38.
白くきめ細やかな右手をじっと見つめて自嘲する。
「……化け物は檻の中で飼われるのがお似合いだわ」
「舞様、そのような」
「うるさいのよ!」
舞は立ち上がって激昂し、豪華な黒塗りの御膳をひっくり返した。
湯気を立てた飯が床に転がり、汁物が碗から流れて、漬物や魚が散乱する。
机の上の写真立てを放り投げ、本棚の本を投げ捨て、止めようとする藤城に宝石箱を投げつけた。
「あなただってそう思っているくせに!丁寧に頭を下げておきながら、腹の中で私を化け物だと蔑んでいるんでしょう!?正直にそう言ったらどうなのよ!!」
「そのようなことはありません。舞様、落ちついてください。舞様!」
「嘘つき!!あなたなんか大嫌いよ!!」
振り回した本の角が藤城の瞼の上を一閃し、切れて勢いよく血が溢れた。
そうなってようやく、舞は我に返った。
あまりにもひどい部屋の様相。惨劇の後のように、何もかもが乱雑に散らばっている。
藤城は目の上を押さえているが、その指の下をくぐって血が滴っていた。
「藤城」
自分のしたことに恐れおののき、舞ははっとして己が右手を見た。
近づこうとした足が止まり、触れようと伸ばした指先が凍りつく。
「ごめんなさい、私……」
今の自分では、いつまた力を暴走させてしまうか分からない。
触れることなどできはしないのだ。
青ざめていっそう白くなった舞に、藤城は優しく微笑みかけた。
「大丈夫です。分かっていますから」
何を、と藤城は言わなかった。
「あなたって……本物の馬鹿よ……」
舞は目を手で覆い、指の隙間からうめくように言った。
救いにするにはあまりにもささやかで、けれども、最後の望みを捨てずにいることはできるかもしれないと思わせるだけの言葉だった。
だから、せめて諦めずにいよう。
自分の歩むべき道が、さらなる深淵へと続いていないよう、祈ることだけは。




