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「正直言って、正当な手段で立ち向かっても歯が立たないんですよ。それで、苦肉の策を講じたわけです」
「日向野の戦力を削ぐため御剱家を買収し、利益を上げ、ゆくゆくは不動産業界を牛耳ると?」
舞の父の鋭い質問に、一詩は「いやあ」と笑って頭に手をやった。
だが、強い光を帯びた瞳は少しも笑ってはいない。
「そこまで大それたことは考えていません。ですが私たちは、あなた方の土地をしっかりとお守りし、有益に使い、お返しするお手伝いができればと思っています。恐れながらそれは、このまま日向野につき従っていたところで、決して得られないものかと」
確信のこめられた、説得力のある口調だ。
青二才がと舐めてかかることができないほど、彼は完成された経営者だった。
舞の父もそれを感じ取っているのだろう。しかめっ面に、かすかな動揺が浮かんでいる。
「それにわたくしは……俺は、小さいころから舞と仲よくさせてもらってきました。おそれ多いかもしれませんが、今でも舞を実の妹のように思っています。
聞くところによると、舞は高校にも行かず、家業も継がずに日向野で雇われの身だとか。妹も同然の子が、そんな人質のような状況に置かれているのを黙って見ているわけにはいきません。
俺ごときじゃどうにもならないかもしれませんが、できることがあるなら何でもしたい。何とかして、力になりたいと思うんです」
「一詩兄さん……」
一詩は舞に、昔と少しも変わらぬ太陽のような笑顔を向ける。
「なあ舞。お前だって今の状況を、そのままでいいと思っているわけじゃないだろ」
たくさんの言葉が一気に喉まで出かかったが、見つめる父親の瞳の前では、ぎこちなく頷くのがせいいっぱいだった。
「ご承諾いただければ、俺は御剱家のために力を尽くす覚悟です。どうかこのお話、一度考えてみてはいただけないでしょうか」
父は一詩を見、舞を見つめ――それから、深く息を吐いた。
「――分かりました」




