会談
「この国で野菜の栽培が行われていないということですか?」
突如告げられた衝撃的な情報。
ゴルド王国では農業、つまり作物の生産をほとんど行っていないと言うのだ。
「いや!まったくと言うほどでは無いぞ!!一部では小麦などの生産をしている村もある!ただ国内のほとんどが輸入物ってだけで食い物がないわけではない。」
小麦はいくつかの小さな村が生産しているが、量は国民の人口に比べると雀の涙程度しかない。
「ど、どうしてですか?」
「どうしてだったかな…教会で習ったのは昔だからな…。
もし時間があれば教会に行って聞くのが良いと思う!」
投げやりである。
「戦前、農業などは盛んに行われていたらしいが今はもうほとんど輸入品だなぁ。」
(てことは、戦争の影響で栽培ができないか技術が失われたかだな…。)
「分かりました、すべきことを終えましたら教会を訪ねたいと思います。」
「そうだな、教会は様々な情報が集まるから何か知りたいときは教会に行くべきだな。」
「…無料ですか?」
「はははっ、分かってるな。その情報の重要度によるが金銭の場合もあるし、その他物品だったりもする。
その時にならないと分からないというのが答えかな。」
(情報かぁ、この世界のことなんてまったく分からないし、タブーだったりすると面倒だから迂闊に人には聞けない。
何でもかんでも教会に聞くのは怖いな、異世界人とバレるきっかけになりかねないな。)
「教会は国の南側にあるアルトログロブ様の像がある建物だ。
わかりやすいからすぐ見つかるさ、あとで私も用があるので行こう。」
「わかりました、まずはどこへ?」
「まずはギルドだね人材募集やその他、手続きをしなきゃならんな。」
◇ ◇ ◇ ◇
「ここが、ギルド...。」
ケンジたちが訪れたのはゴルド王国の総合ギルドだ、ギルドと言っても一括りにはできない。
冒険者、旅人、商人など様々なギルドがある、その総括がこの総合ギルドだ。
ちなみに総合ギルドはゴルド王国の他、一国につき一拠点設けられている。
「では中に入ろうか、人が多いから気をつけて。
話は基本私がするから君は見といてくれ、今後アケラ村のギルド員として仕事してもらうから参考にしてほしい。」
建物に入るとまずその広さに驚く、3階まで吹き抜けになっており1階は受付窓口や待合所になっていた。
2階は飲食スペースになっている、このギルドで一番騒がしいのは2階で飲食している冒険者達だろう。
3階は会議室やギルドマスター室らしく、基本的に冒険者は立ち入り禁止だ。
「広い!村のギルドの3倍以上はありますね。」
「だな、ゴルド国のギルド総括がこの建物だから全国土から冒険者が必ず1度は訪れる場所だろうな。」
日本でいう市役所のような役割も持っているらしいので冒険者以外にも一般市民の姿も見られる、彼らは窓口で依頼書の発行など様々な手続きを行っていた。
「これ、持っていてくれ。」
アケラから渡されたのは木札、数字が書いてあり(29)と読めた。
前世で見た数字に近い形だが別の文字だった。
恐らく転生スキルとやらで読めるのだろう、便利なものだ。
「番号札ですか?」
「そう、呼ばれると思うからここで待っていてくれ。
私は知り合いにあいさつ回りしてくるから!呼ばれたら職員に私を呼ばせてくれ、すぐもどる。」
そう言うとアケラは二階へと上がっていった。
「ええっ…。」
(右も左も分からないのに一人にされるとは....なんか酒場とかギルドとか変に絡まれたりするイメージが強いんだけど…。)
あたりには窓口順番待ちの人の他に、黒板ほどのサイズの掲示板の前に集まる冒険者達。
ギルドの端の方には依頼や道具など様々な情報を交換しているのが見られる。
(異世界で不安しかなかったが、今のところ話も通じる。
前世で初めて海外に行った時より楽かもな、魔法を見た時は驚いたけど。)
辺りを見渡しながら番号が呼ばれるまで待機できる場所を探す。
1階にあるテーブルは全て埋まっており、2階は騒がしいので恐らく満席。
やむなく窓口横の長椅子に腰掛ける。
「お?本があるじゃん。【冒険者ギルドガイド】か、ギルドの備品っぽいな。」
長椅子の前には棚があり、中には本が数冊と冊子が並んであった。
(おぉ読める...便利なスキルだな。
そういえばアケラさんも一応転生?生き返り?だからヨヴィさんにスキル貰ってるはずだよな。
なんのスキルだろうか?)
