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生き返り  作者: 夢島 空
2/21

第二話  夢

いつも通りの放課後、けんじの部活が終わるのを待とうと図書室に向かった。

私の学校は県立の中々頭のいい学校で、80年の歴史を持ち今では入学が難しくなっている程だった。以前は男子限定の学校だったらしいが、それはとうの昔の話で20年ほど前から共学に変わり、今では全校生徒占めて800人以上いる大きな学校だ。

特に伝統ある図書室には力を入れていて、私もけんじを待っている間はよく利用させてもらっていた。


この日もいつものように図書室の静かな雰囲気の中、サッカー場が見える窓際の席に座り、以前から読み続けていた”恋愛小説”に夢中になっていた。

この恋愛小説は海外のとあるお姫様とその家来の禁じられた恋の物語で、嫉妬や恨み、そして裏切りなど様々な汚い人間模様が繰り広げられている。この中のお姫様はかなりの美形で他の国々の王子様達が我こそは姫の夫に、とあの手この手で贈り物やライバルに罠を仕掛けたりなど必死で抗争をしている中、一番近くで常に姫を守っていた一人の家来にお姫様は心を奪われてしまうのだ。

とうとう今回が最終章、地位の違うお姫様と家来は果たして結ばれるのか、わくわくしながら読み進めていった。30分程経っただろうかサッカー場には人が全く見えなくなり、図書室の中も受験生以外は帰宅してしまったようだ。そんな中私は最終章に涙し読みふけっていた時、携帯のバイブが振動した。


”今どこ?図書室?今着替えてるから校門で待ってて”


けんじだ。

そろそろ行かなくてはいけないのに、どうしても最後のクライマックスが知りたくて仕方がなかったので今回は借りていくことにした。本の一番最後のページにある図書カードに名前と学年とクラスを書き、図書委員に提出した。私の前には誰も借りていないようだ。こんない面白い本なのになんで皆借りないのだろう、と不思議に思いながらも図書カードに承諾のはんこを貰いバックの中に詰め込んだ。


校門に向かうとけんじが既に待っていて、泥だらけになったユニホームがバックの中から顔をだしていた。


”けんじ!”


私の声のするほうに顔を向け満面の笑顔で答えるけんじ。この人の彼女でよかったと思う瞬間だ。

私の家とけんじの家は同じ方向で、歩いて20分もかからないくらいのところに私の家があり、その10分ほど先に行くとけんじの家があった。

毎日一緒に登校し下校し、クラスも一緒の私たちだったが二人きりになると長い間会っていなかったかのように寄り添い、その日の出来事を話し笑い合った。その時だった。またけんじが夢の話を話し出した。


「また続きをみたんだよ。」


「彼女の顔がわかったの?」


さっきまで笑っていたけんじの顔が暗くにごった。


「どうしたの?」


けんじの雰囲気を察し、顔を覗き込むように聞くとけんじはこう続けた。


「今まで海に立っていた男は俺かと思ってたんだけど、見た目は全然違うんだ。

 でも中身は俺でさ。

 この間の続き、って言うよりももっと昔のように感じたな。

 彼女と俺が一緒に森の中にいるんだ。彼女は赤と白の模様の入ったワンピースを着てて

 俺は彼女に拾った花をあげたんだ。

 そしたら彼女は俺に動物の骨かなんかで作られた、釣りとかで使うような先端の形の白いや

 つを俺にくれたんだけどさ。そ

 その時どこからか槍みたいなのが飛んできて、俺が怪我をするんだよね。

 それがさ・・・左の手の甲なんだよね。」


その時私はけんじの左手に目を向けた。

そう。付き合い当初からけんじは子供の頃から左の手の甲に切り傷があって、両親に聞いても昔からだから分からないと言われていたことを思い出した。

私は黙ったままけんじを見つめ、けんじは私を一度見てから話を続けた。


「その後森の中から一人のでかい男が来てさ、やっぱり訳の分からない言葉を話すんだ。

 彼女は泣き出すし、俺の左手からは血が吹き出てくるし。

 でも不思議とそいつを倒してやろうって気持ちにはならないんだけどさ、そのまま男が彼女 の手を引っ張って森の中に消えちゃったんだ。」


私はもう一度けんじの左手を見て、触った。


「この傷と一緒なんだ?」


けんじも自分の左手をじっと見て、不思議そうな顔で私に言った。


「俺さ、なんか知ってる気がするんだよね。夢の場面。」


「ハワイって事?」


今まで一度も海外なんて行った事なかった私は正直ハワイの絵葉書がどういったものかすら創造がつかず、ただ大きな山がダイアモンドヘッドでその横に海が広がってるって事くらいしか分からなかった。たぶんけんじもそうだろう。それでもけんじは自分がハワイを知っている気がしてならないと真剣に訴えた。


「まいは?」


「え?」


「まいは夢見ないの?これ買ってから。」


携帯につけたストラップを目の前に出し、私の顔を覗いた。私も”運命の人”について話してみようという気持ちになり、子供の頃からいつもみる同じ夢の話をけんじにしてみた。

