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貿易相手

「本日は本当にありがとうございました。」


シルマが締めたこの会談、約2時間に及ぶ話し合いだった。

シルマ達の領地、【シルマ領】と仮定する。

今回の内容は以下のようになる。


・月に一度の貿易を行う

・シルマ領からは魔王国領地の特産品(鉱石や資材など)

・アケラ村からは食料品、生活必需品などを貿易する

・貿易開始日は1年後の冬

・冒険者ギルドにも依頼や報酬を用意する

・その他


など、アケラ村にとって良いことずくめの内容だった。


「しかし、本当に良かったのですか?あまりにもそちらに対する利が少ないような気が…」


「いえ大丈夫です、まず貿易は両者平等な取引をしたいのですが、今私たちにとって最も大切なのは食料なのです、鉱石で飢えは凌げません。」


「そしていずれゴルド王国と魔王国の公式な貿易ができると良いですね。」


「はい!そのためには我々も領地の統一をしなければ、貿易なんて夢のまた夢です。

何卒、よろしくお願いいたします。」


「いえいえこちらそ、この後お食事でもいかがですか?」


ダロランとしては今回の貿易の話は即決したいものだった、だが内容が内容なのでアケラが不在時に最終決断は下せない。

手ぶらで返すのも何なのでせめて食事でもと思ったのだ。


とは言っても豪勢な物は出せないが。


「せっかくの申し出なのですが、帰路のことを考えると早めにここを発とうかと思いまして。」


「え、まだ昼過ぎですよ?」


「ふふ、我々魔族は光魔法等の魔除けが使えないので魔物に襲われやすいのです、夕方までに出れば領地まで一晩過ごせば行けます。」


「ひ、一晩ですか、とても速いですね。」


「3人少数ですし、魔族は頑丈ですので。」


シルマはそう言うと腕を曲げて力こぶを作って見せた。


モコっと盛り上がった上腕二頭筋は、誰が見ても事務仕事では付かない盛り上がりを見せた。


「これはたのもしいですな!!分かりましたお見送りさせてください。」



◇     ◇     ◇     ◇ 



「本日は本当にありがとうございました。」


シルマ達は深々と頭を下げて感謝の言葉をを述べた。


「いえいえ、お礼を言いうのはこちらです、まだまだ未発展のアケラ村にこの様に縁を作ってくださった事に感謝いたします。」


御者の2人の魔族も荷物を積み終わり出発の準備を終えていた。

空を飛べる方は上空から偵察しながら帰路に着くらしい。


「ではまた暖かくなってきた頃に来ますね、その時にお返事を聞ければと思います。」


今は冬に向かっている状態だが、越冬できる程の食料はあるとの事なので貿易の開始は春に行いたいと話合った。


まだ決まったわけでは無いが、ダロランは心のどこかでアケラを信頼していた。

まだ1日2日しか交流が無いが、きっとこの貿易は彼女なら断らないと思っていた。


「えぇ、期待していて下さい。」


シルマはその言葉にニコリと微笑むと馬車に乗り込む。


「アケラ村の皆様、ありがとうございました!

