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お買い物

ゴルド王国のマーケット通りは様々なものが集まる事で有名だ、門をくぐるとまず漂う香りによだれを垂らすだろう。

肉、キノコ、芋などを調理したものが並ぶ店がまず目に入る。

その先を進むと青果や野菜、穀物類などを取り扱う店が並び、最後の通りは武具や装備品、衣服を取り扱う店の順番でこの通りは構成されている。


その通りを入って少しのところ、フード系店の前で一人の青年が叫んでいた。


「蒸かし芋が10Gはぼったくりでしょ!」


彼はこの世界よりかなり農業が発展した世界からの転生人、ケンジ。

生前なら蒸したジャガイモなら¥200もしないだろう、だがここ異世界の蒸したジャガイモは10G、つまり¥1000もするというのだ。


叫ばずにはいられない。


「おっと兄ちゃん!!この蒸かし芋をそこらのと一緒にしてもらったら困るぜ。」


芋屋のおじさんが話しかけてきた。


「この芋はエルフの手作りだ、どうだ?でかいだろ!?」


おじさんが見せてきたのは拳サイズのジャガイモだった。


(確かに大きい、今まで見たこの世のジャガイモはどれも小ぶりで赤色に近かった。

これは品種改良したってことか?)


「そんで決めつけはこれよ!!」


机の下から出てきたのは木製の小樽。


「これは?」


「...ピンクソルトさ。」


「塩ですか?」


「ただの塩じゃない、ピンクだ。一般市民が買える茶色い塩じゃない、もっと質が良いものだ。

これを蒸かした芋に一つまみ。」


(なるほどね、昔は塩や胡椒など香辛料は金と取引されていたんだったな。

ピンクってことは岩塩かな。)


「なるほど、高級な塩とでかい芋で10Gと…、」


「で、兄ちゃん。

買うかい?」


「うーーーん、この後食材とかも買いたいから...また今度にします。」


「了解、ただ俺も毎日芋を仕入れ出るわけじゃ無いから芋が食えるのは運だな。」


「あ、芋だけじゃ無いんですね。」


「ここだけの話、俺の知り合いにエルフと野菜の取引をしてる奴がいてな、そいつから俺は卸してもらってんだ。」


「へぇ、結構自由なんですね!」


「ん?兄ちゃんはゴルド領外から来たのかい?自分で言っといてなんだが今言ったやり取りは場合によっちゃ罰金が科されるぞ。」


「やっぱり国を通さないと?」


「だな、国から出るもの入るものは全てチェックが必要だが、俺は国外で受け取りそれを国内へ持ち込み【ゴルド国産】として売ってる。

まぁ、グレーなやり方だが悪目立ちしなきゃお咎めは無いさ。」


(なるほど、ここではそのやり方は『あり』なのか。)


「お話ありがとうございました。」


「また来てくれよな、今度は買ってくれ。」



◇ ◇ ◇ ◇


「おぉ!!肉だ!!」


次にケンジが訪れたのは加工品が並ぶ食品売り場。

青果物や穀物、肉やその骨や皮など様々な商品が並んでいた。


特に目を引いたのは前世では見なかった肉の種類の数だ。


(すげぇ!骨付き肉だ!漫画でしか見たことないサイズだ!!)


よく漫画でみる片手で持つタイプの骨付き肉だが、実際にあのサイズの肉となると相当な大きさの動物がいると考えられるが。


フィクションでしか見たことのない肉にケンジは興奮しており、そんなことを考えてはいなかった。


「すみません!この肉いくらですか!?」


「いらっしゃい、ギガントオークの骨付き肉?これなら80Gよ。」


(高い!けど憧れだよな骨付き肉!!けどギガントオーク?オークって何だっけ聞いたことあるような?)


