46.
どうしてSPOの人間は、竿が日向野本社に保管してあると知っていたのだろう。
そもそも、竿が廃棄されずに保管されていると確信していなければ、盗みに入るという発想自体出てこないのではないか。
それに、どうして日向野は竿を保管していたのだろう。
あんなにも厳重に金と手間をかけて、わざわざ証拠になるようなものを?
「日向野は、愚かな男の犠牲になった者のための復讐。SPOは、奪われた竿の奪還」
突然、呪文を読み上げるような口調で鉄が言った。
舞は顔を上げ、言葉の意味を頭の中で反芻する。
鉄は奇妙に静かな声で、
「それは建前にすぎないのだよ、舞。互いにな」
舞が問い返そうとした途端、ドアが開いて、
「いらっしゃい、御剱のお嬢さん」
女帝が入ってきた。
入れ替わりに鉄が部屋を出ていく。
「御前。先日の件は」
「まあお座りなさいな。そんな怖い顔をしないでちょうだい。結果的にあなたを騙す形になったのは事実だけれど、阿部はあなたが思うほど綺麗な人間じゃなくてよ」
と、女帝は早口にまくし立てる。
「児童ポルノの製作に携わり、闇ルートで売りさばいて大金を得ているし、買春の斡旋もしているわ。あいつだって十分に罪深い男なのよ。分かるかしら?」
聞き分けのない子供をなだめるような口調に、舞は反発しようとした。
だが女帝は機先を制して、
「私は、阿部は色じかけで陥落する可能性が低いと言ったわね。なぜだと思う?」
「ホストクラブのナンバーワンにいるからではないのですか」
女帝は人さし指を左右に振った。
「実は彼、同性愛者なの」
舞はぎょっとして目を見開いた。
女帝は笑みを浮かべたまま、
「だからあなたの魅力が通じなかったわけ。どう?驚いたでしょう」
巧みな話術に翻弄され、舞は会話の舵取りをしそびれてしまった。
「さて、じゃあ本題に入りましょうか。阿部の話をしたのも、今回の標的と無関係ではないからよ」
舞の目が猫のように細くなる。




