9.
彼女は黒革のソファーに腰を下ろすと、舞を見て微笑んだ。
「このうつし世に蔓延る罪深い男共よ、汚い竿を隠して震えるがいい。そうは思わない?」
「それが本当に罪深い者なら」
淡々と返した舞を見つめ、女帝は大胆な弧を描いた眉を寄せる。
「あなたはいつも寂しげなのね。そんなに素敵な能力を持っているのに、どうしてなのかしら」
「今回のターゲットの詳細を教えていただけますか」
「生意気ね。だけど、そういう子猫は嫌いじゃないわ。ちょっとお待ちなさいな」
女帝が少しかがむと、大胆にはだけた着物の襟口から谷間がのぞく。
つややかな髪を結い上げ、真っ白なうなじにおくれ毛がかかっている。
彼女が取り出したのは履歴書だった。
右隅に顔写真が張られてあり、小さく几帳面な文字がびっしりと並んでいる。
「あなたには今回、立明大学の学生になりすましてもらうわ。偽名と学籍はこちらで用意します」
「承知いたしました」
「資料によると、標的は女好きでだらしなく愚鈍なようだから、接近も篭絡も容易でしょう。あなたには退屈な仕事かもしれないわね」
「この男はどんな罪を犯したのですか」
「痴漢の累犯者で、相当な数の女性が被害に遭っているそうよ。あくどい手口らしく、決定的証拠を掴ませずに逃げおおせている。男の風上にも置けないゴミね」
それを聞いて、舞は胸のつかえが取れたような気がした。
女帝は薄く笑う。
「そんなに大義名分が欲しいの?」
はっと顔を上げた舞に、鋭い視線が突き刺さる。
「どちらにせよ、あなたに選択権はないのよ。相手が誰であろうと、一度下された指令は実行するほかない。標的に情けをかけるのはやめなさい。うかつな考えは身の破滅を招くだけよ」
舞は強く唇を噛みしめた。
「まずは立明大学に潜入し、ターゲットの所属するサークルに入会しなさい。そこからは、あなたの裁量に任せるわ。迅速に事を済ませ、痕跡一つ残さないようにね。いつもどおり、切り取った竿は小箱に入れて鉄に引き渡しなさい」
「御意」




