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49.
うんざりした気分で日向野本社を出ると、道路の脇に豪華なベンツが停められていた。
物珍しく眺めながら通り過ぎようとすると、
「舞?舞じゃないか!」
声が聞こえ、ドアを破るようにして勢いよく飛び出してきた人影があった。
舞は一瞬、その姿を見ても誰だか分からず首をひねる。
だがすぐに、ぼやけていた記憶が鮮明に蘇った。
「一詩兄さん!」
何のためらいもなく、大きな広い胸に飛び込む。
往来の多い大通りで、テレビドラマのように抱き合う二人に好奇の視線が注がれた。
そんなものを一切気に留めず、彼――狭山一詩は微笑んで言った。
「元気だったか?舞」
舞は厚い胸板に顔をこすりつけるようにして、
「ええ。一詩兄さん、アメリカから帰ってきてたのね」
一詩はスポーツマンらしく鍛え上げられた、たくましい体つきをしていた。
舞とは一回りも二回りも体格が違っている。
均整の取れた肉体に、男らしくほがらかな笑顔。こぼれる白い歯、爽やかな顔立ち。
一目で裕福な育ちと分かる好青年だ。
「向こうでMBAの学位を修めてきたんだ。親父の会社を継ぐためにね」
その言葉を聞いて、舞の顔色は曇った。
――狭山コーポレーション。
近年、破竹の勢いで利益を伸ばしている、不動産業界の新鋭と呼ばれる会社だ。
その利権争いに、日向野エンタープライズも深く関わっている。




