6/146
6.
くすりと意地の悪い笑みを浮かべ、萌はこう告げた。
「名は志田直人。立明大学一年生」
知り合いの名前ではなく、舞は安堵したが、無表情を装って尋ねた。
「その男は何をしたのですか」
「おそれながら」天河の声が冷然と割って入った。「当主様に向かって、余計な質問はなさらない方が御身のためかと」
「当主付きとはいえ、執事の分際でこの私に指図するか」
舞は低く、押し殺した声で言った。
「やめよ天河。舞はこう見えて気位が高い。御剱の跡を継ぐ姫というのは、総じてそういうものよ。己の竿が惜しくば、余計な口を挟まぬことじゃ」
「失礼いたしました」
天河は下がり、その場でひざまずいて平伏する。
「妾のしもべの不手際じゃ。許せ、舞」
「萌様の仰せ(おおせ)ならば」
「そなたの右手に力を与えたのはこの妾じゃ。そなたは自分が奪う竿について知る権利がある。詳細は日向野が握っておる。いつもどおり本社に向かうがよい」
「はい。では、御前を失礼いたします」
一礼し、踵を返した舞の背中に、萌は砂糖菓子のように甘い声をかける。
「舞」
「何でございましょう」
「妾を憎んでおるか?」
豪奢な装飾の座椅子に腰かけ、肘掛に肘をついて、優雅に微笑む少女の瞳はまるで全てを見透かす水晶のようだった。
舞は沈黙のまま萌に向き直り、唇に凄絶な笑みを浮かべた。




