70.
――これは、デートなのだろうか。
みなとみらい駅へ向かう電車の中で、舞は本日十七回目になる自問自答をはじめた。
事の発端は、先日の夜。突然かかってきた電話には、見知らぬ番号が踊っていた。
特に気にせず通話ボタンを押すと、
『もしもし?秋山です』
驚きのあまり通話終了ボタンを押してしまい、死ぬほど後悔していたら、もう一度コール音が鳴った。
穴があったら入りたい心境で応答すると、彼は先日の約束を持ち出して言った。
『もしよかったら、今度の日曜、おつき合いいただけませんか』
機械越しに耳元で聞く声は、妙な色気に溢れていた。
秋山は集合時間を決めると、断る隙も与えず電話を切ってしまった。
おかげで聞きたいことは山積みだし、気持ちは宙ぶらりんなままで、土曜の夜はなかなか寝つけなかった。
朝起きて、一番好きな洋服に袖を通しながら、藤城をぎろりと睨み、
「ついてきたら殺すからね」
と釘を刺すことも忘れない。
もらった名刺には、【Café ONEplusONE 店長 秋山敬太】と書かれていた。
五度ほど見直したが、どうやら印刷ミスではないようだ。
名実ともに秋山があのカフェの店長なら、そこに出入りする北山組、ひいてはSPOについて知っている可能性が高い。情報をさりげなく聞き出せるかもしれない。
だが当の秋山を目にした途端、舞の自信は根底から揺らいだ。
「こんにちは。舞さん」
秋山は清雅な佇まいで、約束の時間の五分前に、とっくにそこにいましたという様子で立っていた。
ペパーミントグリーンのシャツに黒のジャケットを合わせ、ベージュのチノパンにローファーを履いている。
上品で趣味がよく、完璧な装いだ。
近寄ると、ほんのわずかに爽やかな香りが漂った。
まるでモデルのような出で立ちに、誰もが振り向き憧れの眼差しを注ぐ。
彼は人を惹きつけてやまない誘引力を備えていた。