そんな事をぼんやり考えながら本を読み進める。
(ふむふむ、市民→ギルド→冒険者の流れで依頼が来るのか、ギルドが依頼料の10%を引いて差額が冒険者に支払われると...10%はでかいなぁ。)
本にはギルドに登録する際の注意点やルールなどが記載されていた。
おそらく新人冒険者が閲覧するための本だろう。
(階級的なのもあるな、鉄、銅、銀、金の4段階か、これまたわかりやすいシステムだな。
でも強さが全てじゃないのか。)
本には冒険者階級は4段階評価に見えるが、細かくは違う。
討伐、護衛、採取、その他などのジャンルがあり、依頼件数や依頼者評価、風評などを全て含めての4金属評価とされる。
故に討伐の依頼の場合は、『討伐を得意とする銅冒険者』と『採取を得意とする銀冒険者』だと前者の銅冒険者の方が適してると判断される。
(なるほどな、適材適所の良いシステムだな。)
「28番の方〜どうぞ〜。」
「ん、次か。」
本を読んでいると呼び出しが次に迫っていた。
本の内容は細かい冒険者ギルド規約だったのでケンジは関係ないと思い本を元の棚に戻した。
「おまたせ、そろそろ呼ばれるかい?」
「そうですね次呼ばれると思います。」
アケラがちょうどそのタイミングで帰ってきた。
「2階でなにを?」
「ん?いやちょっと知り合いに会いに行ってね、村の移住案内のススメをね。」
「なるほど、村への勧誘…。」
「29番の方~!」
ちょうど職員の呼び出しがあった。
「よし、行こうか。」
ギルドへ来た目的は主に人員募集と資材の確保だ。
人材は依頼として出し、資材は購入する。
「本日はどのようなご用件ですか?」
ゴルド王国の総合ギルドの職員制服はアケラ村の黒と緑の落ち着いたスーツとは違い、ワインレッドの様な濃い赤のスーツだ。
胸には金のギルドバッジが付いている。
「依頼を出したい。」
「承りました、何か所属などはありますか?」
「北部の村だ。」
アケラは一枚の紙を取り出した。
『開拓許可証』
それは村の開拓と管理を国王から命じられた事を証明する書だった。
「失礼します、確認します。」
(依頼を出す際は身分がわかる物か、ギルド所属である必要があるんだったな...)
「...ありがとうございます、ようこそおいでくださいました、アケラ様。
宜しければお部屋にご案内致しますが?」
「いや、ここで良いよ。
依頼内容は中規模人材募集でお願いする。」
「承りました、では依頼分詳細をお願いします。」
「了解っ。」
アケラは募集文を書き始めた...
◇ ◇ ◇ ◇
同刻、アケラ村。
「よし、大体準備できたな。」
リガは魔王国からの客人を迎えるべく準備をしていた。
「リガ君ご苦労様、応接間はこんなかんじで良いだろうね。
あとは来るのを待とうか...しかし魔王国の貿易担当か、どの様な人物だと思う?」
領主着任直後にアケラ村ギルドに届いた手紙。
内容は魔王国のシルマと名乗る人物からの会談要望だった。
「とりあえずは友好的でしょう、わざわざ事前に手紙を送ってきたので。
それよりも何人で来るのかが問題です。」
「人数か、リガ君はたしか元冒険者だよね?
