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白服たち

「いらっしゃいませ!!2名様でご利用ですか!?」


ケンジとアケラが訪れたのは宿屋『旅人の家』、その名の通り旅人向けの宿屋となっており低価格で人気の宿だ。

かなり大きめな3階建ての建物で運営は国がしている国営施設らしい。


「2名で同室でベット2つで。」


「うえっ!?」


「何、照れてるの?」


「いっ、いや、別にそんなわけじゃ。」


ケンジとて生前に女性との付き合いがなかった訳ではない、だが経験豊富でもない。

だが生前出会ったことのないレベルの顔の整った女性と同室で寝る、ドキドキものである。


するとアケラは動揺しているケンジの耳に顔を近づけて…


「トラブル防止の為に頼むよ、いざという時に君を守れない。」


たしかにそうだとケンジは思った、いくらこの国の治安がいいからと言っても初心者が一人で寝るのは避けたほうがいいだろう。


「わ、わかりました…。」


いきなり顔が近づいて心拍が跳ね上がった、女性にもモテそうなキリッとした顔がケンジの耳から離れると。


「後は今後の予定についても話し合いたいからね!」


歯を見せニコッと笑うと、宿屋のカウンターに寄りかかり。


「明日の朝には出るから朝食はなしで。」


「かしこまりました、では...お一人様20Gになります。」


(やす〜い!!夕食付きで2000円くらい!かなり安い!)


ドキドキしていた気持ちを一瞬で吹き飛ばす値段を聞いてしまった。

ゴルド王国では冒険者や旅人登録してある者が宿屋を利用する場合かなり格安になるそう。


アケラは布袋から40Gと冒険者カードを受付嬢に渡し、でかい南京錠の鍵を貰った。



◇     ◇     ◇     ◇



時同じくして夕方。

アケラ村ではギルドマスターの部屋にダロラン、リガ、ラシの3名が揃っていた。


「では、調査結果を聞かせてほしい。」


ダロランは教会にギルドとしてケンジの身元調査を依頼していた。

フラッと現れた正体不明の青年、農業が廃れた国で農業をしたいと言い出す。

怪しいにもほどがあるというものだ。


「...あらかじめ言っておくことがありまして、この調査には本国の調査員も協力していただいています。」


「本国のシスターも?」


「白服です。」


「「!!」」


白服が絡む事件や物事ということだけでその重大さがわかる。


「今回はただの身元調査では?」


「やはり只者では無かったということですかな?」


いつもより真剣な声のトーンでダロランが尋ねると。


「まず私は彼の出世を調べるために本部に調査依頼をしました、しかし帰ってきた返事は『身元不明』、これは摩訶不思議な事です。」


「摩訶不思議とは?」


「本部はゴルド国内に留まらず、各国の要人や貴族などの出世も調べましたが該当なしでした。」


「なぜ要人の出世記録を?ケンジ君は一般の出の可能性もあるが…。」


「一番最初に会ったときに彼は『ナカヤマ・ケンジ』と名乗りました。

性があるなら貴族か騎士などの出だと思い調査したのです。」


「なるほど、確かに性がつくのは限られた人だな。」


「ですがこの『ナカヤマ』という名は見つからなかったのです!

