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34.
真夜中、屋敷に戻った舞の蒼白な顔を見て、藤城は驚いて駆け寄ってきた。
「舞お嬢様。ご無事ですか」
肩に置かれた手を、舞は乱暴に払いのけた。
「萌様のところへ使いをやって。湯あみをしたらすぐに向かうと」
藤城は銀細工の懐中時計に目を落とす。
短針は一を指そうとしていた。
当主を夜中にたたき起こす無礼を、一体誰が引き受けるというのだろう。
藤城の困惑を察したのか、舞は皮肉な笑みを浮かべた。
「責任は全て私が取るわ。命令に逆らえば、竿斬りの化け物が暴れると言いなさい」
言い捨てると渡り廊下を進み、自室に備えつけられた大きな湯殿に足を踏み入れる。
服を脱ぎすて、大理石の磨き込まれた広い湯船につかった。
天窓から蒼く清らかな月の光が差し込み、舞の白い肢体を照らし出す。
くもり立つ湯気の中で、舞は右手を湯で洗い清め、何度も何度強く手をこすり合わせる。
肩が小刻みに震え、息を吐くたびに噛みしめた歯が鳴った。




