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竿斬りの舞  作者: 凪子
第六夜
64/146

64.

どうやって家に帰りついたかはよく覚えていなかった。


屋敷の門までたどりつくと、屋敷の使用人が妙に浮足立っているのに気づく。


「どうしたの」


手近なところにいた女中に尋ねると、彼女は恐縮したように、


「舞お嬢様。お帰りなさいませ」


「ただいま。何か変わったことでもあったの」


「いえ、あの。それが……」


「舞!」


明るい声が響きわたり、舞は信じられない思いで振り返った。


風雅ふうが丹塗にぬりの橋の架かった、大きな鏡池。


その奥にある母屋おもやの前で、狭山一詩さやまかずしがにこやかに手を振っていた。


舞は大きく目を見開き、


「一詩兄さん!」


御剱の屋敷は、客人を迎えることはめったにない。


閉鎖された空間には御剱の血族と使用人のみが住まい、屋敷は世間から完全に隔絶されていた。


それは身を守るためでもあり、御剱家が俗世との関わりをいとうからでもあった。


その屋敷に若くして正式な客分として迎えられたということは、すなわち御剱家当主・御剱萌が、狭山一詩の資質と人柄を高く評価しているということを意味する。


舞はそれらを瞬時に読みとり、喜びに胸を満たした。


先ほどまでの暗く沈んだ心が嘘のように晴れ渡り、立ちこめていた黒雲が吹き飛んでゆく。


一詩は駆け寄ってきた舞を抱きしめると、腰に手を回し、軽々と持ち上げた。


子供のように高い高いをされていることに気づいて、さすがに赤面する。


「もう。また私のこと子供扱いするのね」


「はは。すまんすまん。昔の癖でつい」


小さいころから体格がよかった一詩は、父親代わりに舞に高い高いをしてくれたのだった。


ようやく落ちついた舞は、そばに藤城と、当主名代とうしゅみょうだいである父と、その執事である宇都宮がいることに気づいた。


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