そご聞き込みなどを行いましたが、私が出会った日以前の目撃談は一切出て来ませんでした。」


それもそのはず、ケンジがこの世に転生した日に出会って会話したのは八百屋のおっちゃん(ジャガイモ売り)と教会のラシ、そしてギルドメンバーだけである。


「となると...魔王国領から?」


「だとしたら目的が不明確すぎますし、見た目からして魔族とは考えにくいです。」


「魔族ではないだろうなぁ、今ケンジ君は首都まで行ってもらってるからね。」

ダロランは頭を悩ます。


「あぁ、そうでした首都には結界があるから魔族は入れないんでしたね。」


3人はそのまま黙り込んでしまった。


問題は大きく分けて3つ


・ケンジの身元が分からない事、これは本人に聞くしかない。

もし害をなす場合だった場合は相応の対応が必要だ。


・魔族との付き合い、前向きな姿勢を見せてはいるが領主のアケラに意見を聞いてみないと話が進まない。


・領地の発展、これに関しては資材や人材をアケラが首都へと要請しに行ってる。


「あれですね、アケラさんたちが帰ってこないと話が進みませんね。」


「「そうだな…。」」


結局、3人で情報を共有しただけで問題の根本的解決には至らなかった。



◇     ◇     ◇     ◇



「私は窓際のベッドを使わせてもらうぞ!」


ごつい南京錠を開けて入った部屋はそこそこ広いビジネスホテルのような部屋だった。


程よく離したツインベッドに、1つのテーブルと2つの椅子。

トイレや風呂は別だ。


「は、はいじゃあ僕は扉側で。」


ケンジは扉を閉め南京錠を内側からかける、治安はそこまで悪くないらしいが就寝時の使用を推奨しているらしい。


「よいしょっ。」


アケラは荷物をベッドの上に置き、毛革のマントを脱ぐ。


ドジャッ

外したマントから金属音がした


「なんですかそのマント、何か落としましたけど。」


「…いい機会だから話しておこうか。」


「?」


アケラは片手でマントを広げて見せた。


「おわっ!!」


マントの内側にあったのは小型の投げナイフに短剣、ケンジが買ったナイフに似たような形状の物もあった。


「これって…!!」


アケラに目をやると上着を脱いでいた。


「…。」


美女が上着を脱ぐなんてちょっとしたハプニングシーンだがケンジはそれどころではなかった。


薄着になったアケラの体には無数の切り傷があり、これまで生き延びた戦場を物語っていた。

その体の腹の部分にも細い針のような武器が隠されていた。


「まだまだあるよ、足や靴にもいろいろ忍び込ませてある。」


「なんでそんな...。」


「授かり物。」


「えっ?」


「君もあるんだろ?『特別な力』が、ヨヴィ様から授かったポイントを使った能力さ。」


脳裏によぎったのは初めてアケラ村で土を触った時の事。

固い放置された土が、まるで砂の様に抵抗がなくなり雑草抜きが非常に楽だったのだ。


(てかあれが能力なのか?便利だけど雑魚くないか?)


「僕の能力は農業系だと思います、土の状態を操作する…みたいな。」


「なるほど、農業に特化してるんだね。」


(何回も聞いちゃ迷惑だろうけど、またヨヴィさんに能力の詳細を聞いておこう。)

「私は、コレ!」


アケラは腹部に隠してた細長い針状の武器を取り出した。


(なんだっけ、針手裏剣だったかな?)


