもらいますからね?」


「そ、それで僕は何を…。」


セティは懐から水晶を取り出した。


「これは精霊結晶、よく武器に加工して取り付けられるもので精霊と非常に相性の良い結晶だよ。

両手で持って結晶をじっと見つめてみて、自分に適性のある精霊が答えてくれるはず。」


「はぁ。」


言われるがままに両手で結晶を握り、結晶を見つめた。

ケンジは魔法なんてものは信じていなかった、この世界に来てからも見た魔法というものは王都に行く際のボートを動かした水魔法、そして暗い川を照らしたアケラの光魔法のみである。


(仮に自分が魔法を使えたところで何ができるんだ?畑は能力があるから楽だし、〇リー・〇ッターの様な魔法なら便利かもしれないけど、見聞きしてる感じだと〇ラクエや〇ァイナル・〇ァンタジーみたいな自然系な魔法なんだよな。)


「....これってどれくらい見つめてればいいんですか?」


1分は経った、見つめてる間にアケラもセティも喋らないので空気に耐えられなかった。


「....いや、本来ならもう出てもいいはずなんですけど。」


「騎士団の入隊試験の時だったら、もう『色なし』の判定になるだろうな。」


「『色なし』?」


「自然界にいる精霊とは適性がない、つまり魔法が使えないということです。」


「えっ。」


「珍しいけどね…まぁ、魔法無くても大丈夫!ゴルド国民の4割は魔法が使えない人たちだから。」


「逆に6割は使えるんですか…!!」


因みに冒険者や旅人の場合9割にもなる。


皆が卓越した魔法使いではないが、火を起こすなどの基礎的な魔法を使う者が多い。


「魔法かぁ、使ってみたかったなぁ。」


「大丈夫大丈夫、私も入隊時は『色なし』だったから。」


「本当ですか!?じゃあ僕も訓練次第では魔法を!?」


アケラは光魔法を使っていた、その彼女が最初は魔法適性なしを意味する『色なし』だというのだ。


(光魔法はかなり便利だろうな!電気のない時代にどこでも使える光源は便利だ。

紫外線や赤外線は含まれるのだろうか?

もし含まれているなら野菜の栽培に使えるだろうな!!)


ケンジが光魔法の可能性を考えていると....


「ケンジさんの夢を壊すというか、申し訳ないんですが。

光魔法は厳密に言うと魔法ではありません。」



「「...えぇ?」」



ケンジはともかく光魔法を習得しているアケラまでもが耳を疑う内容だった。




少し遅れて投稿になりました。

魔法の説明編はもう少し続きます。

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