シルマっていう魔族の名前に聞き覚えは?」
「ん~、心当たりがないですねえ。
手配書などが出ていれば覚えているはずですし、まあ私が冒険者っだったの2年前ですからね。」
「分かった、ありがとう。
魔族ってだけで警戒しすぎかもな。」
「しかし大多数のゴルド国の住民は魔族に対して恐怖心を持っているのは事実、未だにトラブルは避けられない事が多いです。」
「…では私の仕事は平和的に会談を終わらせることだな、あと願わくばより良い関係を築けたら100点だな。」
「私もお手伝いいたしますよ、一応、アケラ村事務長として。」
「うむ、では私は領主代理として頑張るか。」
こうして二人は応接間を後にした。
もうすぐ約束の時間になろうとしていた、そんな中バーカウンタではジギが料理を振舞っていた。
その料理を頬張っていた職員、ミリア・モートンは緊張していた。
「ミリア、ここに居たか。」
「あっ、リガさん。」
ミリアは少し早めの昼食を取ろうとしていた、客人の話は伝わっていたがミリア自体は出会うことはない。
リガの指示で今回は待機になっている。
「リガさんもお昼を?」
「あぁ、だいぶ早いが食うだけ食っとこうと思ってな。」
リガはバーテンダー兼調理師のジギが作った大鳥のサンドイッチを手に持っていた。
「大鳥好きですよね。」
「まぁな、そう言う君は森エルフ並みに野菜を食うな。」
「えへへ、レタスが好きなんです。」
「そうか、そろそろ寒くなるから葉物野菜の収量が減るな、うちの農業担当は何か対策をしてくれるのだろうか?」
「もし育てるなら私は葉物野菜中心がいいです!!」
「なら私は芋かな、肉と相性がいいのが芋だ。」
「私とは正反対ですね。」
そんなこんなで雑談をしながら昼飯を終え、いよいよ約束の時間の正午になる頃だった
「よし、では私は出迎えの準備を…。」
「はい、では私は事務に戻りますね。
今日は冒険者さんも来ないように看板出しましたから溜まった仕事出来ますね!」
「ああ、特に農地利用と越冬資材管理の書類をよろしくな。」
「はい、おまかせを。」
ミリアはまだ職員歴が1年しかないが、それでも立派にギルドの受付をこなしていた。
しかし今回の様な隣国の客人、それも魔族となると荷が重すぎる。
自分のできる仕事の範囲をよく理解しているミリアはおとなしく窓口の奥に戻るのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「さて、そろそろ来るか…。」
リガはギルド正面玄関前で魔王国の使者の到着を待っていた。
村の入り口で待つのもよかったが、魔族の場合空を飛べる種族もいるので村の入り口を通る保証は無い。
ギルド前なら確実なので、あえてギルド前で待機することにした。
「魔族か…。」
リガの種族、【ダークエルフ】は魔王国に従軍していた過去がある。
戦闘兵として従軍したものや、偵察などといったサポート面でも活躍していた。
だがそれは一部のダークエルフのことである、実際リガ自身は魔王軍に所属していた事はない。
リガ達ダークエルフは見た目の特徴がとても分かりやすい種族である、山岳地方の険しい岩場で狩りをし生きる種族なのでその肌の色は擬態のため灰色で、耳は獲物の音を逃さない為大きく尖っている。
リガは濃い灰色なので遠目でもダークエルフだと分かるだろう。
戦後数年たった今は少し落ち着いてきたが未だにダークエルフが人族の国で過ごすのは周りの目が気になるのだ。
リガがアケラ村で仕事をしているのはそんな事情がある、ゴルド王国は差別をなくすように働きかけているが、まだ時間がかかりそうなのだ。
それほどに戦争は人々に消えぬ傷を残していった。
「しかしなんでこんな田舎の村なんだろうか?魔王国なら首都に交渉を持ち掛けても掛け合ってくれそうだが…。」
そんな事をぼんやり考えていると一台の馬車が村の入り口を通りこちらに向かってくるのが見えた。
魔王国からの貿易担当者の馬車なのだから豪華な馬車かと思えば、実にシンプルな馬車だった。