その武器を目にもとまらぬ速さで投げる。

ケンジの目を見つめたままで。


スコン


と壁に刺さる音がした。

その方向を見ると、針が部屋の明かりにつられた蛾の羽を見事に刺していた。


蛾はまるで標本の様に壁から動けずにいる。


「えっ...すごい。」


「武器の扱いが超絶に上手くなる、それが私の能力、だと思う。」


「思う?」


「いや、まだ実感が湧かないというか...。

実戦はドラゴン以来してないし。」


「なんかポイントの振り分けみたいな事しませんでしたか?」


「あぁ、したと思う!あれが能力を授かる儀か。」


「僕はポイントが多かったので翻訳とか、農地の耕作技術や作物の状態見たりとか...」


「見事に農業系の能力だな...。」


「アケラさんのは...戦闘系の能力ですよね?」


「そうだなぁ、ドラゴンを目の前にして『騎士の心』に祈った時は状況を打開できる力が欲しい、それだけを必死に思ったなぁ。」


「『騎士の心』って、強制的にトクトクプロジェクトをさせるみたいなアイテムですよね。

そんなの誰が作ったんです?」


「いやぁ〜、そればっかりはわからないなぁ。

騎士団の備品は全部国から支給されてるからトップに聞かないと...。」


「なるほど、なんか面倒事になりそうですね。

自分はゆっくり農業がしたいだけなんであまり踏み込まない様にします。」


「賢いね、長生きするよ。」


アケラは針を壁から抜き、腹部に隠した。


「2度目の人生だ、自分のしたい事をやりな。

こっちの世界の面倒ごとはこっちの世界の住民に任せて。」


装備を片付けながらアケラは微笑んだ。


「明日は早い、教会とギルドに寄って村に帰るよ。」


「やっぱり帰らないといけないですよね。」


「問題が多すぎるよ、君の方は?」


「僕ですか?」


「農業だよ、アケラ村はどう?農地に向いてるの?」


「うーん、正直言ってこの国で農業するのはかなり難しいと思います。」


ケンジが一番疑問に思っていたのはこの国の食料自給率だ、市場で見た農作物のほとんどがエルフの国からの輸入品だった。


「やっぱり自国で農作物をある程度作れないと、いざという時に大変だと思います。

エルフの国からの輸入でなんとかなってますけど逆に考えるとエルフの国が値上げをすると逆らえない点が問題です。」


この世の国ごとの生産力はわからないが、市場を見るだけでもエルフの国が農産物の輸出量が多い事は明確だった。


「そうだね、ゴルド国が直面してる問題の一つがそれだね。

実はそれについて国内でも動きがあって、新しく農地開拓する村には補助金が支給されるんだ。」


「そうなんですか?それは良いですね、つまりアケラ村も対象ですか?」


「もちろん、だから君には期待してるんだよ。」


「責任重大ですね、生産性を上げるまで行けるかわかりませんが村の人が食べる分なら今年できるかもしれないです。」

 

「なるほど?詳しく聞いても?」


「はい、まずはこの世界の食べ物なんですが…。」


ケンジはなるべく農業素人のアケラにわかりやすく栽培方法を説明し始めた…




同時刻、ゴルド教会中央総本部の地下2階

大会議室にて5人のシスターが円卓を囲み、話し合いをしていた。


「でわでわ、定例会議ですね。」


「毎回思うがそんな軽いノリだから5人しか集まらないんじゃないか?」


薄暗い大会議室には

14席ありそのうちの5席に白服のシスターが座っていた。

もちろん、その中にパサミの姿もあった。


「いやぁ、最近いろんなことが起こりすぎてさ、皆地方に飛んでるんだよね。

我々だけでもすべきでしょう。」


「いろいろな事が起こりすぎてますな、ドラゴンにエルフ国からの輸入制限、アケラ・グラディウスの領主着任。

私らの仕事が多すぎないか?」


「ドラゴンの出どころは曖昧だし、エルフどもは聞く耳を持たない、グラディウス殿の件も陛下が何を考えておられるのか…。」


「ともかく、最優先は輸入問題と思われます、エルフの国に潜入捜査をしていますが、あまり進展がない様子。」


「作物が取れてないのでは?」


「だとしたら一大事だな。」


白服のシスターが直々に動く様な出来事は基本的にはない。

国同士の揉め事や、重大犯罪者の処理などになる。


「とりあえず報告から、ドラゴン襲撃事件に進展がありました。」


「おぉ、何かわかったのか?」


「はい、ドラゴンは母親だった可能性があります。

恐らく国への献上品に卵があったものかと。」


「よくある話だな、魔物の母親が子供をさらわれて人里を襲う、積み荷に卵が?」


「いえ、リストには載ってませんでした。」


「…では第三者が意図的に?」


「可能性はあります。」


「う~ん、その積み荷がたまたま道中で襲撃されたから良かったものの、王都にまでたどり着いてしまったらと思うと…。」


「王都は大混乱してたでしょうな。」


「グラディウス殿はそういった事でも評価されるべきでしょうな。」


「あの、この件は本人にも伝えるべきでしょうか?」


白服4人の話に勇気をもって飛び込んだのは白服1年目のパサミだった。


「ああ、そういえば知り合いだったね、本人に伝えるのはまだ後で良いと思うよ。

北の村にもシスターはいるしそこで連絡してもらおう。」


「今はもうアケラ村と呼ぶそうですよ。」


「何ともわかりやすい名前だな。」


「その、アケラ村についてご報告があります。」


パサミは緊張こそしているが、報告しないといけない重要な話がある。


「どうぞ?」


「あっえっと、簡潔にまとめますとアケラ村に魔族が現れ貿易を持ち掛けてきたとの事と、ケンジ・ナカムラが『転生者』ということが判明しました。」


「「「「!!!!????」」」」


パサミ以外の4人が驚いた表情を見せる。


「魔族!?アケラ村にか!?住民の安否は?」


「貿易というのは物品の取引を出来るほどの魔族、『名前持ち』か?」


「それより『転生者』か、これまた珍しいな、古い文献にしか詳細が載ってないな。」


「う~む、ちょっと無視できないな、詳細はわかるかい?」


パサミは急いで資料を配る。

アケラ達と別れたあと地下図書で調べた内容と、アケラ村教会から遅れてやってきた定期報告の内容だ。


「魔族につきまして『シルマ』と名乗り魔王国貿易担当官だと、貿易開始希望は来年の冬で魔族からは鉱石などの資材特産品、アケラ村からは食料などを交換する話をしたそうです。」