では、また。」


馬車はゆっくりと走り出した。


見送りをしたダロランとリガは馬車が北の魔王領へ続く森へ入っていくのを見守った。


「...結構飛ばしますね、あれじゃあお尻割れますよ。」


「君、オンとオフの差が激しいね。」


「そうですか?」


こうしてシルマ御一行のアケラ村での会談は無事終わりを迎えた。




◇     ◇     ◇     ◇



同時刻


「リガ~、今いいか?」


アケラ村ギルド事務室、そこに現れたのはシスターラシ。


「あ、ラシさん、リガさんなら先ほど会議が終わったと聞いたのでもうそろそろ帰ってこられるかと...。」


「やぁミリア嬢、じゃあここで待たせてもらってもいい?」


「どうぞどうぞ!ラシさんは最近どうですか?」


ミリアは新しく来た依頼書の制作の手を止め、サボる体制に入った。


「あれ?、良いのかな~ギルド職員さんがサボっちゃって。」


「良いんですよ!どうせやることないし、依頼書は全部村のお手伝い的な物、またはアケラ村から野営地までの護衛とかですし。」


「ははっ、そっか…もうお客さんは帰ったの?」


「はい、もう帰られたと思います。」


「ふーん、どんな魔族だった?」


「今回はダロランさんとリガさんのみで会談して様子見と聞いていましたので、私は姿は見てないですね...」


「まぁ、そりゃそうか。

領主のアケラさんが不在なんだからまずは様子見だよね。」


と、そこで事務室の扉が開いた。


「ではまた後ほど...はい、お疲れ様でした。」


入室してきたのはリガ、見送りが終わりダロランとともに帰ってきたのだ。


「む、ラシか。」


「お疲れ様、報告があるんだけど…後にしようか?」


「そうだな、今回のを整理したいから夜、ギルドマスターと一緒に聞こう。」


「了解、ではまた夜にくるね、じゃあミリアちゃんも頑張って!」

「はい!ラシさんもお疲れ様です!!」


ラシの仕事、いわゆる裏社会のシスター業についてはギルド職員全員が把握している。

知らないのは村人などの一般市民だ。

一般市民からの教会のイメージは

・魔族嫌い

・孤児などの保護

・文字の読み書きなどを教えてくれる(お布施が必要)

など良いイメージが多い。


特にラシの様な地元民だと皆からの信頼も厚いので、そう裏仕事がバレることはないだろう。


「…。」

ラシは教会へ帰る道中考え事をしていた。

それは今回のケンジの調査報告の内容についてだった。


(ケンジさん、彼はいったい何者なの?)


手に握られていた報告書には大きい文字でこう書かれていた



『正体不明』




◇     ◇     ◇     ◇



「では、ケンジ君と私は別行動しようか。」


ゴルド王国のギルドにて依頼書兼人材募集書を書き終わったころ、アケラに提案された。

手渡されたのは一枚の紙、それは買ってきて欲しい買い物リストだった。


「えっ!僕ここ初めてきたんですけど!!」


まだ異世界に来て1週間も経たないのにいわゆる『1人で買い物』をしろと言われたのだ。


「大丈夫大丈夫、ここから奥に見える大きい建物あるだろ?

あそこがアストログロブ大教会、シスター達の総本山だ、陽が沈む頃にあそこに集合しよう。

いいね?」


アケラの指の先にあったのは大教会の名前に相応しい大きな建物だった。


「あれが教会ですか...」


教会といえば真っ先にイメージするのがキリスト教などの教会の建造物を想像するが。


「随分と大きいですね。」


その建造物は日本の学校ほど大きく、シンプルな四角形の建物だった。


「孤児院と学校、修道院などが入っているからね、自然と大きくなる。」


学校とは言ってもしっかりとした学校ではなく、青空教室の様な身寄りのない子供に教える様な施設になっている。

孤児は戦争孤児もいれば他国からの難民などもいる。


ゴルド王国は周辺国では珍しく、他種族の移民、難民を受け入れているので「我が子だけでも。」と逃す親が多いらしい。


「周辺国は治安が悪いんですか?」


「少しね、ゴルド国の様に結界は無いし、国民も多くない。

故に、ゴルド王国は治安維持や魔物討伐の見返りとして貿易で食料品を確保しているのさ。」


(なるほど、武力の提供か…。)


「じゃあ、私は買い物と用事があるので、夕刻に!!」


「えっ、あ、はい!!」


いそいそと解散するアケラ。


「...、どうしようかな。」


悩んでいるところに急ぎ足でアケラが帰ってきた。


「ごめんごめん、これお金。

あと教会前の大通り1本道はマーケットだけど、横道や地下は上級者向けだから今回は大通りのみで買い物してね。じゃあ!!」


学生時代に使用していたナップザック程の革袋を受け取った。


「…せわしない人だな。」


とりあえず、夕方まで時間がまだあるのでナップザックを肩にかけてマーケットを探索することにした、マーケットは門をくぐる前にあった朝市よりも規模がでかく、なおかつ店舗型の店も多かった。


1階が店、2階が家になってる感じだ。


(この辺の人の営みは地球と変わらないんだな、異世界でも人間のすることは変わらないのか。)

まずケンジが立ち止まったのは八百屋、見たことあるような様々な野菜や果物が木箱に入れられ並べられている。


(ニンジンは漢方みたいな色と形だな、芋もそうだったがかなり原種よりだな…品種改良してないから仕方ないか)


木札に『にんじん』と書いてあるのが読めたので判別できたが恐らく道中見かけても気付けないだろう。

その『にんじん』は細く、色も白や茶色など鮮やかではない、ほぼ根っこである。


(原種か、知ってる野菜だといいけど知らない野菜だとわからんなぁ...)


