39.
「もしもし舞?」
『朋子。どうしたの?』
電話越しに聞く舞の声が心なしか沈んでいて、朋子は眉を寄せる。
「うん。用ってほどの用はないんだけど。今、大丈夫?」
『大丈夫よ』
「ねえ、舞。何かあった?」
受話器の向こうが一瞬沈黙し、それから、無理に明るくしたトーンで、
『別に何もないよ』
「嘘ばっかり。舞はポーカーフェイスな分、無理してると全部声で分かるんだから」
朋子が胸を張って言うと、かすかな笑い声がした。
『ホントに何でもないってば』
朋子は詮索するのをやめて、甘えるように言った。
「ね。今度いつ遊ぶ?」
押し黙った舞に、朋子は怪訝そうに首を傾げる。
「またあのカフェに行こうよ。かっこいいお兄さん……秋山さんだっけ?会いに行こうよ。買い物して、映画とか観てさ。ぱーっと遊ぼう?」
『朋子』
「なあに?」
『悪いんだけど、しばらく会えそうにないの。ごめんね』
朋子は目を見開いた。
受話器の向こうで漂うただならぬ様子に、声だけが逸って大きくなる。
「どういうこと?やっぱり何かあったんでしょう?」
岩のような沈黙に、朋子は焦れて早口になった。
「お仕事のこと?ねえ、そうなの?」
『ごめん』
「ごめんだけじゃ分かんないよ。説明してよ。ねえ、舞ってば」
『また電話するね。じゃあね、朋子。元気で』
電話は突然、ぶつっと音をたてて切れた。
朋子はリダイヤルボタンでかけ直したが、『この電話は、電源が入っていないか、電波の届かないところにあるため、通じません』という電子音が繰り返されるだけだった。
通話終了ボタンを押して、部屋の中央にいる人物に向き直る。
「相当追いつめられているようですね。舞は」