「ちょ、ちょっと待ってくださいね。」


急いでアケラから貰った革袋を開け、資金を確認する。


(ん?中に紙が。)


『ケンジ君へ、ゴルド国のバザーは魅力的な物が多いので無駄遣いしがちです。

特に飲食系の露店と肉は高額なので注意してください。

財布の中のお金は自由にお使いください。

食品はアケラ村のジギが管理してるので勝手に買って帰ると殺されます。

せいぜい食べ歩き程度にしましょう。』


(怖え〜、先に読んでよかった...じゃあ歩きながら食べれる物にしようかな。)


「あ、すみません、なんか食べ歩き出来るのあります?」


「串肉なら2Gだよ。」


「ではそれをお願いします。」


店員に2G渡して商品を貰う。


ちなみに財布(正確には小さな革袋)には100G硬貨4枚と10G硬貨が7枚、残りが1G硬貨で計500G入っていた。


渡された串肉と呼ばれるそれは祭りの屋台で見る焼肉の串みたいな物だった。

よく見ると牛肉みたいな物から鶏肉のような物も刺さっていたので、切れ端の串肉だと思われる。


肉屋の店員に礼を言い、せめて何か手元に残るものを買いたいと思い、通りを進んで行く。


(この串は竹串だな、竹が存在するのか...

肉も肉で、これでもかってくらいに火が通ってるから衛生管理もしっかりしてそうだな。

何の肉か分からないけど、香りは美味しそうだし問題ないだろう。

一つ言うとしたら味付けが無いことかな、やはり塩や胡椒は高級品なんだな。)


通りは食べ物関連の店が多いからか様々な人で溢れていた。


耳が長く肌が白い種族、おそらくエルフ。

(やはり美形だな、顔立ちが整いすぎてると思うほどに綺麗な容姿をしているが、それ以外は人間とあまり変わらないかも。)


背が小さく髭の濃い種族、ドワーフ?

(ラシさんの授業ではあまりドワーフの話が出てこなかったけど、某指輪の物語で見たことあるのとそっくりかも。)


背が高く犬が二足歩行したような種族、あれが獣人族?

(もっと人間に猫耳とかが生えた種族かと思ったけどかなり獣よりだな、全身が体毛で覆われているし、脚も逆関節だ。

顔は犬なんだけどどこか人間っぽい、なんだろう?目の間隔かな?)


あとは腕が4本ある人や、明らかに人間の肌と異なる色をした人物など。


比率としてはケンジと同じ人間が割合が多く、亜人は1割から2割ほど見かけた。


(この国は人種差別とかがなさそうだな、よくファンタジー系のゲームでは人類対魔物見たいに書かれることが多いけど…この世界は平和そうだな。)


串肉を食べ終わり、飲食店が多く並ぶエリアが終わりかけており、次に待っていたのは冒険者ご用達の装備品や武器防具の店の通りとなっていた。



◇      ◇      ◇      ◇



「おっさーーーーん!!」


メインストリートから路地に入り少し入り組んだ道の先にある店『鍛冶屋ノックス』の扉の前にて大声で叫ぶ女性の姿があった。


そう、アケラである。


「えぇ?留守か?だとしても弟子くらい留守番にいるだろ…おっさーーーーん!!!!!!」


すると金属製の扉が開き、中から目の下にクマを作った青年が顔を出した。


「…あぁ、お久しぶりですアケラさん、今ちょっとダウンしてまして。」


「おっ、『ロミ』元気か?おっさんに武器を見繕ってもらいたいんだが。」


「話聞いてました?今徹夜明けでダウンしてるので元気ではないんです。」


扉を開けてくれた青年は工房に住み込みで働く17歳。


「そんなことよりおっさんに会わせてくれよ!騎士団辞めたから新しい武器を見繕ってほしくて。」


「えっ、騎士団辞めたんですか?てか騎士団って辞めれるんですね、てっきり重症とか殉職でしか辞めれないのかと…。」


「私だけ特別さ、いろいろ事情込みでね。

で、おっさんがダウンしているなら何か武器見せてよ。」


「了解です、色々見ていってくださいよ、試作品もありますよ。」


『鍛冶屋ノックス』は路地に面したこじんまりとした一軒家で、売り場も少なく基本的にオーダーメイドの店だが、店主の『ノックス』は独特な創作センスで珍しい武器を作ることで有名だ。


