転生先が『 残機:ゼロ 』の世界なんですけど?! [エピローグ]
横シューは、後々発展したビデオゲームとは比較にならないほどチープな世界。目的も教えられないまま、説明もそこそこに出撃、前向きどころか右に進むだけ、それこそプレイヤーは雑魚でしかなかった。
ところが、実際に自分視点で体験してみたら……どうだ。
■ 転生先が『 残機:ゼロ 』の世界なんですけど?! [ 1面 ]
■ 転生先が『 残機:ゼロ 』の世界なんですけど?! [ 2面 ]
■ 転生先が『 残機:ゼロ 』の世界なんですけど?! [ 最終面 ]
□ 転生先が『 残機:ゼロ 』の世界なんですけど?! [ エピローグ ]
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目の前に、アニメっぽい風貌の美少女。
またもや死後の世界で、神様に再会だ。
雑魚なんてもんじゃない。命が幾つあっても、足りない。
「ひでぇ目に遭った……」
『 申し訳ありません 』
鼓膜を震わせる、声。
そして、小さな溜息。
初めて耳にする、女神の溜息だった。
瞼を閉じて、深く深く息を吸い込んでいく。
沁み込むように、すっと腑に落ちていった。
『 管轄外からの干渉に、可能な範囲で対応したのです 』
「生命の循環、輪廻転生はできる。神様は万能じゃないってことか」
『 そのとおりです 』
「横シューとピッタリ同じ、いくらなんでも無理がある。プレイ経験のある奴を、齟齬が出ない程度に記憶をいじって転生させた。 ……そうだろ?」
『 そのとおりです 』
「彼を知り己を知れば百戦殆からず。この方法を無限に繰り返せば、いつか初見でノーミスクリアを達成する勇者も現れるだろう。 ……けどなぁ」
女神様は辛気臭い顔で俯いた。
これをループするほど、メンタルが強いタイプには見えない。
『 神様なんて色々で、私は転生をつかさどる、つまりデスクワークなんですよ。座視するに忍びない世界を救済しようと奮闘したけれど、この体たらくです 』
「デスクワークは座視するお仕事だろ」
『 すみません 』
開幕と共に一掃された僚機、パイロットには転生者が多く含まれていただろう。数多くの戦力を失ったが、結果的に作戦は成功し、犠牲者はゼロ。
こうした輪廻のなかに、彼らもいた。
それでも、割り切れない思いが残る。
「で、どこまでできる?」
『 ……え? 』
「横シューは死んだらオシマイ。卑怯な武器、姑息な手段、連射装置でもなんでも使えるモノなら使い倒して敵を蹂躙し殲滅して突破する、それが横シューの世界。次は生き残る、今度こそノーミスクリアしてやるッ!!」
『 次、ですか 』
「コンティニューしたい。 ……転生を希望する」
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考えてみれば至極簡単だった、たいした知識もないのに世界の命運を握ったり、碌な身体能力もないのに女の子のおっぱいを握ったり、都合良く、物語の主人公になれるわけもなかった。
周囲を見回す。
この人数を詰め込むには、狭い空間だ。
十把ひとからげの、ひとりに過ぎない。
得てして「自分だけ特別」なんてものは幻想。
なんのことはない、ミミズやカエルも転生者。
かろうじて今度も人間なのは良かった。
それでも、それなりに、ガッカリした。
「おい、神様よォ」
「その呼び方、やめてください」
「だって、神だろ」
「神と書いて、かなえです。で、なんですか」
「宇宙人を撃退しに行くから付き合ってくれ」
「またぁ?! インベーダーゲームばっかり」
後ろの席に座っていたクラスメイトの女子。
神 祈織は盛大に眉をしかめた。
容姿端麗、利口発明、そして……
声が、綺麗だ。
「勉強ぐらいしたらどうですか」
「やってるよ?」
「ど~こ~が!」
「かなえさ~ん」
「うるさいなぁ」
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「ああ……夢、か?」
椅子に座ったままの姿勢で、目が覚めた。
居眠りしていたのか、懐かしい夢だった。
