32.
「今度店外デートしようよ。お店には内緒で」
耳元でささやかれ、舞は頷いたものの、胸がざらつくような違和感を覚えていた。
自分なりに阿部に好意を寄せる女を演じ、ホストに入れ込むふりをしてはみたが、手ごたえは全くなかった。
だが隣の阿部は、情熱的な目で舞を見上げ、両手を握りしめて離さない。
――これは、どういうことだろうか。
阿部の心境の変化を不思議に思いはしたものの、舞は予定通りデートを進めた。
阿部は女心を読むのが上手で、どうすれば女が喜ぶのか知りつくしていた。
夜になって阿部は当然のようにホテルに足を踏み入れた。
舞はさっさとシャワーを浴びるとバスローブに着がえ、ベッドで阿部を待った。
「お待たせ」
阿部は舞の隣に腰を下ろすと、肩に手を回して抱きすくめる。
そして、耳元で優しくささやき――
「あんた誰だ?」
突然顔つきが豹変し、あっけにとられた舞をベッドの上に押し倒した。
両手を押さえつけられ、舞は阿部の憎々しげな顔を冷静に見上げる。
「いきなり何するのよ」
「ふざけるな。お前が俺に惚れてないことくらい分かってるんだよ」
阿部の恫喝は低く、普通の女ならすくみあがって泣き出してしまうくらいの凄味があった。
「誰に言われた。何の目的があって俺に近づいた。ええ?」
「何のことか分からないわ」
「各務典子なんてやつは帝国生命保険会社にはいない。堂々と偽名を名乗っておいて、それでもシラを切るつもりか」
阿部は押さえつける力を強めた。




