第二十一話 おかえり
けんじの思い出の土地から帰る道のりは、なんだか心寂しく感じてし方がなかった。
きっとけんじも同じ気持ちだったと思う。
行きのときよりも長く感じたのも、けんじが何度も何度も振り返っては止まり、振り返っては止まり、を繰り返していたからだろう。
けんじの中でこの場所は本当にかけがえのない場所だったのだ。
「けんじ・・・」
小さく前に歩いては後ろを振り向いて、前世の彼女を思い出しているけんじに小さく声をかけたが、けんじには全く私の声は聞こえていない。
時にはため息交じりで後ろを振り向いた。
そして私達は言葉という言葉は交わさないまま、運転手さんの待つ駐車場にたどり着いた。
行きの時には目を奪われた壮大な景色も、今じゃけんじにとって前世に彼女と過ごした景色となり、より一層彼女への想いを募らせているようだった。
「どうでした?」
片言交じりで運転手さんが陽気に私達に尋ねた。
「えっと、すごかったです!」
けんじの方をちらりと見ると視線は未だにペレの腰掛を見ている。
そして突然何を思いついたのか運転席に顔を出して聞いた。
「あの!どこか前世とか見える人がいるって聞いたんですけど
分かりますか?」
「え?けんじ!何言ってるの?」
私は驚きながらけんじの腕を引っ張った。
「俺サイトで見たんだよ!
ハワイのどっかで名前はえっとわかんないけど前世が見える人がいるって!」
「カムイばぁさんのことかい?」
私達はいっせいに運転席に目をやった。
すると運転手さんは別人のように冷静に説明をしだした。
「お兄さんが言ってるのはきっとカムイばぁさんだよ。
今は田舎の方に一人で住んでて占いをやっているは分からない。
お兄ちゃん、前世が知りたいのかい?」
「はい!カムイばぁさんってどこにいらっしゃるんですか?!」
食いつくようにけんじは聞いた。
すると運転手さんは少し黙り込み、ちょうど横断歩道が赤になったところで後ろを振り向いて言った。
「明日、予定を入れてなければ連れてってあげますよ。
明日もこのシャトルバスを予約しておきます。」
「本当ですか!?お願いします!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
あまりにも盛り上がる二人に割って入った私。
二人の目線がいっせいに私に降りかかる。
そしてけんじの腕をぐいっとひっぱり、小声で言った。
「ちょっと、話が上手すぎると思わない?
しかもシャトルバスまで前日に予約できるなんてさ。
怪しいよ。」
するとけんじは私の両肩を両手で掴み、まっすぐに私を見た。
もうこの時点でけんじの気持ちが伝わってきた。
「俺は引き寄せられてるとしか思えないんだ。」
別れ話をしたときに見せた真剣な表情は私の心をズキンと痛めた。
「きっと俺には知らなきゃいけない過去があるんだと思う。
この運転手さんを信じたいんだ。」
そのまま私は何も言えずに運転席に目をやると、車内ミラーで運転手と目が合った。そして私にニコリと笑いかけた。
「大丈夫ですよ。
私は嘘はつきませんから。」
そして私達はまた無言のまま、ホテルへとシャトルバスは向かった。
このときの広大な自然がけんじの帰りを待っていたかのように、素晴らしい天候の中、私達はペレの腰掛を後にした。