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農地開拓

アケラ村ギルド1階には受付や事務所などが存在する。


その奥には職員の自室があり、今はリガとミリア、ダロランが部屋割りされている。


そのうちの1室にリガはいた。


「…」


リガは目を閉じ集中している。


「....!!」


⦅....はい、こんにちはリガさんでしょうか?⦆


⦅お世話になっております、領主様が帰ってこられましたので貿易のお話、結論が出ました。⦆


⦅おぉ、本当ですか!?⦆


⦅はい、結論から言うと貿易のお話、受けさせていただきます。⦆


⦅あぁ、本当にありがとうございます、なんとお礼申し上げればよいか…。⦆


⦅いえ、こちらも利がある事ですので。⦆


⦅では近々そちらに向かわせていただきます、その際にはぜひ領主様とおああい出来ればと思います。⦆


⦅了解いたしました、お待ちしております。⦆


⦅では、失礼しますね。⦆


『念話』を終えて目を開けるリガ。


「…何とも便利なものだな。」


頭をポリポリ書きながらシルマの部下へと連絡を済ませ、ケンジと一緒に農場の視察へと向かう準備をする。



◇    ◇    ◇



ケンジと合流し、徒歩で農場まで向かっている最中。


「ケンジ。」


「はい?なんでしょう?」


「何度も言うが、先程のことは申し訳無かった。」


どうやらまだ引きずってる様子。


「いや、僕も驚きましたけどそれなりの理由がありましたし、自分も異世界に来たのに何も考えずに前の世界の情報を出してしまいました。

反省してます。」


異世界にとって文明が高度に発展し、農業も機械によって管理されていた時代から来たケンジの持つ情報は使い方を誤れば争いの元となる。


異世界転生者がうまくやっていくためには情報の徹底した管理をしなければならない。


「いやいや、転生なんて大変なことをしたんだ、分からないのも無理はないさ、私とて大人気がなかったな...。」


「では...お互い様で...。」


「あぁ、ありがとう。

では気を取り直して、農場の視察へと行こうか。」


「はい、よろしくお願いします。」


「場所はそこまで遠くない、何ならギルドの裏の小道を少し行った村の外れにある。」


(そんなところに農園なんてあったかな?)


リガの後をついていきながらアケラ村を改めて眺める


居住区は木造の家が並び、屋根は綺麗な白。


だがその大半は空き家で、アケラ村の人口は今現在50人にも満たない。

その大半が王都からやってきた民で、生活に苦しむ者や、何やら訳ありの者が住んでいるらしい。


「えっ住民税とかないんですか!?」


農場へ向かう道中、気になったことを聞いてみたら衝撃の事実を聞かされた。


「そう、アケラ村は現在居住区の大半が空き家であり、その維持費も馬鹿にできないものだ。

だが、ギルドマスターは普通とは逆の対策を取った。」


「そうですよね、普通は維持費などに掛かるお金は住民が税として村に収めて、村はそのお金で住民が生活できるように整備するってのが一般的だと…。」


「そう、だがこんな国境付近の過疎の村に来る者たちは普通ではない、税も払えないだろう。

だから代わりに労働力を収めてもらうことにした。」


「えっ?」


ギルドの裏の小道を歩き数分、少し開けた場所に農場はあった。

農場は野球場程の広さがあり所々に雑草の山ができていた。


「おう!エルフのねーちゃん!!ちょうど昨日、草刈りが終わったぜ!!」


大きく手を振りこちらに向かって歩んでくる男がいた。


良く焼けた小麦色の肌に所々土がついている、ケンジがよく見た農作業をしている者の肌だ。


(あれ、あのおっちゃんどこかで見たことがあるな…。)


「おっ、兄ちゃん職員だったのか!ポテト安くしてあげたのによ!!」


「あっ!あの時のジャガイモ売りのおっちゃん!!」


そう、どこかで見た事がある気がした男は、ケンジがこの世界にきて一番最初に会話したジャガイモ売りのおっちゃんだった。


「今度また来てくれよ、うまい芋あるからよ!」


「いやぁ、この前はどうも。」


「何だ、知り合いなのか、なら話が早い。

彼はアケラ村の労働組合長の『ゴベ』さんだ、ゴルド王国から来た20名の移住者のリーダで、税の代わりに労働を対価としてアケラ村に収めている。」


「ゴベだよろしくな、ゴルド王国に住んでいたんだがなかなか上手くいかなくてな、似たような境遇の者たちを集めてこの村に。」


後でわかった話だがゴルド王国は税金が高いことで有名で、これまでかなりの商人が夢半ばで諦めていた国だった。

その分上手いことやれば夢を見れるので今でもゴルド王国には毎年数えきれないほどの商人が出入りしている。


「アケラ村は労働力としてゴベさんたちを雇っているんですね。」


「そうだ、今日はゴベさんしかいないが先日までココの農地の草刈りをして頂いてた。」


「その草刈も先ほど終わったぜ、後はよくわからねえ、ポテトを売ってはいるがどのような形で作っているかなんて知らないからな!!」


なぜか自信たっぷりに言い切る。


(やはり自国で農業をしていないだけはあるな、商人なのに商品については詳しくない。

他国からの輸入が本当に100%なのか?