魔王国の所有物を表す旗が無ければ分からなかっただろう。
目の前で馬車が止まった、手綱を握っていた御者が馬車を降り、扉の前に立つ。
御者が扉を開けると中から一人の魔族の女性が降りてきた。
「っ!」
リガが驚きの声を上げかけたのも無理はない、まず目に入った情報はその身長。
リガ自身は背が高いことは認めていて、約182cm程の高さになる。
だが今しがた馬車から降りてきた女性はリガが少し見上げる程だった。
恐らく210cmはあるだろう。
シンプルだが丁寧に細かい刺繡の施されたドレスを身にまとい身分の高さが分かる
「…ようこそお越し下さいました、リガ・アルヘオと申します。
本日は宜しくお願い致します。」
冒険者時代に2m越えの人物に出会ったこともあったので平常心を保てた。
ミリア嬢なら叫んでいただろう。
「初めまして、急な申し出にも関わらずこのような場を設けていただき誠にありがとうございます。
私、魔王国貿易担当官のシルマと申します。
この度の会談では両方にとっても良いお話ができるように努めてまいりますのでよろしくお願いいたします。」
なんとも丁寧なお辞儀をするとシルマはにこりと微笑んだ。
薄白い肌に、おでこの2本の角、優しそうなたれ目。
リガが捉えた第一印象は良い物だった。
「こちらこそこの様な何も整っていない村にわざわざ御足労いただき誠に感謝致します。
では案内させて頂きます。」
付き人は馬車の御者と荷物持ちの二人、その二人も角が生えていたり翼が生えていたりで魔族とハッキリと分かる。
彼らは馬車に残るらしい。
今回、ギルド内部は事前に人払いしているのでギルド内には冒険者や村人は居ない。
そもそも冒険者は1日5〜6人が利用する程度だ、さらに村人なんてほとんど来ない。
「なかなか良いギルドですね、趣のある内装です。」
「この村の建造物はすべて戦前の物ですから、ヴィンテージものですよ。」
実際リガはこのギルドを気に入っている、あまり資料は残ってなかったが恐らくドワーフなどが建設に携わっているらしい。
「へぇ、それはなんとも…。」
シルマはあたりを見渡しながら興味深そうにつぶやいた。
ギルド内を一通り案内した後、応接間の前に着いた。
コンコンコンコン
「ギルドマスター、失礼いたします。
魔王国からの客人をお連れいたしました。」
「どうぞ。」
いよいよアケラ村の今後を決める重要な会談が始まろうとしていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「魔王国貿易担当、シルマと申します。
この度はこのような会談の場を設けていただき誠にありがとうございます。」
シルマはソファーに腰掛けお辞儀をした、座っていても直立しているダロランとそこまで目線が変わらない。
「いえいえ、わざわざお越しいただきましてありがとうございます。」
ダロランとリガも腰を掛ける。
今室内にいるのはシルマ、ダロランそしてリガの3人だ。
「では、早速お話させて頂きます。」
優しそうなたれ目が一瞬で真剣なまなざしになった。
「…もう私の役職を聞いてお分かりかもしれませんが、食料等の貿易をしたく思います。」
「ふむ、やはりそうですか、詳細をお聞きしても?」
「はい、まずは現在の魔王国領地南部の現状についてお話させていただきます。」
シルマは現在の魔王国について語り始めた。
魔王国領地はアケラ村からさらに北、馬車を3時間ほど走らせると国境だ。
魔王国領地とは言うものの、実際には北の地の全てが魔王の所有地では無い。
戦後数年はその地の大半を魔王が支配していたが、今や魔王幹部らから独立した者も多く、細かい国の集まりの様な曖昧な国になっている。
そんななか、アケラ村から一番近い魔王国領地の領主を任された魔王国幹部のシルマはなんとか土地を増やし、かつての魔王国を復活させたいと思っている。
「まって下さい、領地拡大?戦争をやるようなものじゃないですか?」
リガが話を遮る。
「いえ!私が増やしたいのは元魔王領地、主に農地です!
