10.
そして今宵も、夜の帳に蝶が舞う。
案の定、立明大学のサークルに入会してきた舞に、誰もがとりことなった。
ただそこにいるだけで、人目を惹きつけるだけの魔力が舞にはあった。
整った面差しは一見近寄りがたく感じられたが、一度彼女と言葉を交わせば、誰もが可憐な微笑みに魅了された。
清潔感があり、おしとやかで優しい。舞はそんな『吉岡香子』として完璧にふるまった。
舞の周りには砂糖にたかるアリのように男が群がった。
志田直人もご多分に漏れず、大輪の薔薇をたずさえてデートに現れた。
舞は素直に喜び、ほんの少し彼に隙を見せてやるだけで良かった。志田は舞い上がった。
二度目のデートの帰り、舞は難なく志田の一人暮らしのアパートへ上がり込むと、彼の胸に顔をうずめた。
興奮する志田をよそに、冷静に右手の調子を確認する。
志田は密着した状態のまま、肩から背中、背中から腰、腰から胸へと撫でまわした。
息を荒げて唇を寄せてきたとき、舞が囁いた。
「待って」
とろけるように甘い微笑みを浮かべ、舞は志田の股間に手を伸ばした。
「香子ちゃん」
我を忘れている志田は、頼んでもいないのに下着まで脱ぎ捨てた。
完全に無防備な状態で恍惚な表情をしている。
刹那、目にもとまらぬ速さで、舞の右手が鋭い手刀を放った。
志田の股間をあやまたず薙ぎ払い、ぐちゃりと果実がつぶれるような音が室内にこもる。
嵐の前の静寂。
時が止まった志田を前に、舞は立ち上がり、手袋をはめた左手で慎重に竿を取り上げると、黒塗りの小箱に入れた。
風のような速さで部屋を立ち去り、扉を閉める。
その途端、
「ぎゃあああああああ嗚呼アアアア!!!」
耳をつんざくような、志田の断末魔が響き渡った。




