77.
「鉄がやろうとしていること、やっていることは犯罪だ。君はそれを知っている」
静かな、だが決して偽りを許さない声がたたみかける。
「何のことをおっしゃっているのか分かりません」
「嘘はよくないな」
秋山は優しく唇の端を持ち上げた。
「鉄に脅されているんだろう?大丈夫だよ。こちらに来ればいい。真実を話してくれるというのなら、君の身の安全は保障する」
舞は顔を歪めた。
「こちらとおっしゃいましたね。……あなたは何者なんですか?」
秋山は決然とした顔で、
「今はまだ言えない。だけど信じてほしい。俺は君の味方だ。君を害するようなことは何一つしないと約束する」
そのとき、舞は強い既視感を覚えた。
ひたむきで一途な瞳をした秋山の後ろに、一詩の姿がだぶって見える。
どうして同じようなことを言うのだろう。
「秋山さん。あなたは先ほど、その人のためなら何でもするとおっしゃいましたね」
秋山は目で舞の言葉を肯定した。
「あなたにそんなかけがえのない人がいるように、私にも背負うべきものがあるんです。おいそれと投げ出してしまうわけにはいきません」
「幼馴染が悪い道に走ろうとしていたら、止めるのが友達の役目だ。
俺はこれからきっと、鉄と対立することになるだろう。辛いが、後悔するつもりはないよ。
だから今のうちに、君にこちらへ来てほしいんだ」
切実な声の響きに、舞の心は揺れ動いた。
「どうして」
かすれた声は途中でかき消される。
秋山が身を乗り出し、舞の肩に手を乗せて唇をふさいでいた。
瞳を閉じることも忘れていた。
どんな感情も抱く暇がないほど素早く、かすめるようなキスだった。




