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1.
――世の中には、死よりも惨いことがある。
闇の中、独り舞はたたずんでいた。
わずかな光もない、真の暗黒が全てを覆い尽くしている。
手を伸ばしてかき分けても、黒い霧はいっそう濃くなるばかり。
ぴちゃん、ぴちゃん、と液体が滴る音が響いた。
その間断ない水音だけを頼りに辺りを見回し、音のありかを探して歩き続ける。
不意に、水滴が額を濡らした。
それはつうと頬を滑り、足元へ落ち、闇の底に吸い込まれてゆく。
指先ですくいとり、口に含むと、どろりとした感触と鉄の味が口に広がった。
――水ではない。
忌み嫌うおぞましいもの。日の光の下で見ればきっと、鮮やかな緋色に違いない。
――これは……血だ。
意識がそう判じた途端、ぼとり、と頭上から何かが降ってきた。
ぼたり、ぼたり、と嫌な音を立てて雨のように降り注ぐ。
舞は恐ろしさと嫌悪に鳥肌を立て、半狂乱でそれを払いのけた。
それが何なのか、もう舞には分かっていた。
幾度も耳にした、世にも凄まじい断末魔と、恐ろしい怨嗟の声が鼓膜を突き刺す。
異臭を放ち、禍々しく存在を見せつけてくるその物体こそ、舞がこれまで狩り集めてきた――
「竿を返せ」




