51.
『普段自分のこと尾けてる人を、自分が尾行するって面白いものね』
『舞お嬢様……ご冗談はおやめください』
襟元につけられた超小型マイクで舞と藤城は会話していた。
藤城は舞の言いつけどおり、まずはゲイバー「亜斗夢」に潜入。
難なく田中涼を籠絡することに成功していた。
だが、問題はここからである。
今日が二人の初デートの日で、舞はそこに陰ながら参戦することとなったのだった。
『ねーえ、藤城ちゃん。何食べたい?私パスタがいいなあー』
田中涼は女顔負けのぶりっこをして、藤城に身をぴったりとくっつけている。
『……何でもいいぜ』
無理に男っぽく喋ろうとしているせいか、藤城はよく言葉に詰まった。
それすら田中には愛おしく思えるのだろう、舐めるような眼差しで見つめている。
『じゃあここ入ろ?結構おいしいんだよ』
と言って彼(彼女?)が示したのは、何と「Café ONEplusONE」であった。
朋子といい田中といい、どうして星の数ほどあるカフェの中で、わざわざここを選ぶのだろうか。
人を引き寄せる磁力でも備わっているのだろうか。
舞ははっと気づいて、鞄の中に入れてきた資料を取り出した。
女帝から渡されていた、北山組のアジトのリストだ。
Café「ONEplusONE」は、アジトと断定はできないが、ちらほら組の人間が出入りする要注意スポットと書かれていた。
舞は覚悟を決めて扉をくぐる。
田中と藤城はとっくに席についていた。
怪しまれないよう本を開き、注文したミルクティーを飲みながら、舞は情報を聞き漏らさないよう耳を傾ける。
『藤城ちゃんって、どういう子がタイプ?』
『タイプ、ですか。私――いや俺は――』
『初デートでどこまでオッケー?てか、付き合ったら週何回?』
『えっと――その――』
完全に押されている。
肉食系田中の猛烈ながっつきに、藤城はたじたじのようだ。
舞は心の中で合掌した。このままでは埒が明かない。
『藤城』
舞は小声で呼びかけた。
『何でしょう』
『竿のこと、聞けそう?』
『……申し訳ありません』
『いいのよ。私が悪かったわ。ここまでだとは思わなかった』
有頂天で喋りまくっている田中を尻目に、藤城は捨てられた犬のようにしょんぼりとうなだれている。




