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竿斬りの舞  作者: 凪子
第六夜
69/146

69.






一詩を屋敷の門まで送りながら、舞は希望が胸にこみあげてくるのを止められなかった。


誰にもどうにもできなかった暗闇で、強く自分の手を掴んで引き上げてくれる存在がいる。


長きに渡る支配に耐え忍ぶ日々を、終わらせるため戦おうとしてくれる人がいる。


「一兄……本当に、ほんとにありがとう」


声を震わせて言うと、一詩は振り向いて、にかっと子どものように笑った。


「何言ってるんだよ。当たり前だろ。お嫁さんにするって約束は守れなかったけど、可愛い妹が困っているのを見捨てるなんて、できるわけないよ」


どうしてこんなにも真っすぐで純粋でいられるのだろう。


うつむいて黙りこみ、涙をこらえている舞を見つめて一詩は目を細めた。


「舞……お前、変わったな」


「え?」


顔を上げた舞に、一詩の心配そうな眼差しが注がれる。


「昔のお前は、そんなふうに大人しく俺の後をついてきて、しおらしく黙っているような子じゃなかった。西に女の子をいじめる奴がいれば、走って行って蹴り倒し、東に先生に怒られて泣いている奴がいれば、追いかけていって笑わせた。

誰よりも強くて明るくて……舞は、みんなの太陽だったんだ」


心臓に畳針たたみばりを突き刺されたような心地だった。


過去を知る人物との接触は、過酷な現実をつきつける。


今の自分がどれほど悲惨な境遇にいるか、嫌というほど思い知らせる。


変わってしまったのだ、取り返しのつかないほど。


どれだけ願っても、あの輝かしい日々は二度と戻ってこない。


「どうして辛いこと、辛いって言わないんだ?日向野でアルバイトしてるって言ってたけど、どうせろくな仕事じゃないんだろう。 見たくないよ。舞がそんなに哀しそうな、何もかも諦めちまったような目をするところなんて」


舞の両肩をつかみ、


「今までだってずっと、俺には何でも話してくれたじゃないか。たった五年で、俺はそんなに、お前にとって信用のならない奴になり下がっちまったのか?」


一詩は舞を責めながら、自分が泣きそうな瞳をしている。


――ずるい……そんな顔されたら、泣くこともできない。


舞は渾身こんしんの力を振り絞って、何とか唇の両端を持ち上げた。


「……ごめんね」


冷たい風が梢を吹きぬけ、常緑じょうりょくの葉をこすって寂しい音をかき鳴らす。


舞に向かって伸ばされたであろう一詩の手が、力なく体の横へ落ちた。





























【第六夜・終】

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