52.
『私に任せて。こういうことに向いている人間に心あたりがあるの』
『……舞様?』
『その代わり、あなたがそいつに頼むのよ。それくらいはできるでしょう?』
『かしこまりました。それで、その人物は?』
『あなたもよく知ってる人よ。その人は』
「その人は?」
突然、背後から声がかかって、舞は飛び上がった。
振り返ると、銀盤を胸に抱えた秋山がいたずらっぽく微笑んでいた。
小型マイクの向こうで藤城は沈黙を保ち、じっとこちらを見つめている。
舞は顔中の筋肉を総動員して、ぎこちない笑みを作った。
「すみません。携帯、使っちゃいけなかったんでしたっけ」
秋山はおかしそうにくっくっと喉の奥で笑う。
「いえ、大丈夫ですよ。今日は、朋子さんはご一緒じゃないんですね」
舞の心臓は不穏な音色で跳ねた。
「朋子、よくここへ来るんですか?」
「ええ。てっきりご存じかと」
口ごもっていると、秋山は不意に舞の耳元でささやいた。
「今度、店が終わったら会えませんか」
「え」
舞の心臓は壊れんばかりに鳴った。
秋山が照れたように笑う。
「僕が知らない鉄のこと、教えていただきたいんです。……お願いします」
喜びと不安が一気に押し寄せてきて、うまく反応できなかった。
かろうじて出たのは、
「でも私、日向野社長と知り合ったのはたった三年前で」
という、言い訳めいた言葉だけだった。
秋山はにこりと笑うと、取り出した名刺を一枚、テーブルの上に置いた。
困惑する舞の瞳を見つめ、
「あなたが分かることだけでいい。ご迷惑はかけないと約束します」
何て吸引力のある目だろう。魅惑的な輝きは、心をとらえて離さない。
舞は図らずも頷いている自分に驚き、そして呆れた。