あとは芋、キノコや薬草の様な葉物野菜が並べられている。


(キノコも怖いな、見た目で判断しにくいし。)


葉物野菜は聞いたことのないものばかりだったので、恐らく異世界野菜だろう。

束で並べられており、1束1Gとお安く売られていた。


(ふーん、どれも¥100か芋は2個で1Gか。)


アケラ村では5個で3Gなので王都のほうが少し安い。


(この芋は種芋にできるのかな?もし可能なら卸業者おろしぎょうしゃも見つけないとな)


ジャガイモは種をまくのではなく、皆の想像するジャガイモをそのまま植えると栽培可能だ。

なので1個の芋を半分に切り、切り口に灰をつけて水分をを減らして腐らないようにし植える。

そうすると1個の購入で2個植えることが可能で、良ければ5~6個は収穫できるだろう。


と、頭の中でシミュレーションしてみたが。


(そういえば、まだ農地見てないじゃん。

これじゃ栽培以前の問題だな、まずは土作りかな。)


というわけで八百屋を後にした。



◇     ◇     ◇     ◇



「はぁ、胃が痛い…。」


アケラはとある施設を訪れていた、中からは剣と剣が重なる音や息切れの音。

ここはゴルド王国騎士団訓練所、アケラの元職場である。


「お久しぶりです、アケラさん。」


門をくぐると門兵に声を掛けられた。


「久しぶり、皆は元気?」


「アケラさん、まだ辞めてからそんな時間経ってないですよ、皆やかましいくらいに元気です。

団長は留守ですが、副団長は自室におられますよ。」


「ありがとう。」


軽く会釈すると建物の奥へと進む。

建物というが会議室と団長室、副団長室、寝床、武具保管庫の建物だ。

その他のスペースがすべて訓練所となっている。


副団長室に行くまでの通路からは大きな中庭があり模擬戦が行われている。


「ほんの少し前まであそこで剣を振るっていたのにな...。」


少し寂しさを覚えながら通路を歩いているといつの間にか目的の部屋に着いていた。


「...はぁ。」


「ため息をつくな、入れ。」


(!!!)


扉の中から重い声が響く、正直副団長は苦手だ。

考えが読めないし、笑顔を見たことがない。


「失礼します。」


扉を開けると初老の男性が書類と睨めっこしていた。

彼は『ギルテンド・モーグ』ゴルド王国騎士団の副団長だ。


「北の領主殿が何ようかな?」


こちらを見ずに話しかける癖は相変わらずのようだ、この人はいつもそうだ、目を見て話す価値がないと判断した物事には別の作業をしながら会話を進める癖がある。


しかし話は理解しているし、的確な答えを返すので誰も文句を言えないのだ。

まあ、副団長なので意見を言えるのは団長くらいなのだが。


「正式な退職願と退職金をもらいに来ました、あと装備品の返却を。」


国王の命でドラゴンの件を公に出さない為にアケラを騎士団から退職させ、北の地に領主として着任させた。

その際に変な噂が立たぬ内にと急ぎで村に行ったので、剣や退職金など手続きがまだなのだ。


「そうか、剣は武具担当へ、退職金は今渡そう。」


モーグは引き出しから書類をを一式取り出しサインを求めた。


「...今回の件、実にご苦労だった。

君に落ち度はない、むしろ良く生き延びてくれた。

後は我々に任せてくれ。」


アケラはサインを書いていた手を止め顔を上げた、モーグと目が合う。


「え?」


「ドラゴンの襲撃、教会に依頼を出し黒幕を調べている。」


「黒幕って!!...やはりあれは人為的な...。」


「あくまで可能性の話だ、教会側の報告を待っている状態だ。

私個人の見解だと人為的な可能性が高いと思っている、何より騎士団への攻撃は国への攻撃と同じだ、特に領域内ではな。

なめられたままでは終わらん。」


(恐らく最後の一言が本音だろうな。)

