95.
どこをどう歩いたのかさえ分からぬまま、舞は滝のような雨に打たれて街をさまよった。
もう、何も考えられない。
何も分からない。
一詩の最後の笑顔と、朋子の歪んだ笑顔が交互に蘇り、舞の心を切り裂く。
ふらつき、よろめいていると、
「みっつるぎさん。みーつけた」
場違いに明るい声が響き、舞はずぶ濡れの顔を上げて前方を見た。
「久保田君」
雨の作る透明な幕の向こう、黒髪にラフなTシャツを着た彼は、ひらひらと手を振った。
久保田は涙に濡れた舞の顔を見ても、笑顔のままだった。
「ねえ、前に話した噂のことなんだけど、本当に知らない?」
錆ついた思考はうまく働かず、舞はぼんやりとした頭を左右に振った。
久保田は無邪気に笑い、
「そっか。おかしいなあ。俺の友達、志田っていうんだけど、君にそっくりな子に竿を斬られたって
言うんだ。心当たりない?」
いつもの舞なら、ここで危険に気づき、逃げ出すことができたろう。
だが今は、魂の抜け殻のごとく放心状態だった。
ゆるゆると首を振った舞に、久保田はにやりと不敵に笑い、
「本当に?」
「……知らないわ」
「じゃあ、この人は?」
久保田の後ろから傘を差して現れた男を見て、舞はようやく逃げようとした。
だが彼は――阿部和哉は、肉食獣のように素早い動きで舞を捕らえ、獰猛な笑顔で言った。
「久しぶりだな。この間の礼はたっぷりさせてもらうぜ。竿斬りさんよ」
久保田はにこにこと笑ったまま、舞の顔を覗き込んで言った。
「SPOへようこそ。竿斬りの舞」
【第八夜・終】