今、現在の我が領民は当時の半数...いえもっと少ない、その者たちを食わしていける食料があと1〜2年の内に無くなると思われています。」
そう、魔王国領地は栽培に適した土地では無かったのだ。
そもそも魔族自体が食事を必要とする者が少ないのもあり、農作に対する意欲や関心が無い。
さらに貿易で食料を輸入したいが、大陸の農作物生産率の8割を占めるエルフの国とはまだ同盟を結べていない。
戦争で出来た深い溝はまだ埋まってないのだ。
「つまりは食料を分けて欲しいとの事ですな?それも貿易という形で末長く、両者にとって良い方法だとは思います。」
ダロランは顎髭を撫でながらこう続けた。
「しかし我々アケラ村も本国から食料を購入している身、一応今後農地を拡大する予定ですが1〜2年で間に合うか保証は出来ませぬ。」
ダロランは知っていた、農業の難しさを。
現在アケラ村周辺には5ha(5ヘクタール、50,000㎡)の農地がある。
が、それら全て長年、人の手が入らなかった放置された農地であり、とてもすぐ農作物が作れるような土地では無かった。
「そこは承知の上でお願い致します、1〜2年はあくまでも備蓄された食料の量から計算したものです。
その後足りない分はゴルド国から買おうと思います。」
「ゴルド国から定期的に購入してはダメなのですか?」
リガはふとした疑問を口に出した。
一理ある、現在魔王国の友好国はゴルド王国。
その他の代表的な国とはまだ友好的な関係を築けていない。
「ええ、その案ももちろんありました。
しかしゴルド国の貿易担当の者に話をすると、『メリットがない。』で終わってしまうのです」
そう、貿易とはいわば交換、魔王国側は食料を求めるがゴルド国側も求めるものは食料。
成り立たないのだ。
ゴルド国は広い領土を所有するので資源は豊富である、しかし逆に魔王国側は今や魔王が管理できる資源はわずかなものだった。
「故に国同士の貿易は断念、輸送コストなども含めますと、まずはこのアケラ村からご協力をお願いしたく…。」
ダロランは悩む、権限としては今可決することも可能だ。
しかし肝心の農作物を育てられる者、ケンジが居ない。
今現在シスター・ラシにケンジの情報を集めてもらっている、その結果次第では彼のこの村での扱いは大きく変わる。
かといって、シルマに『最近青年のスパイを送りました?』と聞けるはずもなく泳がす事にしているのだ。
もちろんリガとダロラン、ラシしか知らない情報だ。
ケンジがどちら側の人間、もしくはどこの人間なのか?
そもそも人間なのか?
