45.
秋山が去った後、舞はいつもどおり応接室へと通された。
いつもと違うのは、案内してくれたのが鉄だということだった。
「社長」
鉄は無表情なまま、目だけで舞を振り向いた。
「社長も、あの日私が阿部の竿を狩り取ってくるとお考えでしたね」
鉄は無言だったが、やがてはっきりと頷いた。
「いつもなら調べられてもいいよう抜かりなく作るはずの身分や呼称も、今回ばかりは穴だらけの適当なものだった。私が阿部の竿を取る、そうならざるを得ない状況になると分かっていたから、社長は竿塚を開けて待っていたのでしょう」
舞は返答を期待していなかった。
「今までは、被害にあった女性の訴えで私は竿斬りの指令をこなし、依頼者から報酬をいただいていました。けれど今回は違う。SPOは竿を取り戻すための集団です。標的と違って、性犯罪をしたわけでもなければ、女を食い者にしているわけでもない」
「不服かね」
「ええ。とても」
舞はいつになく挑戦的に鉄の両目を見返した。
「竿を失った人間は、警察に訴え出ても相手にされていないようです。だから事件は明るみに出ることはない。けれど、恨みを持った人間がSPOに情報を集めれば、私のことなどあっという間に探り当てるでしょう。私には、彼らと対抗する理由がありません」
たとえ自分に害なす人間だとしても、竿斬りの命令があったとしても、罪のない人間の竿を斬ることはしたくなかった。
「君は不思議な娘だな、舞」
影のように黒一色に身を包んだ彼は、すっと目を細めた。
「どういう意味でしょう」
「竿を斬らなければ、君は阿部に襲われていたかもしれないんだぞ」
舞は唇をすぼめ、腕を組んだ。
「それは結果論です。私はSPOの言い分は当然だと思います」
なくなった竿を返せというのは、持ち主側からすれば当然の発想である。
けれどふと気にかかって、舞はうつむいた。