だとしたら壊滅的だな。)


「作物の栽培については彼、ケンジが担当していますので彼からの指示に従ってください。」


「なんだエルフのねーちゃんが引き続き担当じゃねえのか、じゃあよろしくなケンジさん!!」


「こちらこそよろしくお願いします。

ここの農場は自由に使っていいんですか?」


あたりを見渡したが、野球場程の農場、約100m×100mなので10000平方メートルの農地が広がっていた。


「うむ、一応まだまだ領地に余裕はあるが、過去に耕作が行われていた土地はここだけだ。」


(まあ、村の人が食える分ならたぶん行けるよな、10,000㎡位はあるし最初はジャガイモでやるかな保存も効くし。

慣れて来たら他の野菜も育てたい…)


「なんかさっきから独り言ぶつぶつ言ってますが。」


「…そっとしておいてやれ。」


「ゴベさん、農業に割ける人員は何人ほどですか?」


「そうですね、人数で言うと平均5人ほどは毎日来れるかと、他の人は交代で店を回したり村の清掃作業などの仕事をしてますので。」


「よし、じゃあ畑仕事が出来そうな人を集めて欲しいんだ。」


「何をなさるので?」


「講習会を開く!」


「「講習会?」」



◇     ◇     ◇     ◇



「では今回の講師を務めます、ケンジと申します。」


パチパチパチパチ


5〜6人ほどの村人をギルドの1階、酒場のテーブルを集めて講習会を開いた。


「今回集まって頂いたのは、村のはずれにある土地をジャガイモ畑にする計画の説明をするためです。」


集まった者たちは皆、不思議な目でケンジを見つめる。


「あんた、農業ができるのか?」


「え、ええ。畑の作り方から作物の栽培まで出来ますよ。」


ゴルド王国から来た村人は、まさかこの村に農業のノウハウを持つものが居るとは思わないだろう。


「じゃあ、なんでこの村でやるんだ?農業の知識あるなら国に行って農業をすればいいんじゃないのか?」


(たしかに!!)


言われてみればそうだ、異世界の知識を駆使してゴルド王国主体で農業をすればいいんじゃないか!!


その考えを切り捨てるかのようにリガが口を開いた。


「今回の計画は未だこの世界で誰もしていないものになります、故にぶっつけ本番で行うと予期せぬトラブルを起こす可能性があります。

なのでこの地で試す事になりました。」


「なるほどね、でその計画ってのはどんな?」


(口がうまいなぁ、そのテイで行くのね。)


「今回の計画はいたってシンプルです、まず土を掘り起こす『耕起』(こうき)と言うことをします。

その後芋を植える土台、『畝』(うね)を作ります、あとは植えて育てて収穫して出荷です!!」


「なんだ聞く限りじゃ簡単そうだな、そのコウキとウネって奴を指示してくれれば。」


「あのぉ、私の様な非力な者でも出来るものなのでしょうか?」


声を上げてくれたのは1人の主婦、確かに少しやせ気味で力仕事は無理そうだ。


「大丈夫です、力を使わない作業もあります。」


ホッとした顔をする主婦の方々。

なにも土を掘り起こすことだけが農業ではないので非力な人でも出来る作業は無数にある。


「必要な道具を野営地のビットさんに頼んであるので、それが届き次第作業になります。」


「こちらで準備することはありますか?」


「ジャガイモを出来るだけ大量に欲しいですね、小さくてもいいです!

痛んでなくて芽も出てないやつでおねがいします。」


「じゃあ俺に任せてくれ、芋を用意しよう。」


手を上げたのはゴベさん、ジャガイモで店を切り盛りしているのだから何かしらのコネがあるのだろう。


「ではよろしくお願いします。」


「では、芋や道具が届くまで皆さんには待機になります、質問などがありましたらギルドまでお願いします。」


「あっ!最後に質問あります!!」


手を上げたのは20代ほどの青年


「ハイどうぞ。」


「芋はどのようにして育てるのでしょうか?」


「ジャガイモは店で見かける形状の物をそのまま埋めることで育てます、今回は芋を半分に切って植えます。」


「芋ってそのまま植えたら育つんですか!?」


(そうだよな、その反応になるよな。)


