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竿斬りの舞  作者: 凪子
第六夜
65/146

65.

「ただいま戻りました」


しずしずと頭を下げると、父親は腕を組み、


「うむ」


こちらへ向かって歩いてきた母親が、


「舞、とにかく上がりなさい。こんなところで立ち話ではお客様に失礼でしょう」


「いいんです」


一詩は全く気にしない風に笑って言ったが、母親はかしこまり、膝を折って言った。


「こちらへどうぞ。客間に、お茶の用意ができております」


客間につくと、一詩は黒革のソファーに腰かけた。


その正面に舞の父、父の隣には舞が腰かける。


執事たちと母はドア一枚で隔てられた別室に控えているようだった。


移動の最中、一詩は屋敷の使用人たちに羨望せんぼうの眼差しを注がれていた。


ぱりっとのりのきいたスーツに身を包む一詩からは、そこはかとない自信と、誰もを魅了してやまない人柄が伝わってくる。


「本日は、このようにひなびた我が家にお越しいただきありがとうございます。あいにく当主は現在伏せっておりますので、僭越せんえつながら当主名代である私がお話を伺いたく存じます」


当主が伏せっているというのは御剱家特有の方便で、名代みょうだいを立てることを述べるための決まり文句である。


実権を持ち、最終判断を下すのは萌だが、日常の雑事や客人の応対、公の場での声明などは全て名代である舞の父に委ねられている。


一詩は精悍せいかんな顔立ちを優しく笑ませた。


「こちらこそ、お招きいただき光栄です。舞さんとも、一度ゆっくりと話す機会が欲しかったことですし」


「舞とは、幼少のみぎりより親しくしていただいたようで」


「はい。このような高貴な身分のお嬢さんだということはつゆ知らず、失礼な振る舞いも多かっただろうと思うと、恐縮です」


父と一詩の紋切もんきり型の挨拶に、舞は首を傾げた。


いったい一詩は、何のために御剱家を訪れたのだろうか。


舞と目が合うと、一詩は白い歯を見せて笑いかけた。


見る人を安心させるような力強い笑みだった。

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