第2節「お家をさがせ!」
新居に引っ越して2日目の私だ。また会ったな。
入居初日。よせば良かったものの、実家から持ってきた段ボールの開封をしてしまった。気がつけば午前3時を過ぎていた。
それから寝ようにも寝られなかった。そのはずだが朝から眠たくもなかった。実質1時間程度の睡眠だったように思うが……何とも恐ろしい話だな。そのうち1日中熟睡する日がくると信じよう。
さて、私の住む新居は1人暮らしにむいたマンションだ。アパートではない。マンションである(なぜ強調)。
そして勿体なくも8畳の広さを持つワンルームだ。しかも結構綺麗。なおかつ破格の家賃。このお家と出会えて本当にラッキーだと感じてやまない。
ここまで書くと「じゃあ見せなさい」と言われそうだが、私は私のお家を晒すような事はしたくない主義だ。この旨をわかって頂き、本エッセイにお付き合い頂きたい。ていうかそれが普通の感覚だと思いたいが……。
さて、今回はこの新居と巡り会えた経緯を語りたい。それは私が前回バイブス全開で語った「貯金」を貯めて戦場に向かった話になる。
戦場? このニュアンスがわからない者たちはさぞ多いだろう。
しかし私は言いたいのだ。新居探し(物件探し)とは即ち戦場であると。
私はある程度の敷金・礼金に耐えうる財を積み上げた。ただでさえ低収入だと言われる業界<そのくせめっちゃハードワーク>の仕事をしながらも、ある程度「貯金」という武装を身につけたのだ。これはいわゆる盾の装備である。
それでも普段の収入は他業界の皆さんと比べたら雀の涙と言って過言ではない。やはり劣悪な物件と巡りあっても仕方ないと覚悟を決めていた。敷金・礼金とかいう強烈な剣を貯金という盾で玉砕しても、その後も「生活費」というまぁまぁ地味に威力のある槍をガードしていかねばならないのだ。
それは相当な覚悟だった。もう3畳一間のボロアパートでも覚悟しよう。それぐらいの腹をきめていた。
私が最初に向かったのは地元で信頼している先輩から教わった古参な不動産屋だった。とても老獪な夫婦で人あたりも良い。
そしてそこで紹介頂いた物件はかなり衝撃的だった。
5~6畳ぐらいの部屋が3つもある超広大な物件だったからだ。しかも家賃がこれまた破格。ただ1つどうしようもない問題があった。
汚かった。トイレとお風呂が。しかもトイレは和式。傷んだ壁が奇妙な模様を描いていて、お世辞にも自分が使うイメージが湧かなかった。
笑顔で「前向きに考えます」とだけ言い残して、その不動産屋を去った。
私は考えた。最悪ならばそこに決めるしかないだろうと。
しかし私は特に幼少期、和式トイレでのイイ思い出がない……
私はやはり考えた。気がつけばそこへ勝手に私の自転車が向かっていたのだ。
懐かしき約4年前のことだ、私は広島でも大手とされる不動産仲介業者の店を訪ねたことがあった。あの時は「敷金・礼金」というものに志をへし折られたが、いまは違う。もうこれは運命のようであった――
約4年ぶりの来店、私に応じる職員は当時と違う職員だった。しかし彼は真摯かつ親身になって私の話を聞き、物件探しに協力してくれた。
すると2件も破格の物件があり、紹介を頂けた。
いずれもとっても綺麗。
だが2件のうち1件が「ある1点」につき劣る点があった。それをここで話すことはしないが、贅沢な悩みであったことに違いない。その1点を除いては凄く魅力的な物件ではあったからだ。
こうして今の新居を選択して決めたワケだが、やはりお部屋探しは不動産仲介業者とりわけ大手に限るのかなと感じてしまった。
そしてやはりこの選択の場は「戦場」だ。己の欲望と現実を見据えながらも、その葛藤のなかで戦果を見いだす。
今日は硬い話ばかりしているようだが、私としてはこれをゲームの喩えにしてすら構わないと思っている。人生で最も出資する機会にもなりうる住居探しだが、そのなかで得られる「思い出」もまた格別だ。楽しんでこそなんぼなのだ。
今日は良いお家と良い人が出会うことを願い、話を締めくくりたい。おやすみ。