「実はそうなんです、今回は初の試みなのでどの程度出来るのかわかりませんが。」


皆すこし、ざわざわしているがこれはこれで楽しいものだ。


(そうだよな、いつも食ってる奴を植えたらそのまま育つのは不思議だよな。)


「えっと…この様に皆が知らないことが多いから、分からないことがあれば遠慮なく質問するように。」


こうして講習会は幕を閉じた。


◇     ◇     ◇     ◇



「いやぁ、結構皆さん協力的でしたね。」


講習会が終わり、リガと二人きりで農場に戻ってきていた。


「そうだろうな、自分たちが食べるものに関わるんだからな。」


「それもそうか…にしても、広いですねえ。」


「どうなんだろうか、農場なんて見たことないからな、森エルフ達は森を丸々農場にしていると聞いたことがあるけどな。」


「それはすごいなぁ、一度行ってみたいなあ…。」


「それは、先にこちらの仕事を終わらせてからだな。」


「ははっ、ですよね。」


ケンジはそう言うと農場の端でしゃがみ、両手を地面に付けて目をつぶる。


(イメージするのは理想の団粒構造、土の塊:空気:水分の4:3:3。)


時は遡りほんの数分前





「ケンジ、あそこの農地だがつい数日前まで草が生え放題で、今日も見てもらった様に非常に固い地面だったが、あんな土地で本当に大丈夫なのか?」


リガが言うように、学校のグランドの様に固くなってしまっている土地は野菜の栽培には向いていない、仮にビットに頼んでいる農具が届き、地面を掘り起こしたとしてもkじゃい決する問題ではないだろう。


「そうですね、あのままだと作物を育てるには向かないですね。

土は枯れ葉などの物を一緒に混ぜてやわらかくしたりします。」


「じゃあだめじゃないか!」


「そこでなんですけど…。」


ケンジはあたりを見渡し、人がいないことを確認する。


「自分の能力を使おうかと…。」


「ほう?どんなのだったかな…?」


「花壇の草抜きをした時の応用です、土の中の空気や水分の割合を調整できるんですよ。」


「???」


「えっとですね…実際に見せます。」


リガを連れギルドを出る、外に出て地面を指さし。


「例えばここの前の道の土、この土は踏み固められていて土中の水や空気の割合はほぼ0です。」


「ふむ。」


「そしてこっち。」


次に移動したのは裏口にある洗濯場、そこには井戸があり好きに水が汲めるようになってい

た。


「そしてここ。」


ケンジが指さしたのは水汲み後の地面、濡れて少しぬかるみになっている。


「泥?」


「そうです、ここはほぼ水で2割ほどが土です、そこで能力を使うと…。」


泥に指をつけ、空気の割合が多くなるようにイメージする。


すると


「おおっ!」


目の前にあったぬかるみからどんどん水気が引いてゆき、乾いた土の色になっていく。


「すごい!どういうことだ!?」


「今したことは、土の中の割合を空気が5割、土が4割、水が1割になるようにしました。

そうすると水は下の方に流れてゆき、表面がふわふわの土になります。」


「なるほど!同じことを農地にするんだな!!」


「そういうことです!理想は土の塊が4、空気や水分が3ずつの土です!!!」



ケンジは集中してイメージする、すると目の前の土がもこもこと動き始めた。


「おっ!すごい動いているぞ!!」


固かった土は大小様々な土の塊になり、土中にも隙間ができ理想的な土地に近づいた。


「おぉ、自分でもこうも上手くいくとは思わなかったです!!」


あっという間にゴベさんたちが草刈りをしてくれた土地が生まれ変わった。


「けどあれだな、水がないな。

野菜も鼻と同じで水やりをしないといけないんだろ?」


「あっ。」


ここにきてようやく初歩的なミスに気が付く。


水である。


「しまった!!!!!リガさんこのあたりに川とかあります!?」


「い、いや少し遠いかな…。」


「うわぁ!!」


「まさか、忘れていたのか?」


「ど、どうしましょう?」


水がないのはかなりの問題である、土の事ばかり考えていたのですっかり頭から抜け落ちていた。


「うーん、あるとするならば…水の専門家に相談してみよう、何とかなるかもしれん。」


リガの口から出てきたのはまさに希望の一声だった


「ほ、本当ですか!?」


「うむ、ギルドの水回りの事を管理している者がいてな、明日にでも会いに行くといい。」


聞こえてきたその人物の名は、ケンジがどこかで聞いた名前だった。


「野営地にいる水魔法使い、『ミラドロル』君だ。」


そう、アケラと利用したゴルド王国までの船の舵取り、その青年の名前だった。


読んでくださり誠にありがとうございます。

月に1度の更新頻度になります、よろしくお願いいたします。

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