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竿斬りの舞  作者: 凪子
第一夜
8/146

8.

日向野(ひがの)エンタープライズ株式会社。


都心のオフィス街にそびえ立つ、ガラス張りの洗練(せんれん)された高層ビル。


そこに足を踏み入れるたび、舞の心は重く沈む。


受付嬢に名乗ると、すぐに最上階の応接間に通された。


出されたお茶を飲みながら待つことおよそ十分、音を立てて扉が開く。


「よく来たわね。待ちわびたわよ、御剱のお嬢さん」


冴え渡るあでやかな美貌と、豊満(ほうまん)な曲線美を描く体を誇示するようにして、豪華な和装に身を包んだ女性が現れた。


彼女こそ御前(ごぜん)と呼ばれ恐れられる、日向野の女帝である。


――そもそも、日向野家と御剱家には深い因縁がある。


御剱家は代々、伊勢の斎宮に仕えた神官の一族。

本家が東京に移り住んでからも、生業(なりわい)として神事を(つかさど)ってきた、由緒正しき家柄である。


だが脈々と受け継がれてきた血筋も徐々に権威を失い、特に戦後は衰退(すいたい)の一途をたどり、今となっては借金だけが残る形骸化(けいがいか)した名家であった。


そこに現れたのが日向野家である。


日向野は江戸時代に開業した卸問屋(おろしどんや)を出発点に、現在では流通・ホテル・不動産・外食産業などを牛耳(ぎゅうじ)り、手広く商いをする一大財閥である。


日向野の融資を受けることで、落ちぶれた御剱家は何とか生き永らえている。


ゆえに、御剱家は現在も日向野家に対し弱い立場に置かれている。


日向野エンタープライズ現CEO、日向野鉄(ひがのてつ)が舞の正式な雇い主である。


そしてその妻こそが、地方の中小企業でしかなかった日向野エンタープライズを現在のような日本を代表するグローバル企業へと発展させ、日向野家を今の地位にのし上げた功労者なのである。


色気や美貌もさることながら、ビジネスに関する彼女の才覚と名声は財界に響き渡り、他の追随を許さないと言われている。


建前としては日向野に寄せられた情報を女帝が精査して夫である鉄に伝え、鉄が御剱家に要請し、当主萌から舞に指令が下るという形になってはいる。


だがそれはあくまで形式上のことであり、舞はもちろん、萌にも選択肢は用意されていない。


日向野エンタープライズ、あるいは日向野本家においても、最大の発言権と権力を有するのは、当主である鉄ではなく日向野夫人、御前なのである。

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