第十七話 ハワイ
けんじとお揃いで買ったパワーストーンのストラップ。
それから私達は互いに不思議な夢を見始め、そして真実を知ろうと私はけんじとの別れを決め、少年と前世の繋がりを確かに感じた。
それなのに今はけんじの夢について知りたくなった。
勝手なことも分かってる。私から別れを告げておいて、けんじの夢の事実を探りたいからハワイに一緒に行こう、だなんて普通の高校生カップルはしないだろうし、現に私達はカップルではない訳で、何とも奇妙な話だ。
少年とはアレ以来全く話していない。少年から一度”大丈夫?”とメールが来たが、何故だか私の中で前世を知ってしまった途端、何かが弾けてしまったような気になってしまい少年には”大丈夫、少し考えたい。”とだけ返信した。それ以来少年からも連絡が来ていない。
そして不思議なことにアレ以来、私は夢を見なかった。
夢の事実に近づけば近づく程、少年と隆弘さんと思い、正直恋をし始めていたと思う。しかし事実が分かった途端、なんだか心に達成感と安心感が出てしまった。
何て言えばいいのだろう・・・。
”やっと見つけた”そんな感じだろうか。
そして今度はけんじの夢の事実を突き止めたくて仕方がなかった。ううん、突き止めるのが、けんじの為なんだと思った。
そして私はけんじの部活の日程と、親の大反対を押し切って夏休みにハワイ行きを決行した。
そんなある日の夜の事、私はまたけんじへと電話をかけた。
「けんじの夢の女性の名前は何なの?」
「確か・・・アネラとか呼んでた気がする。」
「けんじの名前は?」
「イサナ・・・とか言ってた。」
不思議な名前。けんじと電話中にノートパソコンで名前の検索をしてみると、ハワイ語の意味のページにリンクした。
「あっ、あった。アネラ。ハワイ語で”天使”って意味だって。
やっぱりハワイなんだ。」
お互いハワイに行ったことがないのに、けんじの前世は完全にハワイ何だと確信できた。
「えっと、イサナ、イサナ・・・クジラの古称だって!ははは、けんじ鯨だ!」
私が電話越しでパソコンの画面を見ながら笑うと、けんじも一緒になって笑った。
久しぶりに感じた二人の空気をお互い察して私は急いで話題を変えてみた。
「ところで、けんじの夢を全部聞いたことなかったけど、今どのくらい分かってるの?」
「彼女の名前と俺の名前。あと最初に見た夢の場所は絵葉書によくある画面で
ほら、なんて言ったっけ?あのでっかい有名な山。」
「ダイヤモンドヘッド?」
「そうそう。確かに俺達はいつもあの山の中で隠れて会ってたんだけど俺達は一度婚約したんだよ。」
「え?」
椅子にもたげていた背中を起き上がらせて、この話に食いついた。
「法的にじゃないみたいだけど、誓い?ってやつ。
それがどうもかなり山から離れたところでさ。
違う山なんだけど、ずっと奥に進むとでっかい岩が頭上にあって、その岩の形が椅子みたい になってるんだよね。
そこは俺達にとってすげぇ神聖なところで、その岩のふもとの岩に囲まれた海辺で俺達は
永遠の愛を誓ったんだ。」
やけにけんじが事細かに場所の説明をするので、私は返す言葉が見つからないままパソコンの画面をもう一度開いた。
”椅子の形の岩”で検索すると何件か情報があった。
「けんじ、何件かヒットしたよ。椅子の形の岩。”
「どこ?場所分かる?」
「う・・・ん。どこだろう。
質問掲示板とかに出してみようか?」
そして携帯を肩と耳の間に挟み簡単な質問掲示板に書き込みを始めた。
『今度ハワイに旅行に行こうと思ってます(^^)
椅子の形をした岩があるって聞いたのですが、知ってる方、情報ください☆』
何とも可愛い質問でしょ。
とにかく私達がハワイに行く目的は旅行でも遊びでもない。ホテルの部屋だって別々に取ったし、3泊5日の短いハードスケジュールなんだから少しでも多くの情報が欲しい。
「他にはない?思い当たる場所とか。」
「うーん。あとは男達に追われた時に奴らは”俺らはアイリだ”とかいってた。
民族の名前かな?
でもさ、不思議なんだけど俺達は言葉が得意じゃないみたいでさ、読み書きはしないで絵み たいな暗号で会話するんだよ。」
「それって重要な話じゃない!なんで黙ってたの!?」
聞いた瞬間、まずいと感じたが私が次の言葉を発する前にけんじが小さくいった。
「言えた状況かよ。」
ごもっとも。
「と、とにかくアイリね。えっと・・・アイリ、アイリ。あっヒット。」
「何?」
「アイリはハワイの歴史では(王族)を意味するみたい。アリイ(王族)・カフナ(神官)・ マカアイナナ(平民)・カウバ(奴隷)って書いてあるよ。」
「カウバ!?今カウバって言った?」
けんじの声が一段と大きくなった。
「う、うん。どうした?聞き覚えあった?」
「俺の事を奴らはカウバって呼んでたんだよ!!」
「えぇ!けんじ奴隷だったの!?でもどうやって王族の子と恋に落ちれたの?」
すると一瞬けんじは黙った。
なんだか夢を思い出しているようで、けんじが今部屋のベットの上に寝転んで電話をしている姿が目に浮かんだ。
「彼女と出会ったときの夢は、実は一番よく見るんだ。
だからはっきり覚えてる。」
そしてけんじはいつもよりかしこまったように、続けた。