平和な学生時代を過ごしていた。
随分、歳をとってしまった……
オレには前世の記憶が2つある。
一度目は、敵基地の崩壊に巻き込まれ、脱出できずに終わった。
二度目は逆行転生、ビデオゲームが普及する以前の時代に来た。
オレが作った陳腐な横シューは、パソコンマニア向けの雑誌投稿から始まって、誰も目にしたことがない画期的なパワーアップシステムに子供達が熱中し、急速に進化していく家庭用ゲーム機に対応しながら完成度を増していって、会社の代名詞と言われるほどの看板タイトルに成長した。
つまり、歴史を改竄したのだ。
かくして、宇宙人の攻撃は始まった。
真実を触れ回ったところで無意味だ。
陰謀論者と片付けられるのが関の山。
変異を繰り返すウイルス、モグラ叩きのイタチごっこ。
人類は9%まで激減し、絶滅危惧種となってしまった。
「そろそろ時間だな?」
リモコンのスイッチを押した。
テレビでは、地球の偉いさんが宇宙人と握手している。
あの新薬で、生物兵器が無毒化できる。
自作自演と見抜けない、貧弱な想像力。
「幻想に縋る、軽率な指導者め。 ……人類、オワタ」
奴等は侵攻作戦の第一段階を終了した。
こちらも11年前にリリースしたソフトで下準備を済ませてある。高度なAIで予定調和を崩しながら侵略してくる宇宙人の兵器を、地球側の抵抗勢力が戦闘機で迎え撃つ。敵の拠点を破壊しながら中枢へ乗り込み殲滅する、多人数同時参加型のフライトシミュレーターに進化させた。
半年後、最新アップデートで敵の形状も同じになる。
背後で、ドアの開く音がした。
「よろしいですか」
「ああ」
「社長、パイロット候補のリストです」
「助かるよ、祈織」
祈織は協力して積み上げてきたブ厚いファイルの重さに瞳を潤ませて、深く息を吸い込んでから、1ページずつ感慨深げに確認しはじめた。
これはランキング上位者リスト。
世界中から募ったレジスタンス。
簡易な物理計算で空気抵抗をシミュレートした操作障害と、激しい攻撃が特徴の「ハードモード」の先、ライフ制まで取り払った裏面「クラシック」を突破した、いずれ劣らぬ精鋭揃いだ。
不意に、その手が止まった。
「それと、先日墜落した強襲機の回収に成功しました」
「そうか! これで機体の開発も、飛躍的に前進する」
安堵と期待に、大きく吸い込んだ空気。
すぐに無力感で、溜息となって漏れた。
「ここから先、俺たちはフォローすらできないんだな」
「それなんですが。 ……とんでもないオマケ付きで」
鼻高々に渡されたタブレットに表示されている画像。
祈織は「わかります?」と、いたずらっぽく笑った。
奇妙な機械、これがなにか、そこまではわからない。
とんでもないオマケ?
「まさか……これは」
「空間転移装置かと」
「 空 間 転 移 装 置 」
「複製するには特殊な素材で、技術的にも難しいそうです。けれど、半年もあれば指定座標へ対象を転送できるそうです」
「博士が?」
「可能だと」
ノンアポで「研究費を都合しろ」と訪れた、若い男。
まだ髪の毛はフサフサだが、顔かたちは博士だった。
持参したプロジェクトは、既存の機体を宇宙で運用するための改造プラン、そのフォルムに息を呑んだ。2P自機、右城の搭乗していた機体そのものだった。彼は不可能を可能にする、ただの好奇心だとしても。
地球には無い恒星間航行技術。
意外に小さい、存在を知らなければ気付けなかった。
これがあれば、なにが変わる?
電磁式マスドライバーを使わず防空識別圏の奥深く、安全圏へ直接投入できる。前回とは桁違いの戦力を宇宙へ転送することができる、この差は大きい!
「これは心強い。早速、博士に予算の見積もりを――
……いいや、違う。
複製・量産はできない。
だから転移に使えない。
1機ずつ転送するだけ。
つまり奇襲にならない。
指定座標へ、転送。
なにを、転送する?
そう、例えば……
ハッとして、振り向いた。
看板商品のPRに博士が作った、実物大の機体。
複座型の宇宙用試作機で、中身も入っている。
「残 機 を 転 送 で き る ッ !!」
祈 織 が 、 大 き く 頷 く !!
