4.
萌の居室は屋敷の最奥にある。
光さえ届かない、地下深くのさらに先。
入り組んだ回廊を歩き、隠し扉を開けると通じる部屋だった。
御剱萌は、御剱家の生きた伝説と呼ばれる存在だった。
彼女に関する全ての情報は伏せられ、御剱家の者であっても面会できるのはごくわずかな人間のみである。
分家の者や使用人などは、彼女の存在さえ知らされていない。
「おはようございます、萌様。舞にございます」
「お入り」
中から響いたのは、意外にもあどけない声だった。
舞は気負いした風もなく、平然とその部屋に入った。
ざっと三十畳はあるだろうか。
部屋の上手には貴人が座るための畳が重ねてあり、優美な御簾がかかっており、それらが舞と萌を隔てていた。
「萌様におかれましては、本日も健やかなるご様子」
形式どおりの挨拶を述べようとした舞を遮り、萌は言い放った。
「前置きはよい。舞には、また仕事をしてもらう」
「御意にございます」
「天河、御簾を上げよ」
「かしこまりました」
萌付きの執事、怜悧な相貌に銀縁眼鏡をかけた青年が素早く御簾を巻いた。
初めて萌の姿を目にした時、舞は飛び上がるほど驚いたものだ。
というのも、可愛らしい顔立ちや華奢な体つきは、どう見ても十一、二歳の少女のものにしか見えなかったからだ。
さらに驚くべきは、彼女は三年前から少しも成長していない。
まるで歳を取っていないかのように。