「魔族側は食料不足か、たしか戦後に権力を持つ魔族らによって魔王国軍はバラバラになり、領地もバラバラになったのだったな。

このシルマという人物は魔王国軍の生き残りか。」


「私の記憶違いでなければ、あの土地に取引をするほどの物資はあるのか?」


「はい、そこで二つ目の問題である『転生者』ケンジ氏の話が出てきます。」


「ふむ『転生者』、女神の加護を受けし者か。

この話は昔からおとぎ話としてあるが、実際は数百年ごとに記録が残ってるのか…。」


白服の一人が資料を確認しながら話を進めていく。


パサミが調べたゴルド教会の地下図書にあった文献には転生者についてこう記されていた。


『異なる世界より転生した者、転生者と呼ぶ。

大天使に導かれた者は不思議な力を持ち、この世に変化をもたらす。』


「…この文献に書かれていることによると、不思議な力を持つそうだな?」


「はい、彼に直接聞いたので間違いありません。

彼は作物栽培に長けた能力を持っています。」


「ほう、アケラ村はギャンブルに出たのか。」


「農地開拓する際に出る補助金も頭に入れてるでしょうね、ケンジ氏の能力がどれ程かによりますが、アケラさんの腕にかかってますね。」


「アケラ村は今一番目が離せないわね。」


ふ~む、と4人は考え込む。

若き領主アケラ・グラディウスは今後注目するべき人物だ、ドラゴン襲撃事件の生き残りで騎士団出身。


それに加えケンジも目が離せない、異世界出身で能力持ち。

どういう風の吹き回しかわからないがアケラと行動を共にしているのも不思議な話だ。


「今現在アケラ村にいるシスターは?」


「はい、旧北の村出身のラシ・ロロラーナで去年から在任してますね。」


「白服一人は置いておきたいな、魔族が今後も出入りする可能性が高いしな。」


現在ゴルド王国には白服階級のシスターが13人在籍しているが、そのほとんどが国外に情報収集していたり、世界を旅しながら巡礼していたりと散り散りになっている。


「…まあ派遣人員は追々決めましょう。」


「はい、わかりました。」


やっと自分の報告が終わりホッとしたパサミは先輩たちの話を聞く姿勢に戻った。


「では次の議題に、エルフの国について…。」


会議は夜遅くまで続いた。



◇      ◇     ◇     ◇



ゴルド国に来たケンジの2日目の朝。

農家としては朝早く起きてしまうのでアケラより早く起きた。


(トイレ...)


この世界のトイレは排水がしっかりしており、トイレの下に水が流れていて、その下水は国外までながれ肥溜めがあるそうだ。

その後は土魔法だの、なんだので土に返したりするらしい。


(土魔法がどんなのかはわからないけど、肥料として使えるのかな?

けど知らない人からするとかなり抵抗があるだろうな。)


ケンジの部屋は2階なので用を足した後に横にある桶から水を汲み洗い流す。

すると管を通って下水へと流れる。


(トイレの形も日本の洋式に近いし、トイレットペーパーもなんかメモ用紙みたいな感じで置いてあるコレだよな。)


たくさんの柔らかい紙がたくさん置いてあったのでおそらくコレで拭くのが正解だと思われる。


(う〜ん、この時代に似合わない技術だ、汲み取り式かと思ったが...。)


トイレから出て手を洗いながら色々考える。


(ヨヴィさんが言ってたみたいに昔からこの世界に異世界人が転生してたなら、いろんな時代の色々な技術が伝わってるってことなのか?)


洗面台で手を洗い、寝室に戻る。


「おはよう、よく眠れたかい?」


なるべく物音を立てずに移動したはずなのに起こしてしまったようだ。


「おはようございます、すみません起こしてしまったようで。」


「いやいや癖でね、何か動くと起きてしまう。」


騎士団も野営や寝ずの番をするなど一通りのサバイバル訓練をしていたそうなので眠りは浅いとの事。


「アケラさんも眠れました?」


「ああ、昨日の船よりかは眠れたかな。

さて、今日はギルドに行ってメメと合流して、3人乗りの馬車で村へ帰ろうか。」


村の方ではいろいろと仕事が山積みなのだろう、ケンジも本格的に農業をしなければと思っていた。


「よし、じゃあ荷物まとめて下に降りて!行く準備しよう!!」


「はい!」


ゴルド国の滞在は短いものだったが、ケンジなりに楽しめた。

村に帰るとのんびりできないのだから、つかの間の観光だった。


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