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生き返り  作者: 夢島 空
9/21

第九話  現実 〜困惑〜

もう夕日も落ちかけ、あたりは夜に差し掛かっていた頃、下校生徒の数も徐々に減りタバコ屋までの道には街頭もつき始めた。いつもならこんなに遠くに感じなかったタバコ屋が、今は果てしなく遠くに感じる。私は足を止めることなく早歩きで歩いた。気持ちは走って行きたかった、しかし周りを気にしてか競歩のように向かった。

やっとのことでタバコ屋が目に入ると、そこには既に少年が立っていた。今日は野球帽をかぶっていない。しかも制服だ。

少年は向こうからやってくる私に気づくと、ぺこりと頭を少し下げた。

楽ラン姿の少年を見るのは初めてだ。


私と少年は目があったまま、お互い言葉をかけることなく距離を近づけた。

少年はこんなに背が高かったのだろうか。今まで気にかけていなかったが、実は私より背が高い。良く見ると喉仏も出ている。

私がゆっくりと近づいて行くと少年は言った。


「大丈夫っすか?」


少年の動く唇に目をやりながら


「うん・・・ごめんね。」


と、初めて素直に返事が出来た。

そのまま私は吸い込まれるように少年のそばに近寄った。すると少年は目の前に一枚の写真を出してきた。


「これ。」


「え?」


突然現実に戻されたように少年を見た。


「この写真。タカヒロって人写ってるよ。」


私は視点を少年から少年の手に移すと、一枚の白黒写真が見えた。そしてその写真を手に取り見ると、そこにはあの明治丸と若い男性が互いに肩を組んで船の前に映っていた。


タカヒロさん。


そう、そこには紛れもなく満面の笑顔のタカヒロがいたのだ。


「この人があんたの親戚のおじさんなの?」


私は言葉を失いながら写真を見つめ、少年の方に顔を上げると、自然と涙が目から零れ落ちてきた。そんな私を見て少年も言葉を失った。


「タカヒロさん・・・」


「え?」


瞬き一つせずに少年を見つめる。


「タカヒロさんだぁ。」


がくんと地面に膝をつき、少年の目の前でうずくまった。写真をぎゅっと胸に押し当て、体が小刻みに震えだした。

私の異変に少年は動揺しながら、同じく肩膝を地面につけて私の肩にそっと手を置いた。


「だ、大丈夫っすか?」


私はとうとう現実に夢の中のタカヒロが存在していることを確信した。そしてこのタカヒロと目の前の少年が関係があることも感じ、体が自然と恐怖を感じた。

少年は何も答えない私に無理強いすることもなく、じっと丸まっている私をただ見つめていた。そして私はゆっくりと顔を上げ、少年の心配そうな顔を見ると自然と口から言葉が飛び出した。


「あなたはタカヒロさんの生まれ変わりなの?」


一瞬で時が止まったかのようだった。

少年は目をまん丸くさせ、私の涙でぐしょぐしょになった顔をまじまじと見た。


「なにそれ・・・?」


「タカヒロさんなの?」


驚いた少年の言葉も省みず、私は聞いた。


「ねぇ。タカヒロさんなの?ねぇ!私!サヨだよ!」


両膝を地面につけながら訴える私を、気でも狂ったのでないか、と見つめる少年は何も言葉を発さなかった。二人の間の空気がまるで止まっているかのように、二人はただ見つめあいお互いを探りあっているようだった。


「んだよそれ。」


少年は吐き捨てるようにそう言うと、すっと立ち上がった。


「何でサヨって知ってんの?」


「え?」


下から見上げるように少年を見た。少年は遠くの方を一回見て、もう一度私に目をやると怒っているような口ぶりで言った。


「あんた何者?」


「え?どういうこと?私はただタカヒロさんって人の事を知り・・」


「俺のばあちゃんだよ。」


「え?」


私は言葉を打ち切るように少年は言い、私を上から見下ろして続けた。


「サヨは俺のばあちゃんの名前だよ。何で知ってんの?」


私は答える言葉が見つからず、少年を見上げた。

混乱だ。

サヨはこの少年のおばあちゃん?

じゃあサヨが結婚したのはタカヒロさんじゃないの?

目の前が真っ白になったようだった。私はぽかんと少年を見上げて聞いた。


「じゃあタカヒロさんは・・・?」


涙が頬に流れ止まらない。現実に存在した私の運命の人は、運命の人じゃなかったのだろうか。あまりにも状況が早く流れすぎて飲み込めない。あんなに愛し合っていたのに結婚していないの?じゃああの夢の先は別れなの?そんな事をぐるぐると考えていると、少年は哀れそうな表情で私を見つめ、もう一度肩膝を着いて私の目線に合わせて言った。


「よくしらねぇけど、その人は戦死したんだってよ。だからタカヒロって人は町の英雄だった んだって聞いた事あるよ。」


戦死・・・・・?


タカヒロは戦死したの?じゃあサヨはタカヒロが戦死したから他の人と結婚したの?私の脳みそが音を立てて回った。タカヒロのあの笑顔が脳裏に映った。私は状況の飲み込めないまま、握った写真を持って走り出した。


「おいっ!ちょっ!!」


驚く少年を振り切り走った。

走って、走って、走った。


タカヒロが、あのタカヒロさんが戦死したなんて。そしてサヨがタカヒロを裏切って他の人と結婚し、そのタカヒロの生まれ変わりと思われる少年が私の前に現われたなんて。


いろいろなことがいっぺんに襲ってきた。私は勢いよく道を駆け抜け、家の扉を大きな音を立てて開けると部屋まで階段を疾走した。そしてベットの上に倒れるように飛び込んだ。手にはぐしゃぐしゃになった写真を握ったまま、たくさんのことを考えすぎたせいか目が回るように、そのまま私の意識は遠のいていった。





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