するとけんじは、どこの場所なのか、どこの誰なのか、もしかしたら不思議な夢をみさせるストラップなのではないかと、いろいろ詮索してみたが、結局のところ何の証拠もなければ実際ハワイに行って調べようという気持ちにもならなかった。

そして私の家が目前になったとき、けんじが言った。


「前世・・・かな?」


前世?私の?けんじの?前世があるなんて考えたこともなかったし、何より興味もなかった。私は立ち止まりけんじの顔を見つめると、けんじが決して冗談で言っていないことが分かり少し怖くなった。もしこのままけんじがこの夢を見続けて、彼女の顔が見えたとき、けんじも彼女が運命の人だと思い込み私たちは終わってしまうのではないだろうか。そんな事を考えたら少し嫌な気落ちがこみ上げてきた。

それと同時に笑顔をつくり


「そんな訳ないよ!夢だよ夢。考えすぎだって。」


とあるはずもない夢の幻像に嫉妬心を覚えてしまった。

そうだよな、とけんじも笑って私にキスをし、その後ろ姿を目で追った。


前世。

私の夢もそうなのかな。あのいつも私を待っててくれているあの”運命の人”はこれから出会う人ではなく、前世で会った人なのだろうか。そうしたら”運命の人”ではなく”運命だった人”になっていしまい、少しだけ寂しい気持ちにもなった。



その夜、私もまたあの不思議な夢を見た。しかも今まで同じ画面だったのに、けんじと話をしたせいか全く違う場面の夢だった。


違う場所なのに、やっぱり私は真っ白なワンピースを着ていて、どこかの古い家の中で全身鏡の前でどの帽子がいいかと一人ファッションショーをしている様子だった。

見た目は私より随分年上だったことが分かり、たぶん20歳は超えているだろうという感じだ。栗色の髪の毛が背中まであって、白いワンピースが良く似合う美人みたいだ。

全く見た目は違うのに、けんじと同じくこの女性が私なんだと自覚があった。しかし今回違うことは、今の私の意識がちゃんとあり第三者として、この映像の中に存在しているような感じだった。

もちろんさよには私の事は見えていないが、私はスクリーンの中にいるように見えた。

さよは何かに焦っているようで、他の部屋から人の声がすると急いで帽子を隠したりと、不可解な行動をしていた。

その時下から彼女を呼ぶ声がした。


「サヨ。電話よ。」


サヨ?今しっかり『サヨ』と呼ばれ、その声に反応してさよは木造の二階建ての階段を駆け下りた。

不思議なことにさよが電話に駆け寄るまでの心の喜びが自分のことのように感じて、電話の相手はあの”運命の人”だとさえ確信が持てた。はやる気持ちを抑えて冷静さを保ち受話器を握る。


「もしもし?」


電話の声も手に取るように聞こえる。その低い懐かしい声が耳元に響くだけで私の心が、もとい、サヨの心が高鳴るのがわかった。


「もしもし、タカヒロさん?」


タカヒロ?

初めて聞く名前だ。


「今夜いつもの場所で待ってるよ。君の欲しがっていたあの時計が手にはいったんだ。

 すぐにでも君に渡したくてさ。」


「本当に!?」


サヨの顔がまた笑顔に溢れ、真っ白な頬が薄ピンクに染まった。

時計?なんのことだろう。

特別これと言って時計を持っているわけではない。部屋の壁にかかっている丸いキャラクターの時計?それともお母さんからたまに借りるブランドの時計?そんな事を夢のスクリーン上で自問自答していると、突然場面が変わったかのように大きなお屋敷のような部屋に移った。

赤い絨毯が真っ白な床いっぱいに敷き詰めてあり、机も椅子もみんな大理石か何かで作られているようでピカピカに輝いていた。

その中でも高級そうな金と銀の刺繍でできた大きなソファーに腰掛けながら、これまた高そうなガラスでできた受話器を握って話している男性の後ろ姿が見えた。


タカヒロだ。

私は直感的にそう思った。しかし彼もまた私の存在には気づいてはいない。


私の胸が高鳴った。だってとうとう私の”運命の人”の顔が分かるんだ。高鳴る胸を抑えながらタカヒロに近づく。

タカヒロは変わらずサヨとの会話を楽しんでいる。


”この人が私の運命の人だ・・・”



あと少し、あと少し・・・・・



その時、いつもの私を呼ぶ声が天井から響いた。


「まい、まい!!起きなさい!遅刻よ。」


目を開けるとそこにはまた、いつもの天井が見える。あと少しだったのに、と母に嫌悪感を多少感じながら朝の忙しい時間に突入した。


今ゆっくりと夢の中を思い出してみても、彼の後姿や雰囲気など全く見覚えがなく、タカヒロって名前すら私の周りにはいない。それでも今までとは全く違う内容の夢を見れたことに多少興奮していた。今日さっそくけんじに話して見よう。

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