第十九話 出発
夏休みもとうとう半ばに差し掛かる頃、私はただけんじと行くハワイでの旅行の準備をし、少年隆弘とはアレ以来ずっと連絡を絶っていた。
理由は正直分からない。ただなんとなく避けるようになってしまった。
そして今度はけんじが夢の彼女への真実の追究を始めると、私は焼もちさえやくようになってしまった。
知りたいはずなのに、知りたくなくなってきてしまった、このわがままな女心を誰がわかろうか。
そしてついにハワイへの出発となった。
その日は早朝からバスに乗り込み3時間ほどかけて空港に向かった。けんじとは朝メールで話したきり空港で待ち合わせすることにした。二人で旅行という旅行はしたことがなかったので、正直ワクワクしていたし、海外旅行なんて人生でも初めてでパスポートの事や、旅行カバンなど映画の主人公になったようで、こんな熱い天候の中、格好つけて紫色のお洒落なスカーフなど巻いてしまった。
旅行カバンは少し奮発して皮でできた茶色いキャリーバックを調達して、背中まで伸びた黒い髪をウチマキにカールした。
空港は多くの人に溢れかえっていて、バス停には日本人以外に外人もたくさんいて既に海外にいるような気分になった。
斜めにかけたバックの中に携帯とチケット、お財布など貴重品を入れ、けんじの姿を探した。
探さなくてもけんじの背中は大きな電光掲示板の前に現れた。
ダメージジーンズに色の落ちた古着のTシャツを着て、ブルーの大きなキャリーバックに体をもたげて掲示板を眺めていたけんじは、映画の俳優さんのように見えた。
少し伸びた襟足が余計に男らしく見えた。
「けんじ」
私の声に反応すると、けんじは驚いて振り向いて言った。
「びっくりした。今着いたとこだよ。」
右手に作りたてのパスポートとチケットを握り締めて、けんじも海外旅行に胸をときめかしている様子だ。
「とりあえず、何か食べる?」
お互い緊張しているのを隠しながら、私は平静を装って聞いた。
「先に荷物預けちゃおうよ。そのあと何か食べよ。」
「うん。」
そして私達は長い列の中に加わり、慣れない荷物検査に四苦八苦し、無事搭乗口へとたどり着いた。ご飯もなんだか喉を通らず、二人とも旅行のことに触れることなく、けんじの夢の事も食事中は触れなかった。
何時間経っただろう、とうとう搭乗時間が近づき飛行機に乗り込んだ。当たり前のように二人隣同士に座ると、わくわくする気持ちともう後戻りできないって気持ちが入り混じり黙りこくってしまった。
すると緊張の糸を解くようにけんじが言葉を発した。
「あのさ・・・。」
私はけんじを横目で見た。けんじは前をずっと見つめ、私に目を向けると真剣な目で言った。
「初旅行だけど、楽しもうな。」
そしてけんじは笑顔を作った。
私はけんじの言葉と様子を察すると笑顔を作って「うん。」と返した。
そして私達の飛行機は空港を出た。
憧れの土地ハワイ。そしてけんじの前世の故郷ハワイ。
私とけんじがハワイで運命が変わってしまうことは、まだこの時は知らなかった。