「私に何かできることはありますでしょうか?」


「いや、君はもう騎士団員ではない、国王から授かった領主の管理に努めると良い。

もちろん進展があれば伝えよう、恐らく協会を通じて連絡するだろう。」


「…わかりました、ありがとうございます。」


アケラとて黒幕が居るならこの手で捕まえたい、亡くした同僚と左腕のお返しをしなければならない。

しかし、物事の大きさを知っている。

国王が直々に命令を出すほどの異常性と緊急性、領主という立場を承った以上好き勝手なことはできない。


ここは騎士団と教会からの報告を待つことにする。


「よし、退職届。

確かに受け取った、領主、頑張れよ。」


「ありがとうございます。」


机の上に置かれた布袋を受け取って部屋を後にした。


恐らく、アケラ史上最も長くモーグと目を合わせたひと時だった。


◇     ◇     ◇     ◇


「お待ちしておりました、どうぞこちらへ。」


武具保管庫の前につくと預り番の兵士が待っていた。

騎士団の武具を保管している倉庫だが、さらに奥には貴重品保管庫があり、そこは隊長以上でないと利用できない。

アケラは元隊長だったので貴重品を借りていたのだ、今は返却にきている。


剣や鎧が保管されている倉庫の中を歩いてゆき、大きな金属製の扉の前についた。


「ではお願いいたします。」


扉には水晶玉がはめ込まれており、そこに光魔法を当てることで鍵が開くのだ。

仕組みは不明だが、光に当たると縮む鉱石が使用されていて、水晶で光を増幅させて…

難しいことはよくわからないが、昔からゴルド国のみで使われている技術らしい。


因みに光魔法が使えるのは騎士団の副隊長、隊長、副団長、団長のみである。


「開いたよ。」


アケラが水晶に光を当てると扉から金属が擦るような音が聞こえて、やがて鳴りやんだ。


「ありがとうございます、では中へ。」


金属扉を開けて中に入り、貴重品を預ける。


・騎士の心「一時仮死状態になる天使ヨヴィの先輩が作ったペンダント、トクトクプロジェクトの効率化を狙った物?」


・騎士団の剣「頑丈が取り柄の両刃剣、隻腕のアケラにとっては重たくて扱いにくい。」


・騎士の証「ゴルド国の紋に剣がクロスしたデザインの証、飲食店の割引や宿の無料提供など様々なお得なサービスが受けられる。」


を返却した。


「はい、確かに。

けど珍しいですね、光の力をお持ちのまま退職される方なんて。」


「え?そう?」


「はい、あっ気分を悪くされたら申し訳ないんですが、騎士の心をお持ちの方は皆さま殉職された後に帰ってくるので...。」


「...徳を積んでて良かったな。」


「はい?」


「いやこっちの話!!ありがとうね、じゃあ行くよ。」


「はい、お勤めご苦労様でした。」


騎士の心を授かったときは「歴代の騎士の声が聞こえる」なんて説明を受けたが、実のところは仮死状態にしトクトクプロジェクトを効率よく利用してもらうアイテムだった。

天使ヨヴィによると光魔法の副作用で幻聴などが挙げられるらしいので、ドラゴンとの戦闘時のあの声は幻聴だろうとのことだ。


もしくは騎士の心にかかっていた魔法か何か…。


(難しいことはわからないし、また団長に出会う事があれば聞くか、副団長は絶対口固いからな…。)


剣術など戦いのことになれば団長の右に出る者はいないが、いささか直観的で動く人物なので副団長の様な物事を考えてから動く人物の補佐が必要なのだ。


「さてと、つぎは~?」

右腰にあるポーチからメモ用紙を取り出すと次の目的地を確認する。


「鍛冶屋か。」


ゴルド国の鍛冶屋はドワーフの里などに比べればまだまだだが、それはドワーフと比べての話である。

近隣国家の中ではかなり優秀な鍛冶技術を誇る、そして人や物も集まるので珍しいものが見つかるとして旅人からは人気だ。


(おっさんの店に久しぶりに行こうかな、片手でも振るえる剣を見繕ってもらおう。)


騎士団時代は多忙で、こうして個人的な買い物が出来る事がなかったのでアケラは内心ワクワクしていた。


のびのびしていられるのが今のうちとは知らずに。


同時刻、教会が提供するサービス、鳥による高速手紙配達で手紙が届いていた。

差出人はアケラ村ギルドマスター、ダロラン・ポート


ちょっとした緊急性があるときに使う黄色の封で届いた…。



一方ケンジは。



「ジャガイモ蒸かしただけで10Gはボッタくりすぎだろ!!!」



蒸かし芋屋の前で叫んでいた。



















少し遅くなりました!!

読んでいただきありがとうございます!!

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