アケラもその独創的な武具のファンだった。


「新作はある?」


「あ~、今新作の試行段階で忙しくて、あまり出来ていないですね。

なんか希望とかあります?」


「見てこれ。」


アケラは無くなった左腕を見せた。


「あ~、なるほど騎士団辞めた理由がわかりました、そうなると軽い奴でリーチも短めがいいですね。」


ここの鍛冶屋は一般的な所では断られるような案件も、工房主の興味があるものなら受ける。

一部の冒険者に人気のある隠れた名店だ。


「好んで使うのは剣ですか?刀ですか?」


「刀?刀って?騎士団はショートソードかロングソードだったけど…。」


「刀ってのは片刃の剣のことです、最近出たのはこれですね。」


ロミが商品棚を指した、その武器は湾曲しており刃渡り60センチ程の刀だった。


「これはサーベルって呼ばれるものです、刃が薄く切ることに特化しているので魔物相手に使う方が多いですね。」


「戦争が終わり、切る対象が人から魔物に変わった影響もある?」


「そうですね、ロングソードなど両刃は鎧ごと叩き切る感じでしたが、このサーベルは細いので突きや切る感じの使い方になると思います。」


「なるほど、評判の程は?」


「うーん、切れ味の維持と横からの衝撃に弱いので扱いが難しい感じですね、なので売れ筋だとまだまだロングソード、ショートソードですね~。」


「なるほど、じゃあそのサーベルを貰おうかな。」


「良いんですか?まだ試作段階なのでお安くお譲りできますが、扱いがかなり難しいですよ?」


「大丈夫大丈夫、いくら?」


「200...150Gでいいですよ、お世話になっていますから!」


「本当!?助かるよ、私は現役引退したから何か手伝えることがあればいつでも連絡してよ。」


「はい、そうさせてもらいます!ところで今は何されているんですか?」


「ゴルド領域最北端、北の村のアケラ村領主。

もしかしたら今後、金属製品の取引を持ち込むかもしれないね!」


「...えぇっ!?領主!?どういうことですか!?」


「えっと、かくかくじかじか。」



◇     ◇     ◇     ◇



「はぁ、もう何がなんだか分からないですね...。」


「こっちもよくわかってないんだよね、王令で領主になったのもわからないし、刑として国外追放ならまだ分かるんだけど、領主着任はどう考えても不可解よね。」


「そこらへん詳しい人はいないんですか?」


「今回は急ぎで来たから国王に謁見は無理だよね。」


「ですね、最低でも1ヶ月前からアポ取らないと。」


(じゃあ教会に聞くしかないよな〜、騎士団長は不在だし。)


「だよね、まぁ急ぎじゃないからぼちぼち情報収集するよ。」


ロミはいそいそとサーベルを鞘に納め、アケラから代金を受けとる。


「ありがとうございました、またよろしくお願いします。

次来る時には新しい刀ができてると思いますよ、今頑張ってますので。」


「あ本当?じゃあまた来るよ、冬明けたらかな、おそらく。」


「はい、お待ちしております。

師匠...ノックスさんにもお伝えしときます。」


「よろしくね、じゃあね。」


鍛冶屋を後にし、左腰に新たな武器を携えたアケラは教会へと向かう。


「あ、布屋...マント加工して貰わなきゃな。」


少し寄り道することにした。



◇    ◇    ◇    ◇



「ゴッツいな...」


ケンジが見ていたのは通りに面した武器防具屋、そこに飾られていた巨大な剣。

刃渡は1mはある両刃の両手剣だが、注目すべきなのは刃が太い事だ。


「あ〜、なるほど面で攻撃を受けるのか...何キロあるんだこの剣。」


商品には木札がついており、値段と説明が彫られていた。


『大剣』

切るもよし、潰すもよしの万能な剣です。

素材:鉄

230G


(高え〜!コレに装備や備品揃えたらかなりの額になるぞ!!

冒険者とかってそんな儲かるのか!?)


