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5.
――御剱の魔女。
誰とはなしに声をひそめてささやいた、その呼び名は畏怖とともにじわりじわりと広まった。
面を上げよ、と萌は鈴を転がすような声で命じた。
「近ごろとみに任務の量が増えておる。そなたも疲れが溜まっているであろう」
「とんでもございません。私は御剱家のため、身を粉にして働く所存にございます」
萌は嫣然と微笑する。
「そなたは頭がいいの。その歳で身の処し方を知っておる」
「もったいないお言葉にございます」
やりとりを聞いていた天河が、「萌様」とたしなめる。無駄なおしゃべりはよせと釘を刺したのだ。
御剱萌の存在は謎に包まれている。
当主でありながら公の場には姿を見せず、年齢どころか直系の血族が誰なのかさえ伏せられている。
少なくとも、舞の母親が生まれたときには既に当主の座にあり、長年にわたって御剱家を支配してきたらしい。
こうして戯れ(たわむれ)に交わされる雑談から萌の正体を推測しようとしているのだが、その企みはことごとく天河に阻止されている。
「では本題に入るとしよう。今回の標的は十八歳。そなたと同い年じゃ」
舞は背筋がうすら寒くなるのを感じた。
頭に数少ない学友たちの姿が浮かぶ。




