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「どこの組の回し者だ、お前」
舞はその、見当違いの質問に思わず笑った。
「中学では三年二組だったけど」
「おちょくりやがって。このクソアマが!」
阿部が顔を殴りつけようとして振り下ろした手を、舞は簡単に受け止めた。
淡々と、その手を折れるほど力を込めて握りしめる。
ぎゃっと阿部が悲鳴をあげた。
「日向野から盗んだ竿のありかを教えなさい」
阿部の顔色が変わる。
激しく抵抗したが、舞はがっちりと手を押さえつけたまま離さなかった。
凄まじい力に、阿部は恐怖と混乱を汗ばんだ顔に浮かべている。
「吐きなさい。吐かなければ、あなたの竿をもらう」
低い声で、静かに舞は脅す。
「知らない。俺は何も知らない!」
阿部は半泣きで言った。
「あなたは北山組の幹部でしょう。ならば私の能力も知っているはず」
「やめろ!やめてくれ!竿だけは、竿だけはやめてくれ!!」
「なら今すぐ言いなさい。竿を盗み出した人間と、その保管場所を」
「分かった、言う!ちゃんと話すから、頼む!離してくれ!」
情けなく懇願する阿部に、舞は手を離してやった。
そこに生じた一瞬の隙をついて、阿部は舞を突き飛ばして殴りかかる。
左頬をきわどくかすめて、拳が壁にめりこんだ。
飛んできた蹴りがサイドテーブルを倒してスタンドが割れる。
怒号を上げて振りかぶってくる阿部に、舞はひらりと舞い、攻撃を避けた。
足払いをかけ、倒れた阿部の上に馬乗りになって、
「これが最後通告。竿はどこ?答えなければ」
「死ね!化け物め!!」
その言葉に、舞の顔色は激変した。
そして、気づいたときには、
「ぎゃあああああああああああああああ!」
舞の左手には、阿部の竿が握られていた。
無我夢中でホテルを駆けだした舞の周りに、影が集まる。
深く広がる暗闇の中を走り続ける。出口の見えない、光のない道を。
この夜が悲劇の幕開けとなることを、一体誰が予測できたろう。
果てない迷走は始まったばかりだということを、彼女はまだ知らない。
【第三夜・終】