この事はケンジ以外のギルド職員が認知しており、アケラにはまだ話せていない。
結果が出次第報告するつもりだ。
隣に座っているリガとアイコンタクトを交わし、口を開く。
「分かりました、前向きに検証いたしましょう。
今は領主当人と農業担当の物が不在ですので後日、早急に決めさせて頂きます。」
「ありがとうございますっ。」
意外なことに今まで真剣な眼差しで話をしていたシルマが、声を震わせながら深く頭を下げたのだ。
シルマはこれまでいろんな村に足を運んだ、時には魔族というだけでひどく冷たい扱いを受けた。
彼女の持つ領土はそこまで広大ではない、しかしそれでも腹をすかしている領民がいる。
ダロランの前向きな言葉に少し肩の荷が下りてほっとしたのだ。
あと少しで泣いてしまうところだった。
「頭を上げてください、我々もいずれはこの村を大きく成長させたい。
それに、ゴルド国と魔王国は今や友好国、まだこれと言った国家行事を行えてないのでこれから、ここから始めてゆきましょう。」
「はい、本当にありがとうございます。」
とりあえずは貿易の話は無事平和的に終わりを迎えた。
◇ ◇ ◇ ◇
しばらくして、3人の目の前には書類の山が築かれていた。
さらに追加で魔王国からきたシルマの付き人と御者も共に会談をすることにした。
ギルド外に待機させていたら、噂を聞いた人で人だかりが出来てしまっていたからだ。
シルマ曰くこの2人の魔族は彼女の補佐と使用人なので口は硬く、なおかつシルマの領地などの管理の手伝いをしているのでむしろ今後話すことを聞いて欲しいとの要望もあった。
「彼らは私の優秀な部下でね、1人は空を飛べるので今後の伝達や小物運搬をまかそうかと思う。」
「よろしくお願い致します。」
礼をした彼は大きな鳥の翼を持つ青年魔族。
翼さえ無ければ人と見間違えるだろう、実際魔族とは人が魔王の力により姿を変えた者と言い伝えられている、真偽は不明だが一般的にはそう信じられている。
「空を飛べるのですか、どれほどのスピードで?」
「ここから領地まで1時間程で。」
「「!?」」
リガどダロランが顔を見合わせる、1時間とは驚異的な時間だ。
これまでの運搬や伝達が覆る速度になる。
「ですが、これは上空まで上手く気流に乗り、その後滑空する形での速度です。
荷物の安全性やその他抵抗を考えて、滑空をせずにだと2時間程と思って頂けますと。」
「な、なるほど。
それでも、とてつもない早さである事には変わりませんね。」
「そう言って頂けて嬉しいです、そしてもう1人の彼は角ぐらいしか人間との違いはありませんが、特筆すべき能力は…してもらったほうが良いですね。」
「では、失礼いたします…。」
⦅⦅私の能力は【念話】です。⦆⦆
「「!!??」」
またもや驚き顔を見合わせる。
脳内に直接青年の声が聞こえたのだ。
⦅⦅この声はお二人にしか聞こえません、因みに同時にお話しできるのは最大4人ですので、遠く離れた方との会議などもできますよ。⦆⦆
「これは、すごい…魔族の方は皆さん何かしらの能力を?」
「いえ、これは彼だけの能力なのです。
この力を手に入れた経緯は魔王様とのだけの秘密だそうで、私も知らないのですが…。」
「はい、申し訳ありません、そのことだけは魔王様との絶対のお約束ですので。」
「いえいえお気になさらず、このような素晴らしい能力を秘密にするのが普通でしょう。
我々も他言厳禁にします。」
「私も誓います!このような能力は、使い方次第では国の今後を左右するかもしれない。」
この能力さえあれば遠方に待機させた軍や兵に指示も出せるし、偵察の情報伝達も異次元の速さで届く
。
使いようによってはシスター・ラシが喉から手が出るほど欲しがるだろう。
「ありがとうございます、実を言うと少し不安だったんです。
ですが、あなた方が良い人たちで良かった。」
ダロランたちからすると、ほぼ国家機密並みの情報を、出会って間もないのにぶち込まれるのは肝が冷えるので勘弁してほしい。
しかしこのような情報も明かしてくれたシルマ達への信頼度はかなり上がった。
今回の会談、実に有意義なものになると確信したダロランだった。
読んでくださりありがとうございます!!
今回は少しだけ長くなりました、今後も月1回の更新を目指して頑張ります。
あと誤字訂正のご指摘、誠にありがとうございます。
今後も最終確認して投稿を心がけますが、もし疑似脱字がございましたら、何卒ご了承のほどよろしくお願いいたします。