そんな方法が? ……これを探していたのか。
とてつもなく大きな安全マージン、片道切符じゃなくなった。がむしゃらに前に進むミッションではなくなる。パイロット候補者リストが、そのまま生還者になる可能性すらある。思わず口を突いて出た。
「地球の命運は君達にかかっている。健闘を、祈る」
「長い……長い道のりでした」
「苦労をかけた」
「こちらこそ!」
弾むような明るい声。
いつでも不安を打ち払ってくれた。
オレは前だけ向いて進んでこれた。
と。
そそくさと荷物を畳み始めた。
報告は以上、ということか……
「かなえさん!」
「まだなにか?」
「最後に」
「はい?」
「最後に、少しだけ。 いいか?」
神祈織とは長い付き合いになった。
手を触れることすらできなかった。
しかし、最大の理解者でもあった。
「あのとき、最後の場面」
「あのとき……ですか?」
「前世での最後だ、右城」
やや驚いた表情、そして、居住まいを正した。
すでに前世で経験した、これから訪れる未来。
お互いに避けてきた話題だった。
「オレのテクニックじゃ、通用しなかった」
「ラスボスは見事に倒したじゃないですか」
最終面はパターンが違いすぎた。
右城のバックアップで攻略ルートを開拓しながら坑道を進み、見馴れぬ敵の攻撃から回避するので精一杯。最深部へ到達して、ラスボスの反撃を懸命にしのいで、闇雲に撃ち込んでいた武装のどれかが装甲の薄い部分を破壊、なんとか倒すことができた。
感傷に浸る間も与えず敵基地が崩壊を始める。
崩落してくる瓦礫を、追い縋る爆風を避けつつ、狭い通路を一気に駆け抜けた。知識としては知っている展開だったが、有視界飛行ができないほど視程が悪くなるとは知らなかった。レーダーやソナーから得られる情報を頼りに避け続けるには、精神的に疲労しすぎていた。
最後まで集中力が保てなかった。
あと一歩、というところで、巨大な鉄塊に衝突。
脱出すら叶わず、初見では、抜けられなかった。
ノーミスクリアは、露と消えた。
残機、ゼロだった。
慙愧の念に駆られて転生を選択し、ここへ来た。
二度目の転生で女神に希望した、ただ1つの条件。
それは鼓膜を振動させる右城の声。
右城と協力して、共に歩む人生だ。
死後の世界で神様は、諦めたような困り顔で説明したのだ。
右城の身体を借りていた。
本来なら人工肺が間に合わずに早逝した少女だったという。
娘の命を救うために、博士は最後の賭けに出た、あの作戦。
猛反対したが、他人任せにできないと言う娘に渋々折れた。
その中身が娘ではないと気付いていたように感じたそうだ。
そして「了解です、一緒に行きましょう」と、苦笑いした。
指定先は、この時代。
ビデオゲーム黎明期。
「神様を連れ出しての逆行転生。幾つルールを破って、どれほど迷惑をかけているのかすら把握してない。 ……神のみぞ知る、というものなのかもしれない。ただ一緒に居たかった。ただの我が儘なんだ」
「破った規則は1つだけですよ。昔のゲームとそっくりな敵だった、この人ならと目星をつけて転生先を書き換えたんです。二度目は、そちらのお誘いでした」
「ゲームと、そっくり?」
「はい」
「似てただけ……」
「ええ、よく似てました」
「 た だ の 偶 然 ?! 」
「巨大な戦闘生命体に、躊躇せず飛び込んで行った。まるで英雄譚のようでした。私の目に狂いは無かった、そう思いました。何度でも挑めたのに攻略できる人材の発掘を優先した二度目の転生、貴方は正しい選択をしました」
転生先を書き換えた。
それだけだったのか。
「顔見知りの神様は、出来もしないクセに人類を救済したいと泣きっ面で言った。最終面のサポートは見事だった。デスクワークのなにが悪い、向き不向きの問題。現場ではなく裏方でこそ能力を発揮する、だからオレはここを指定し連れ出した」
「私のため」
「神様でも神祈織でもない。これは、あの日の続きだ」
「……はい」
「今度こそ地球を守ろう。 ……右城に期待している」
「はいっ!」
二度目の人生も、物語の主人公にはなれなかった。
自分でも滑稽なほど震える手を、差し出していく。
「右城」
「はい?」
「今回も、英雄にはなれない……それでも良ければ」
「なんて大それたことを、神様を狙ってたなんて!」
「テンカセ、できてたか?」
「ええ、もちろんですとも」
美しい指先が絡み付いてきて、耳元で「鮮やかなお手並みでした」と囁いた声に胸を締め付けられる。何度も、それこそ何度もスピーカー越しに聞いたセリフ。
初めて、直接、聞くことができた。
この一言のために、一生を使った。
「そうか……」
「たった5秒で堕ちました」と涙声で絞り出した右城に、「言ってろ」と震える声で呟くと、笑顔から大粒の涙がいくつも零れ落ちていった。無力なオレの接吻を赦すように、勝利の女神が濡れた瞳を閉じていくのが滲んで見えた ――――
【 残機:ゼロの世界 】 これにて終幕です。
短編としてスタートした当作、1面から攻略してくださった皆様にはお手数をおかけしましたが、熱くて厚いご支援・ご声援に心より感謝申し上げます。
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最後までご清覧いただき、本当にありがとうございました!!!
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■ 付録:挿絵やバナーを創造する
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