63.
――まさか、ここまで社長が話してくれるとは思わなかった。
帰り道を歩きながら、舞は考えにふける。
どうしてSPOと日向野が対立するのか、根底にあるものは分かった。
一笑に付してしまいたいような理由だが、ともかくも。
だが、全てが明るみに出たわけではない。
例えば、Kの持つという再生の力のことだ。
もしKが本当に竿を持ち主の肉体に還すのだとしたら、SPOは竿を得られない。
それでは本末転倒ではないか。
睨むように歩いていた舞だが、やがて腹がぐきゅるるる……と物悲しい音で鳴るのに気づいた。
昨夜北山の竿を斬り、早朝からfrank中目黒店へ出向き、朝食もまともにとっていない。
一度意識すると、猛烈に空腹感を覚え、耐えられそうになかった。
足が自然と『Café ONE plus ONE』へ向かっているのに気づき、舞はおののいた。
――ご迷惑はかけないと、約束します
心地よい声が耳の奥に蘇り、胸が締めつけられるように疼く。
店の前を何度も往復し、舞は自分の挙動不審ぶりにうんざりした。
ガラス窓から店内をそっと覗きこむ。
秋山に話しかける朋子の笑顔を見て、息が止まりそうになった。
可愛らしいカフェの制服に身を包んだ朋子は、危なっかしい手つきで給仕をしている。
時々秋山がそばに寄っていき、新人指導らしきことを行っている。
わき上がってきたどす黒い感情に、舞は思わずうめき声をあげた。
なんと微笑ましく、お似合いの二人だろう。
愛くるしく魅力的な朋子と、爽やかでセンスのいい秋山と。
会話の内容など聞きとれるはずもなかったが、舞は思わず耳をそばだてる。
朋子が小さな体で精いっぱい背伸びして、何事か秋山の耳元に囁いている。
秋山は輝くような笑顔でそれに応じている。
恋人同士のように親密な雰囲気だった。
舞は思わず目をそむけ、踵を返して走りだした。
――ひどい奴だわ……私
薄汚い感情が溢れ、流れだすのを止められない。
この呪わしい右手を持つのが朋子だったら。
代わりにあそこにいて、笑っているのが自分だったら。
そう思ってしまう自分を止められない。
舞は強く首を振って目をつむる。全てを洗い流し、消し去るために。
だが瞼の裏の鮮やかな残像は、いつまでたっても薄らいでくれそうになかった。