武器防具屋には工房から仕入れた装備品が販売されており、武器以外にもナイフや盾など様々な冒険のお供が売られていた。


「あぁ〜、ずっとここに居れるなぁ。」


店内に入るとかなり広く、1階は鉄格子越しに武器が陳列されており、棚には小物が置かれている。

2階もあり、防具などが売られているようだった。


「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」


店員の女性が近づいてきた。


「いや、特にこれと言ってはないんですが見に来ただけで。」


「かしこまりました、また何かあればお呼びくださいね。」


ニコっと笑うと店員はカウンターへと戻る、カウンターも鉄格子で囲まれており、武器屋の防犯意識の高さが伺える。


(どうしようかな、武器持っといた方が良いのだろうか?

魔物が居るとは聞いたけど、街中でも冒険者みたいに武器を装備しながら歩いてる人をかなり見かけたもんな...。)


護身用の1本でも持っておいた方が良いと思い、お手頃なナイフを買うことにした。


(ナイフっていろんな形があるのな、どれも殺意が高すぎる気がする。)


店の真ん中あたりにある箱の中には、柄をしっかり紐で固定されたナイフたちが展示されていた。


返しが付いており刺すと抜けなくなるナイフ、薄く切れ味に特化したナイフ、投げるのに適した物、鎌のようになってる物など、実に様々なナイフが展示されていた。

50〜100Gと、剣などに比べるとまだお安く感じる値段でもあった。


(鎌みたいなやついいな、収穫に使えそう。)


『シラットナイフ』

引っ掻く動作で良く切れます。

両刃に加工も出来ます。

素材:鉄

60G


(お?安いんじゃないか?コレにしよう。)


「すいません、このナイフを下さい。」


「はい、ありがとうございます〜。」


店員が駆け寄り固定していた紐を切り、手に取り見せてきた。


「こちらは最近工房の方が完成させた卒業作品です、切れ味は保証出来ますし、逆手に握ることでコンパクトに振り回せます。」


「?なんですか、その卒業作品ってのは?」


「卒業作品というのは、ドワーフの里からの試練みたいなもので、設計図が里長から渡されるそうです。

それを完成させる事がドワーフ達の一人前の証だそうで、このナイフはドワーフの職人さんの試練結果なんです。」


「へぇ〜!えっ、でもそれじゃお高いのでは?」


そんな特別な物なら60Gで収まるのは不自然だと思った。


「いえいえ、こちらは初期の作品なので設計図通りの品、一流の職人はここから改良などを繰り返し高級品に仕上げます。

なのでこちらの商品は言えば試作品と言った形で...。

あっ、でも性能は良いですよ!切れ味もしっかりしてますし、剛性も問題ありません!」


「なるほどなるほど、お買い得ですね!じゃあそれ買います!」


「ありがとうございます!!

本日、身に付けて帰られますか?それとも贈答用ですか?」


「あっ、装備して帰ります!」


(いっ、今のは『ここで装備していくかい?』って奴か!!懐かしい〜、昔よくやったゲームで聞いたことあるセリフだぁ!)


店員さんが鞘を用意している間に財布からお金を出す。

アケラからもらったお金は200G、残りは140Gになった。


(服はギルドから支給されたものもあるし、革袋も鞄として申し分ないからあまり買わないといけないものは無いかも…。)


「はい、お待たせいたしました!!また何かありましたら是非ご来店ください!!」


「ありがとうございます、あの、これ腰につけてても大丈夫ですかね?」


「抜刀さえしなければ罰せられることはないですよ!後は正当な理由さえあれば認められる場合もありますが、取り調べを受けると思います。」


「なるほど、ありがとうございます!ではまた。」


店を出ると日が傾きかけていた、今は肌寒いので四季で言うと恐らく秋の終わりごろだと思われる。


(そういえば、四季ってあるのか?そもそも地球と同じなのか?

農業するならかなり重要な要素だから確認しとかないとな…。)


シスター・ラシからもらったメモ用紙を確認しながら、アケラと約束した教会へと向かう。


(そもそも技術もどこまで発展しているのだろう、街並みもきれいだしな…。

教会で聞けるところまで聞くか…。)


目的の教会は、もうすぐ目の前まで来ていた。


読んでくださりありがとございます。

少し遅れてしまいました!!

1か月に1話を目指してがんばります!!

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