66.
「舞。俺がアメリカに留学していたのは、親父の会社を継ぐためだって話、前にしたよな」
「ええ」
舞は話が見えないまま、おずおずと頷いた。
「実は今度、正式に狭山コーポレーションの代表取締役に就任することが決まったんだ」
「え!?」
舞は仰天した。
長男である一詩が、ゆくゆくは経営者となるのだろうとは思っていたが、まさかこんなに早く実権を握ることになるとは思いもしないことであった。
父親は訳知り顔で頷いている。
一詩は照れたように、しきりに頭をかいていた。
「親父は結婚が遅くて、もうとっくに還暦も越えていることだし、そろそろ俺に後を継がせて隠居したいらしい。俺はまだまだ勉強も足りてないし早いんじゃないかと言ったんだけど、結局、押し切られちゃってね」
世情にうとい舞でも、一詩が謙遜していることは容易に察された。
狭山コーポレーションが飛躍的な発展を遂げたのは、一詩が帰国してからだ。
彼はアメリカで学んだ経営学を生かし、その手腕でめざましい成果をあげた。
それが認められての代表取締役就任ということだろう。
「おめでとう。何だか、一詩兄さんがとても遠く思えるわ」
「何言ってるんだ。こんな大きな家に住んでるお嬢様のくせに」
ちっとも棘のない口調だからか、舞はその言葉を素直に受け止めることができた。
いつもなら、御剱の宿命の何たるかを知らない者が偉そうに、と反発していたであろうものを。
一詩の大きな姿を、前向きでエネルギーのみなぎる横顔を、舞は眩しく見つめる。
彼は深呼吸すると、今度はきりりと研ぎ澄まされた表情になった。
「それで、お話なんですが」
舞の父に向かって、声をひそめて言う。
「無礼極まりないことは承知の上で申し上げます。……この私に、御剱家の資金援助をさせていただけないでしょうか」
舞はもちろん、父親も驚きを隠せないように目をみはった。




