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40.
日向野エンタープライズ本社の最上階、見下ろすのは米粒ほどの大きさの人や車、山脈のように屹立するビルの群れ。
朋子は、普段の彼女からは考えられないほど冷徹な顔で、その人物にかしずいていた。
「そのようね。この間の阿部の一件がこたえているのでしょう」
豪奢な着物を身にまとい、妖艶な色気をにじませて言ったのは女帝であった。
「あなたから見たところ、舞はどう?」
ソファーに腰かけ、気だるげに女帝は問う。
「そうですね。何の疑問もなく仕事に取り組んでいるようには見えません。
が、少なくとも今までは感情を殺し、忠実に任務を遂行できるよう割り切っていることが窺えました」
「それが今になって少しずつ変わり始めている。あなたがいくら揺さぶりをかけても、動かなかった心が」
女帝の物言いは挑発しているようだった。
朋子がかすかに眉を寄せる。
「舞の心がどう動こうと、仕事さえ完璧にこなすならよいのではありませんか」
女帝は朋子の顎に指をかけて引き寄せた。
朋子が赤面し目を逸らす。
その美貌にあでやかな笑みを浮かべ、女帝はあやすように言った。
「舞は日向野にとっても切り札なのよ。あの子の利用価値は、あなたが思っている以上に高い。
思いどおりに従えるためなら、どんな弱味でもつかんでおく必要がある。……分かるかしら」
「はい、かしこまりました。御前」




