96.
両手に縄をかけられた舞は、背後から荒々しく突き飛ばされ、倉庫のような部屋の中でぶざまに尻もちをついた。
突き飛ばしたのは阿部、大柄で野性的な顔立ちをした男だ。
表情に失ったはずの精気が満ちているところを見ると、どうやら義竿を取りつけたようだ。
相変わらず趣味の悪いスーツを着ていると思うとおかしかった。
「何笑ってやがる」
どすの利いた声で言うと、舞の腹に鋭い蹴りを入れた。
舞は床の上を吹っ飛んで転がり、咳き込んだ。
「自分の状況分かってんのか?お前は今、敵の本拠地の真っただ中にいるんだぜ。
借りはたっぷりと返させてもらう。よくも俺の竿を斬ってくれたな、この化け物」
舞は瞳の底に軽侮の色を宿して冷ややかに阿部を見上げる。
彼は舞の前髪をつかんで引っ張りあげた。
「その目が気に入らねえんだよ!殺してやろうか、ああ?!」
「やめたほうがいいですよ」
背後で様子を見守っていた久保田が、へらへらした顔で口をはさんだ。
「その子はあの方への大切な貢ぎ物。傷一つ付けてはならないとおっしゃったはずです。それに」
久保田は舞の顎に指をかけて持ち上げた。
至近距離で彼の深い瞳がすっと細まる。
「せっかく綺麗な顔をしてるんだから、サンドバック以外にも使い道はあるでしょう」
冷酷な表情は、快活に手を振った少年とは全くの別物だった。
SPOは同性愛者の巣窟かと思っていたが、どうやら違う人間もいるらしい。
本能は身の危険を感じて警鐘を鳴らすが、ただ全てがおっくうだった。
――どうでもいい。どうにでもなってしまえ。
からっぽの心の内で、舞は投げやりに言った。




